「好きです、付き合ってください」とクラスチャットで誤爆する、という罰ゲームを実行してからクラスの女子たちの様子がおかしいんだが
頭の悪いラブコメです。
放課後、誰もいなくなった教室。
そこで俺たち三人はバチバチに火花を散らし合っていた。
「準備はいいな」
悪友の橋岡がゴクリ、と喉を鳴らす。
勝負が始まる直前の独特な緊張感──
「おう」
「いつでもいいぞ……」
俺ともう一人の悪友である田島も準備は万端。
手には各々の武器を隠し持っていた。
「それじゃいくぞ──せーの」
橋岡の合図と共に俺たちは武器を──テストの成績表を机に叩きつける。
バチンと甲高い音が誰もいない教室に響き渡った。
「291点……340点……418点……」
橋岡が五科目合計の点数を読み上げる。
一番点数が低いのが橋岡、次いで田島、そして一番高いのは夜凪──つまり俺。
「平均点は350点ってことは……うっしゃあぁ!」
点数の一番低かったはずの橋岡が歓喜の声をあげる。
「ぬぅうううおおおおおああああああ」
逆に一番点数のよかった俺が頭を抱えることになった。
なんのこっちゃ、と思うかもしれない。
でも俺たちは真剣なのだ。
俺たちはテストの点数で罰ゲーム付きの真剣勝負をしていた。
勝負の内容は簡単。
平均点から一番離れた点数を取ったやつが負け。
無論これは橋岡が言い出したことだ。
普通にやったら頭の残念な橋岡が負けるのは確実。
だからこそ平均点から一番離れた点数を取ったやつの負け──という変則的な勝負になった。
そして俺は……この勝負に負けてしまった。
「っしゃぁ! じゃ、夜凪が罰ゲームな!」
「マジかよぉ、やっぱ理不尽じゃね? このルール」
「今更文句を言うなんて男らしくないぞ! お前もノリノリだっただろうが」
「くっそー、何で俺はこんなに頭がいいんだ……」
「なぁ橋岡、慈悲は無しでいいよな」
「ああ、反省の意思はないみたいだしな」
「お前はお前で反省しとけよ……赤点あるじゃねえか」
俺の皮肉もツッコミも、今のこいつらには効き目無しだ。
完全に調子に乗ってやがる……。
「それじゃ、約束の通り罰ゲームな」
「なぁ、マジでやんのそれ?」
「やるに決まってるだろ? ほら、スマホよこせ」
「せめて自分の手でやらしてくんね?」
「ダメだって、諦めろ」
「わーったよ」
俺はラインのアプリを開いて橋岡にスマホを手渡した。
ミスったなぁ……スマホのホーム画面替えときゃよかった。
見られたらめんどくさいことになりそうだし。
「それじゃ行くぞ?」
「分かった……もう好きにしろ」
「言ったな、マジでやるぞ?」
「男に二言はない、やれ」
「アイアイサー!」
これから俺は罰ゲームという名の究極の羞恥プレイに晒される。
罰ゲームの内容はいたってシンプルだ。
クラス全員が参加しているラインのチャットルームに
──好きです。付き合ってください。
という文章を投稿する、というもの。
事情を知らないクラスメイトが見れば、誰かに告白しようとしたのを誤爆してクラスチャットに投稿してしまった──という風に見えるだろう。
まあ、それがこの罰ゲームの趣旨なのだが……。
そして誤爆……というからには削除しなければいけない。
そのタイミングも絶妙に生々しい。
誤爆風の文章を消すのは投稿して五分が経つか、十人が既読を付けるか──いずれかの条件を達成してからということになっている。
誰かが「誤爆してるよ」なんてツッコミを入れてきたら、俺は本格的に明日休むかもしれない。
どうか見たやつはみんな既読スルーしてくれ、と願うばかりだ。
「それじゃ、投稿しまーす」
「10……9……」
「長い! ひと思いに殺せぃ」
「夜凪がそう言うなら……あ、ポチっとな」
──好きです、付き合ってください
文章がクラスチャットに投稿された。
頼むから誰も見るな、頼むから誰も見るな。
──既読1
あ、終わった。
てかまだ三秒も経ってないぞ?
