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チートアイテムは黒歴史の香り

「うあああああああどうしよおおおおおお」


 両親と兄、メイドが去ったあと、私は淑女らしさをかなぐり捨ててベッドの上でのたうち回った。世界を救うために幼少期から活動しようと思ったら、いきなり人間関係でつまずいていた。

 この状況、どうしろっていうの!


「あれでしょ? 銀髪の男の子っていったら、騎士キャラポジのシルヴァン・クレイモアでしょ? 貴重なバトルキャラに初対面で嫌われてどうするのよ」

「大変ですねえ」

「金髪の王子様って、比喩表現じゃなくてマジものの王家の跡取り息子じゃない。誰にでも平等に対応する、いつも優しい良い子に同席を拒否られるって、何やったのよ」

「ふんぞり返ってたからでしょうかね?」

「それに、泣きボクロのおにいさんって、大人クーデレポジの宰相、フランドール・ミセリコルデじゃん。多分まだ宰相にはなってないと思うけど……ああいうタイプは一度嫌われると挽回するのがめちゃくちゃ難しいんだってば」

「へえ、そうなんですね」

「しかも、魔法使い教師ポジの兄貴には、死ねばいいなんて言われる始末だし……もうこの時点でほぼほぼ詰んでる気がする」

「うーん、そう言われましても、私の力では小夜子さんの意識をこれ以上過去に送ることはできませんしねえ」

「どうにかならないの……って、メイ姉ちゃん?」


 私はがばっと体を起こした。

 そこにはパーカー姿のメイ姉ちゃんが立っていた。


「帰ったんじゃなかったの?」

「ひとつ、忘れ物があったので戻ってきました。はい、これどうぞ」


 メイ姉ちゃんは私に一冊の本を差し出した。

 革張りの装丁の、立派な本だ。でも、その表紙には『攻略本』と思いっきり漢字がデザインされている。開いてみると、中には日本語でこの世界の成り立ちやキャラの来歴、事件の真相といった細かい情報がびっしり書かれていた。

 文字通りの攻略本だ。


「厄災が本格化するのは5年後。その時期まで細かい人間関係を全部記憶するのは難しいでしょう? なので、参考資料としてこの本をプレゼントします」

「マジで? いいの?」


 プレイ済みのゲームの内容を5年も覚え続けるのは大変だ。

 特に、あのゲームは伏線やらフラグやらが複雑に入り組んでいたので、余計大変だ。いつでも確認できる資料があるのはありがたい。


「でも、気を付けてくださいね。その攻略本の内容は、私がゲームを作成するときに観測した5年後の未来を起点にしています。あなたが未来を変えようと動けばその分、攻略本の情報と離れていきますよ」

「自動で書き換わったりしないの?」

「うーん、私の力は聖女が覚醒する5年後を起点にしないと動かせないので……」

「女神の力もいろいろ制約があるんだね?」

「やろうと思えばいろいろできなくはないのですが……世界に干渉し続けた結果、星ひとつ丸ごと腐敗して滅んだことがあって、過度に干渉しないよう創造神様に止められているんですよ」

「おおう」


 過干渉で世界を滅ぼすとか、本当に世界を導く才能がないんだな……メイ姉ちゃん。


「というわけで、この世界に対して私ができることは、小夜子さんをこの世に送り込むことと、この本を与えることのふたつくらい、と決めてるんです」


 メイ姉ちゃんは困ったように笑った。


「わかった。なんとかしてみるよ」


 私は攻略本をぽんと叩いた。私の行動で内容が食い違っていくとはいえ、これはものすごく強力な予言書だ。使いようによってはとんでもないチート武器になる。


「とりあえずこれはどこかに隠しておいたほうがいいのかな?」


 日本語で書かれてはいるけど、ところどころ地図やキャライラストが入っていて、一目で異質なものだとわかる。誰かに見られたら大変だ。

 そう言うとメイ姉ちゃんはにこっといい笑顔で笑った。


「安心してください! 目くらましの魔法をかけておきましたから。小夜子さん以外には、装飾過多なポエムが書き綴られた日記帳にしか見えません。誰かが中をちらっと見たとしても、ほほえましい気持ちで元に戻しておいてくれるはずですよ!」

「メイ姉ちゃん、そういうとこやぞ」

「はい?」


 この女神、気遣いのポイントがことごとくズレてるんだよなあ。


「はあ……見た目はともかく、チートアイテムが手に入ったことだし、兄様をなんとかしてみるか」

「まずはお兄さんの対応ですか?」

「家の中の問題をどうにかしないと、他人のことまで関われないよ。特に、アルヴィン兄様は時限爆弾キャラだし」

「何なんですか、その物騒なニックネーム」


 私は攻略本の兄のページを開いた。




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