一夜明けて
カトラス闇オークションの摘発騒ぎから一夜明けて、朝。
私たちはカトラス侯爵邸の一室に閉じ込められていた。一応罪人扱いではないらしく、部屋は客間で、フランもフィーアも、ついでに眠ったままのツヴァイも同じ部屋に集められている。外に見張りの兵がいるのを除けば、知り合いの家にお邪魔しているのと、さほど変わりない。
ちなみに、私が今着ているのは体のサイズにあわせた女の子むけのワンピースだ。カトラス侯爵邸に行儀見習いに来ている貴族子女のおさがりらしい。
さすがに、フランの上着を羽織っただけの恰好でいるのは恥ずかしかったので、貸してもらえて助かった。
「ふぁ……眠ぅ……」
変身したり戦ったりしながら一晩中起きていたせいで、すっかり寝不足だ。
ただ待っているだけでは、瞼が重くなってくるばかりである。
「いつダリオが戻ってくるかわからん。眠いなら寝ていていいぞ」
「ん~……椅子で寝ると体が痛いんだよねえ」
ソファはすでにツヴァイが占領している。
一瞬、フランにもたれて寝たら温くて気持ちよさそう、というしょうもないアイデアが浮かんだけど、自分で却下した。淑女として、さすがにそれはアウトだと思う。
「身元の確認がとれたぞ」
睡魔との戦いに、今まさに負けようとしているとことに、ダリオがやってきた。
今まで事後処理に奔走していたんだろう、彼の顔はやつれて、目の下にはクマができていた。
「ミセリコルデ宰相家長男、フランドール・ミセリコルデに、ハルバード侯爵家長女、リリアーナ・ハルバード。それから、リリアーナづきの侍女フィーアだな」
「ええ、間違いないわ」
「ああああああ……マジかあ………間違いであってほしかった……」
私たちが笑顔で肯定すると、ダリオは床に崩れおちた。
「なんで、闇オークションに姫様どころかミセリコルデとハルバードのガキどもが入り込んでんだよ、勘弁してくれよおおおおお……」
「だって、フィーアのお兄さんが売られてたんだもの。助けないわけにはいかないじゃない」
「もっと別の方法を取ってくれ!」
ダリオは涙目だ。
「クリスティーヌ姫様と、ハルバードがレンタル中の屋敷と、そのほかもろもろ確認した俺の気持ちを考えろ? 俺はオヤジの告発だけで手一杯なんだよ! お前らの思惑まで構ってられねえの!」
「と、いうことは……私たちがあの劇場にいたことは……」
「なかったことにする。ただでさえ領内が混乱してるっつーのに、ミセリコルデとハルバードの両方と悶着起こす気はねーよ」
「ありがとう! 今初めてダリオをかっこいいと思ったわ」
「そりゃどーも! つうか、あのスタイル抜群のエロ美女はどこいったんだよ! このちんちくりんがアレとか、おかしいだろ!」
「おかしくないですー。成長したらキレイになる予定なんですー。っていうか、スタイル抜群はともかくエロ美女はやめてよね」
「うるせえ、乳を返せ」
「……ユラ・アギトの行方は?」
フランのひやりとした声が、私たちの口喧嘩を遮った。
「わからん。多分、もうカトラスにはいねえんじゃねえか」
彼には化け物じみた力があるもんねー。力づくで追手を振り切って雲隠れするなんて、朝飯前なんだろう。
「首謀者本人は取り逃がしちまったが、奴の部下たちはなんとか押さえた。まだ捕まえなくちゃいけねえ奴は残ってるが、カトラスでもう一度人身売買をやるのは、難しいと思うぜ」
「よかった……」
これで、カトラスで人生を売られる人間はいなくなるのだ。
一番心配していたことが解決してよかった。
「それから、お前らにプレゼントだ」
ダリオは廊下に向かって指示を出した。
外で待機していた使用人たちが、次々に箱を部屋に運んでくる。
「あ、私のドレス! それに磁鉄鉱と電子基板も!」
「お前らがあの場で欲しがってた品物だ。人間と違って、美術品なんかは俺の裁量で処分できるからな。土産にくれてやる」
「太っ腹ね!」
「それを持って、一刻も早くカトラスから出ていってくれ」
えー、まだ聞きたいことがあるんだけどー?
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