全く……現代の若者のスマホ依存症は嘆かわしいことだ。
──既読2……3……
ドンドン増えていく。
やめてええええええええ、せめて返信しないでええええええええ。
「おい夜凪? 気分はどうだ?」
「……恥ずか死ぬ」
「アヒャヒャヒャ!」
「ブヒェヒェヒェ!」
「笑うな、ボケぇ!」
そうこうしている間に既読はドンドン増えていく。
そして、三分とせずに既読は10を突破した。
「消せ! ほら、早く消せ!」
「分かったって! ……ほら、消したぞ」
──夜凪からの送信が取り消されました。
「返信は……誰からも来てないな」
「ま、そりゃそうだよな。気まずくて返信とかできるわけないか」
「それで? 罰ゲームの感想はどうよ」
「お前らマジで殺す……」
ああ、今日は厄日だ。
明日になったら絶対既読つけた奴から色々言われるんだろうな。
……考えただけで憂鬱だ。
悪いけど今日はあいつに愚痴らせてもらうか……。
翌日。
俺は本気で学校をサボろうかとも思ったのだが、このタイミングでサボったら逆に昨日の誤爆にガチ感が出て嫌だな……ってことで開き直って普通に登校することにした。
誰かに話しかけられないように……と遅刻ギリギリで教室に到着。
「(ねえ……昨日の)」
「(あれ……絶対そうだよね)」
ひそひそと話す女子の声。
聞こえてるんだよなぁ……。
俺は完全に知らんぷりを貫きながら、自分の席に着席。
忙しいフリをして誰も話しかけるなオーラを全面に押し出していく。
「ねえ……」
横の席から俺を呼ぶ声。
ですよねー、こんな面白い話題にこいつが喰いつかないわけがない。
「どうかしたか……藤野」
隣を見ればニヤニヤと獲物を狩る肉食動物のように嗜虐的な笑みを浮かべる藤野がいた。
クラスでもカースト上位、髪は明るい茶髪に染められて校則違反のカラコンまで入れてるいわゆる陽キャギャル。
「昨日のあれさ、ガチ?」
「なんのことだ?」
「とぼけなくてもいーって。あたし、バッチリ見ちゃったから」
「あはは……」
「しかもちゃんとスクショ取って女子グループのチャットにも上げといたから」
「藤野この野郎! 何してくれとんじゃぁ!」
こいつには人の心がないのか!?
それにしてもなるほど……クラスの女子連中の態度が妙だと思ったらこいつのせいか。
十人に見られた段階である程度噂になるとは思ってはいたが……まさかのスクショでの拡散。
これ……クラスどころか学年中に誤爆のスクショ広まるんじゃね?
俺、詰んだんじゃね?
「それでさ、誰に告ろうとしてたの?」
「黙秘権を行使する」
「だって夜凪あんまり女子と喋んないじゃん? 関わりある女子そんな多くないから……もしかして、私とか?」
「黙秘権を行使する」
「否定しないってことはガチ? ちなみにあたしは夜凪なら全然ありかなー、なんて」
「ブッフォォ!」
やめて! 顔をちょっと赤くしてガチ感出さないでよ!
罪悪感が……罪悪感がヤバいから!
一応いわゆる嘘告白みたいに誰か傷つく人がいないように──という配慮の元で行われたアホ男子高校生三人組のイタズラなんだけど、これじゃ種明かしするにできなくなるじゃん!
