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KA・WA・I・I!!

 ディッツとジェイドを迎え入れた翌日、朝イチで私は執事のクライヴに呼び止められていた。


「お嬢様、昨日も申し上げましたが、彼らを家庭教師としてお迎えするのは、どうかお考え直ししていただけないでしょうか」

「えー、またその話?」


 ハルバードの人間は私のワガママを徹底的に許容する。その筆頭のひとりである彼にしては珍しい。

 まあ、気持ちはわからなくはないけどね。自分の管理下に予想外の人材が入るのは許せないんだろうなあ。私に折れる気はないんだけどさ。


「クライヴは元々東の賢者を推してたじゃない。数合わせのネタ候補が、イチ推し候補に化けたんだから、喜んだらどう?」

「それは正体を明かすまでの話です。身分を偽るような怪しい者を、どうして信用できると思うのですか」

「一生忠誠を誓うとか言ってるから大丈夫よ」

「口ではどうとでも言えます。表の顔は立派だったかもしれませんが、裏の顔は怪しい薬を売りさばく者だったんですよ? こんな不審な人間に師事したとあれば、お嬢様の経歴にも傷がつきます」

「それは、ディッツの正体が金貨の魔女だって知られた場合でしょ。クライヴも気づいてなかったくらいだし、黙ってれば、何も知らない人には東の賢者の弟子ってことになるんじゃないの」

「……それに、彼が連れていたあの子供。全身黒づくめで顔さえわかりません。あんな不気味な者までお側に置くつもりですか」


 今度は矛先がジェイドに向かった。

 でもあんまり心配する必要はないんじゃないかなあ……。


「誰が、不気味な子供ですか?」


 低い声が私たちに割って入った。声のするほうを見ると、黒いローブを着たちょい悪イケメンが立っている。


「おはよー、ディッツ!」

「お嬢は今日も元気そうだなあ」

「どうしたの、朝早くから」

「ま、ちょっと業務連絡にな。お嬢が昨日指示した通り、受注してた依頼は全部キャンセルしておいたぜ。高額依頼の打診も断った」

「あら、仕事が早いわね」

「ちっとばかし違約金がかかっちまったが……」

「それは必要経費だから、侯爵家に請求していいわよ。クライヴ、対応しておいて」

「……はい」

「太っ腹な雇い主で助かるぜ」

「キャンセルさせた私が言うのもなんだけど、違約金だけで大丈夫? 金貨の魔女の依頼には、キャンセルなんかしたら、後々狙われるようなヤバいものもあるんじゃないの」

「そういう時のための女装だ。今後一切、金貨の魔女に変身しなけりゃ、誰も正体に気づかねえよ」

「それを聞いて安心したわ」


 私は胸をなでおろした。多分これで、ヤバい依頼を受ける運命は変えられたはず。


「あと、改めて紹介したい奴がいてな」


 そう言うと、ディッツは自分の後ろに隠れるように立っていた子供を、私の前に出した。


「俺の弟子の、ジェイドだ」

「……初めまして、お嬢様」


 ふおおおおおおおおおお。


「かぁーわいぃぃーーーー!」


 私は思わず、ほとばしる感情のまま素で叫んでしまっていた。

 ディッツが紹介したのは、昨日と同じ黒いローブを着た男の子だ。でも、首から上が昨日とは全くの別物だった。くりんくりんの黒い巻き毛に、白い肌。長いまつ毛に縁どられた大きな瞳は、透き通るようなエメラルドグリーンだ。

 なにこれ! 天使? 天使? マジものの天使降臨しちゃった?

 めちゃくちゃかわいいんだけど!

 髪の毛ぼっさぼさで、目の下にクマつくってげっそりしてた陰気な美青年どこいった? ことあるごとに頭蓋骨を撫でまわしては、イマジナリー師匠と会話していたヤバげな美青年の面影が一切残ってないよ!

 すごい。

 イリスアゲートを渡したら、すぐにジェイドの治療に使うと思ってたけど、まさか昨日の今日でここまで元気になるなんて。

 東の賢者の技術力マジでハンパない。


「あああああのあの、あの、お嬢様、ボク、一応お嬢様より年上……かわいいっていうのは……」

「年上だろうが年下だろうが、かわいいものはかわいい。その真理は変えられないわ」

「えっと……?」

「自信もっていいのよ、ジェイドはかわいい!」

「いやー……お嬢、こいつこれでも年ごろだから、かわいいよりはかっこいいのほうが喜ぶと思うぜ?」

「どーせあと何年かしたら背が伸びてかっこよくなっちゃうんだから、かわいいうちは、かわいいって愛でたほうがいいと思うの」

「ええー……」


 ジェイドは困り顔だけど、そんな複雑な表情までかわいい。

 かわいいは正義! ジャスティス!


「スコルピオ殿、これは一体どういうことですか。昨日の彼は、すっぽりと不気味な仮面をつけていたように思うのですが」

「ちょっとした事情ってやつだ。太陽の光が当たると、皮膚が焼けちまうんで、ああいう恰好をせざるを得なくてな。その病気が昨日やっと治ったってわけだ」

「あら、あの恰好は病気治療のためだったのね。それを不気味だなんて、うちの執事が失礼なことを言ってごめんなさいね」

「いやいや、気にしてねえよ。お嬢は謝らなくていいぜ」


 私の横でクライヴの顔が憎々し気に歪む。立場が上の私に先に謝られてしまったせいで、ジェイドの恰好についてそれ以上追及できなくなったからだ。ごめんねー。でも、私はふたりをクビにするつもりはないから、意図的にクライヴの意見は無視するよー。


「まあまあ執事殿、そう目くじら立てなさんなって。お嬢に忠誠は誓いましたがね、『雇用条件』は把握しています。当初のご希望通りの働きをお約束します。お嬢にへそを曲げられるよりは、ずっとお得だと思いますよ」

「……まあ、いいでしょう」


 クライヴが大きくため息をついた。さすがの彼も何を言ったところで状況が変わらないと悟ったようだ。


「クライヴも認めたみたいだし、早速授業ね!」

「いや、今すぐは無理」


 ズコー!!

 私のやる気を返せー!


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