追い付いてきた援軍
「王宮の女官はすべてこちら側です。あなたに従う者は下働きひとりだっていません、そんな状態でどんなおもてなしをするんです」
「手際の悪い者を何人集めても、意味はないわ。そちらのかわいらしい侍女がいれば十分ことたります」
言外に無能はいらないと断じて、タニアがほほ笑む。
さすが、クリスティーヌの母親と一緒に何年も王妃と戦ってきた乳母。所詮若手のローゼリアとは格が違う。
「で、では! せめて私どもで用意した衣類や化粧品をお持ちください!」
「結構よ。あなた方の都合であつらえたドレスなんて、姫様方の体にあわないもの」
そもそも全部毒まみれだしね。
受け取っておいて使わないって手もあるけど、『いいドレスでしょ?』なんて使用感を聞かれたら返答に困る。そもそも受け取らないほうがいいだろう。
「建物があっても、生活用品をそろえなくては、暮らすことはできませんわ」
「そちらについては、お気遣いなく」
今度答えたのはマリィお姉さまだ。
「もうそろそろ、援軍が到着する予定ですので。ああ……来たわね」
お姉さまは自分が来た方向を振り返った。奥からまたひとり走ってくる人物がいる。
女子制服を着たその少女の姿には見覚えがあった。見覚えどころじゃない、つい昨日まで一緒に過ごしていた友達だ。
「はあ……はあ……お待たせしました。どうして、全員……こんな奥で話し込んでるん……ですか……!」
「なりゆき?」
「あなたのなりゆきは、紆余曲折がありすぎなのよ! あああもう、また変な格好してるし!」
友達はいつも通り鋭くツッこんでくる。こうやってツンツンしながら心配してくれるところがかわいいんだよね。
ローゼリアはライラを冷たく見据えた。
「彼女があなたの言う援軍ですか? 下働きがひとり増えたところで、状況は変わりませんよ」
「ライラ、私がお願いしたことは?」
マリィお姉さまは、ローゼリアの言葉を無視してライラに声をかける。
「すべて整えました。シュゼット姫、クリスティーヌ姫、リリアーナ様三人すべての日用品と食料と衣類を離宮に納品完了しております」
「姫君の仕度を? あなたが? なぜ!」
動揺するローゼリアに、ライラは礼儀正しくお辞儀した。
「申し遅れました、私はライラ・リッキネン。しがない商人の娘にございます。このたびは、親しい友人として、姫様方の身の回りの品をご用意させていただきました」
ライラの実家、リッキネン商会は北の流通を一手に引き受ける国内最大手商会のうちのひとつである。しがないどころの話じゃない。
災害で混乱する王都で、高位貴族用の衣装をそろえようと思ったら、大規模の商会の協力が必要だろう。だとしても。
「今朝まで私たちと一緒にいなかった?」
「だから、最初の馬車で家に送ってもらったのよ」
そういえば、第一便にライラが乗り込むのを見かけた気がする。
え? もうその時点から今回の計画は始まってたの?
「ヒト、モノ、場所、全部そろいましたわね」
タニアがにっこり笑った。反論をすべて封じられたローゼリアは黙るしかない。
私たちは優秀な乳母について、その場をあとにした。
「クソゲー悪役令嬢」がネット小説大賞、セカンドチャンス賞を受賞しました!
マイクロマガジン様より、コミカライズされます!!!!
いつも応援ありがとうございます!
コミック版クソゲー悪役令嬢も、お楽しみに!