ここではぐらかすのは男として最低。
なんとかして誠意ある対応を──と思ったところで
キーンコーンカーンコーン。
救いのチャイム。
それと同時に教室に入ってくる先生。
「悪い、この話はまた後でな」
「あ……うん……」
とりあえず今日の休み時間は男子トイレに篭ろう……と決意した俺であった。
授業終わりのチャイムが鳴る。
さっきからずっとモジモジとしてしおらしい藤野さんには目もくれず、一目散でトイレに向かって避難しよう──そう思ったところで、
「ちょっと夜凪! 待ちなさいよ!」
名指しで呼び止められてしまった。
「な、なにかな?」
おそるおそる古い機械のようにギギギとぎこちなく首だけで振り返る。
「あんた、私に何か言うことがあるんじゃないの?」
腕を組んで自信あり気に立っていたのは加納だった。
ツインテールがトレードマークのちょっと目がきつめの美少女である。
「いや……何もないけど?」
加納、お前に用はない。
一刻も早くトイレに避難させてくれ。
「はぁ? ないわけがないでしょ?」
「いやすまん、本当にお前に用なんてないんだが……」
「あんた、私に告白しようとしてるんじゃないの?」
「どうしてそうなった!?」
いやもう、本当にどうしてそうなった。
確かに加納はクラスでも屈指の美少女である。
読モの経験もある彼女に密かに想いを寄せている男子も多い。
「だってあんた昨日クラスチャットで告白を誤爆したじゃない?」
「あんまり大声で言わないでくれる!?」
「あれって私への告白を間違えてクラスチャットで誤爆したってことでしょ?」
「自分への自信がすごい!」
いやもう……とんでもない思い上がりである。
確かに加納はかわいいとは思うが、それだけだ。
昨日の一件はこのクラスに存在しない誰かへの告白の誤爆、という設定であって特定の誰かに向けたメッセージではない。
「私あれからずっと待ってたんだからね……?」
「え、何を?」
「あんたから誤爆じゃなくて、ちゃんとした告白が来るのを……よ」
「自分が告白されること前提で話を進めるのやめてくれない!?」
「え、違うの……?」
「違うよ!?」
「そう……私じゃ、無かったんだ」
ええぇ……この展開は予想してなかったんですけど。
加納、ちょっと悲しそうな顔するのやめてくれない?
藤野と同じでガチ感出ちゃうから。
「な、なーんてね。冗談よ冗談」
「ああ、冗談かぁ……びっくりさせんなよな」
「それで? 告白は上手くいったの?」
「上手くいったって言うか……あれは」
「そっか……ダメだったんだ」
「いや、加納……これは、その……だな」
「でも大丈夫、あんたいい奴だもん。きっとそのうち素敵な彼女ができるわ。私みたいな、ね」
どうしよう、ますます種明かしできる雰囲気じゃなくなってきた。
言えないよなぁ……昨日の一件がイタズラでした、なんて。
ジロリと橋岡と田島を睨みつける。
何故かあいつらは親の仇を見るような目で俺を睨み返してきた。
理不尽。
俺なんも悪くないじゃん……。
昼休み。
教室の空気に耐えかねた俺は図書室に避難することにした。
さすがにあの針の筵みたいな教室のど真ん中で昼休みを過ごす勇気はない。
かと言って男子トイレで時間を潰すには昼休みは長すぎる。
そこで図書室、だ。
幸い今はテスト期間が終わってすぐ。
勉強目的で来る生徒もいないため図書室は俺の貸し切りだった。
ああ……今日初めて落ち着く時間を過ごせそうだ。
本でも読んで時間を潰すことにしよう。
テキトーに本を漁って、読み始める。
読書は割と好きな方だ。
暇な時はたまに図書室に来て本を読んだりしている。
だから図書室で時間を潰すのには慣れていた。
「…………」
快適だ。
静かな図書室にパラパラとページをめくる音だけが響き渡る。
「…………?」
読書に集中していると、ふと後ろに気配を感じて振り返る。
「あ、ごめん。邪魔しちゃった」
「なんだ、樋口か」
そこにいたのは樋口だった。
図書委員の樋口が図書室にいるのはある意味当然と言えた。
「ちょっといい?」
その一言は「隣に座っていい?」「本読んでる途中だけと話しかけてもいい?」「少し時間をもらってもいい?」とか色んな意味を含んでいることを俺は理解していた。
