悪役令嬢は従者をゲットした
魔法の先生をゲットしたはずなのに、全然授業が始まりません!
「なんでー!」
「授業で使う本やら薬草やら、もろもろ手配しなくちゃいけねえんだよ! ぶっちゃけると、そもそも雇われると思ってなかったから、手持ちの教材がほとんどねえ」
「そういえば、秒で帰ろうとしてたもんね」
「できるだけ早く準備するから、ちょっとだけ待ってくれ」
「はーい」
そう言うと、ディッツは授業体制について、クライヴと大人の話を始める。態度は砕けているけど、指導は真面目にやってくれるようだ。
「あああああの、お、お師匠、ボクもお仕事、したい」
事務的なやりとりをしているディッツの服の裾をジェイドが引っ張った。
「と言ってもなあ、魔法を学ぶ以外にお前にやってもらう仕事はねえぞ」
「で、でも……ボク、元気に、なったから。少しでも、おお、お役に立ちたい」
「子供は勉強と遊びが仕事だ。無理すんな」
ディッツはそう言って、ジェイドの頭をくしゃくしゃとなでる。ジェイドは残念そうな顔で俯いた。
庶民以下は子供でも働かないと生きていけないこの世界で、弟子に勉強してろって言い切っちゃうディッツは、すごーくいい保護者だと思う。
うーん……でもなあ……。
ジェイドの事情をゲームを通してしか知らない私には、その病気がどれくらい重かったのか、詳しいことはわからない。でも、ジェイドはジェイドなりに、人の役に立ちたいって思いながら生きてきたんじゃないのかな。一年中ベッドの中にいた小夜子も、同じようなことを考えていたし。
せっかくのやる気を、保護を理由に切って捨てるのはちょっとかわいそうな気がする。
「ねえジェイド、お仕事がしたいなら、私の従者にならない?」
「じゅ、従者? なに、それ?」
「私のそばについて、お世話をする係よ。私の代わりにドアをあけたり、お茶を入れたりするのがお仕事なの。魔法のお勉強も手伝ってくれると嬉しいわ」
「お嬢様、何を言い出すんですか」
私の提案を耳ざとく聞きつけたクライヴの顔がまた引きつる。
「だってー、もう10歳にもなるのに、専属の従者がいないじゃない? ジェイドなら見た目もいいし、ちょうどいいかなって思うんだけど」
ちなみに、専属の従者やメイドがいないのは、半年ほど前まで手の付けられないワガママ娘だったからだ。その後、私にもいろいろ思う所があり、自分から従者を指定するようなことはしてなかったんだけど。ジェイドは、この世界で貴重な信用のおける人材だ。できるだけそばにいてもらいたい。
「お嬢様、ハルバード家に仕える従者には高度な教養が必要とされます。つい先日まで病気に臥せっていた流れ者には、少々難しいかと」
「大丈夫よ! 足りないのが教養だけなら、お勉強すればいいんだもん!」
「え」
魔法使いの弟子であるジェイドはすでに読み書き計算ができる。礼儀作法を覚えるのはさほど難しくないだろう。
「すっごく優秀な執事のクライヴなら、従者の教育くらい簡単よね!」
「あ、その、お嬢様?」
立場上、できませんと言えない執事に、私は笑いかける。その横でディッツも渋い顔をしていた。
「お嬢、俺はこいつに、子供らしい生活をだな……」
「心配しなくても、こき使ったりしないわよ。ちょっとかわいいワガママに付き合わせるだけだもん」
まあ、そのワガママのせいで、執事が約一名苦労をしょい込んでいる気はするけど。
「お嬢様、専属従者の雇用は、さすがに私の一存では……」
「じゃあお父様の許可をとってくるわね!」
お城の最高権力者のお墨付きがあれば、これ以上何も言えないだろう。
私は、クライヴに止められる前に、父様のいる部屋へと走り出した。
「お待ちください! 旦那様はお嬢様のお願いをお断りしません!」
もちろん、わかっててやってるよ!





