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ハルバード侯爵夫妻のかつての栄光

「はあ……やっぱり、奥様のダンスは素敵ですわね。さすが、白百合の君」


 母様のダンスを見ていたコーチがうっとりとつぶやいた。


「白百合って何?」

「奥様は、ダンスの美しさに感動した国王陛下から『白百合』の二つ名を賜っているのですよ」

「その話はよしてちょうだい。結婚する前のことじゃない」

「マジ……?」


 国王から二つ名をもらうって、国一番のダンサーって認められたようなものじゃない。

 結婚する前、ってことは多分そのころはスリムボディだったんだよね?

 そんな人が、何がどうなってこのダイナマイトなマシュマロに。

 しかも、そんな情報はメイ姉ちゃんにもらった攻略本にはなかった。ハルバード侯爵夫人についての記述は『アルヴィンとリリアーナの母親』としか書かれていない。

 どう考えても、国の超重要人物のはずなんだけど。


「ふう、これくらいかしらね」


 しばらく踊っていた母様は曲の終わりで足を止めた。


「えーもうやめちゃうの? もっと見たい!」

「アンコールは嬉しいけど……」

「私も君の踊る姿が見たいな」

「お父様?」


 振り向くと、執事のクライヴを従えた父様が戸口に立っていた。


「君がリリィにダンスレッスンをすると聞いたから見に来たんだけど、久々にいいものが見れた。たまにはいつもと違うことをしてみるものだね」

「あなた……」

「もう一曲、踊ってくれないか?」


 父様がそう言うと、母様はすっとその手を父様に差し出した。


「この曲は、ひとりで踊るものではないんですのよ?」

「そういえばそうだったね」


 父様は慣れた様子で母様の手を取ると、一緒に踊りだした。

 その姿を見て、私はもう一度言葉を失う。

 えええええ、何この麗しすぎるダンス夫婦!

 母様ひとりでも綺麗だったのに、ふたりになったら迫力がマシマシで別世界が降臨するレベルなんだけど?

 ふたりがダイナマイトなのは変わらない。

 それなのに、花が飛んで妖精が舞う幻が見える……。


「もしかして、お父様にも二つ名があったりする?」

「ありますよ」


 クライヴがこともなげに答えてくれた。


「とはいえ、奥様とは違って少々勇ましい名前ですが。お若いころは、『炎刃』のお名前を賜っておりました」

「騎士に与える名前っぽいね」

「旦那様はかつて王国騎士第一師団に所属していましたからね」

「ふぇっ?!」

「先代ハルバード侯が亡くなり、領地を継ぐと同時に退役されましたが」


 待って! 第一師団って、国王陛下直属の近衛騎士団、つまりこの国で一番の花形最強騎士団じゃない!

 そこで二つ名までもらって活躍してた、ってことは間違いなく当時最強ってことでしょ?

 そういえば、騎士キャラのひとりが『第一師団にかつて最強と呼ばれた騎士がいた』って言ってたけど、あれは父様のことだったのか……。

 そんな人が、何がどうなってこのダイナマイトなマシュマロに。


 いやそもそも、なんでこんな超重要ハイパー有能夫婦が攻略本では1行解説になってるのさ。

 確かに今は活躍してないけど……ん?

 あああああああ、そうか!

 活躍しないからかーーー!

 あの攻略本は、あくまでも『ヒロイン』目線で観測した情報だ。

 一線を退いて、領地でのんびり隠居している人間のプロフィールなんて必要ない。

 たとえそれが、悪役令嬢にとってどれだけ重要な情報であっても、だ。

 運命の女神からもらったチートアイテムは確かに強力なものだけど、過信は禁物かもしれない。書かれていない情報は多いし、私が行動することで未来も変わる。

 国際情勢や、時代背景は参考になるだろうけど、個人の情報はもっと慎重に扱おう。

 どんな有能キャラが裏に転がってるか、わかったもんじゃない。


 でも、この新情報を得られたのは幸運だった。

 兄が私たち家族を嫌っている理由の大半は『失望』だ。大領主であるにもかかわらず、のんびりお花畑でのほほんとしている両親に、努力をしないワガママ娘。

 でも、その3人が実はデキる人たちだってわかったら?

 兄はもう一度、私たちを見てくれるかもしれない。


 ううん、きっとそうしてみせる。

 勉強をがんばるのと一緒に、父様と母様もがんばらせて、兄様に認めさせてみせる!


 でも、その時の私は気づいていなかった。

 自分の軽い気持ちの決心が、家族に思いもよらないトラブルを呼び寄せることになるなんて。





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