口数も少なくて何を考えてるか分かり辛い──と言われている樋口だが、図書室に通っているうちに何度か会話したことのある俺は樋口がただ単に口下手なだけ、ということを知っている。
「おう、いいぞ」
藤野や加納と違って、樋口ならあまりめんどくさいことにはならないだろうな、と思っての同意だった。
大体樋口って恋愛とかそういうことにあんまり興味なさそうだし。
いつもの通りオススメの本とかの話をしに来たのだろうと思っていた。
「昨日のあれ……なに?」
「おぅふ」
俺の唯一の楽園である図書室まで誤爆の魔の手は及んでいたらしい。
「違うんだ、樋口。あれはな……」
まあ、樋口にならあの一件は罰ゲームだったんだよ──って伝えても大丈夫か。
そう思ったのだが、
「付き合うの?」
「え……?」
「付き合ったらもう、図書室には来てくれない?」
「違うんだ……これは」
「そしたら私またひとりぼっちになっちゃう……」
「大丈夫だ樋口。俺は好きで図書室に来てるんだから……彼女がいようがいまいが関係ないって」
「ほんと?」
「ああ、ほんとだ」
「よかった……」
はぁ……樋口が聞き分けの良い子で助かった。
藤野や加納みたいに妙な空気感出されたらたまったもんじゃないからな。
「実はあれはただの罰ゲ……」
「本当によかった……じゃあ私にもまだチャンスがあるんだ……へへ」
樋口……お前もか。
どうすんの、これで三人目だよ!?
冗談でした、って言って終われる空気じゃないよね!?
切腹で俺の腹筋シックスパックに分けるくらいしないと許されないんじゃない、これ?
どうしよう……ここまで来たら本当のこと言えなくなっちゃうじゃん。
「じゃ、じゃあな樋口。俺また図書室来るから」
最後の言葉は聞かなかったことにして、いそいそと立ち上がる。
もうだめだ、暇すぎるけどトイレの個室……いや午後の授業は保健室行ってサボろう。
うん、そうしよう。
ストレスによる腹痛、理由はこれで充分だろう。
「あ……うん……またね」
少し寂しそうな樋口を横目に俺は逃げるように図書室から出て行くのであった。
そして放課後。
さすがに保健室を追い出されて、帰りのホームルームには出席することになった。
クラスに戻った瞬間から降り注がれる視線。
その鋭さは朝よりも鋭利。
「(フラれたショックで寝込んでたんだって)」
「(マジで? ウケるんだけど)」
そこ、笑わないの。
全部聞こえてるんだから。
針の筵にされながら帰りのホームルームをやり過ごし、起立気を付け礼。
礼で角度を付けてから爆速下校をキめようと試みるが、
「「「ねえ」」」
もう勘弁してください……。
興味津々の女子たちに道を塞がれてしまった。
「夜凪くんどうなの? 誰に告白したの?」
「フラれたって本当?」
「てか夜凪くん好きな人いるの?」
止まることのない質問攻め。
ついに俺の中で何かが弾けた。
いわゆる自暴自棄。
もうどうにでもなれ。
「橋岡ぁ! 田島ぁ! てめえら逃げるんじゃねぇ!」
どさくさに紛れて逃げようとしている二人を大声で呼び止めて、近くまで呼び寄せる。
「俺たち共犯だよなぁ?」
「いやなんのことか分からないアル」
「そうでやんす……」
「うるせぇ! さあ、せーので謝るぞ」
「はい……」
「「「どうも、すみませんでしたぁ!」」」
さすがだぜ、相棒たち。
何も言わなくてもどうすればいいか……完全にわかっていやがる。
俺たち三人は女子たちの前でそれはもう綺麗な土下座を決めた。
そして額を床に擦りつけたまま、俺たちは全ての事情を説明した。
「なーんだそういうことか」
「バカな男子のやりそうなことよねー」
「面白そうなことが起こったな~って思ったのに」
種明かしをした途端、女子たちはあっという間に興味を失ったらしくさっさと教室から出ていった。
取り残されたのは俺たち三人と、藤野、加納、樋口。
「ねえ、夜凪ぃ?」
「はひぃ!」
最初に口を開いたのは藤野だった。
「もっとちゃんとした詫びの入れ方、ってもんがあるよねぇ」
「切腹は勘弁してください!」
怖くて顔も見られない。
「でも……夜凪くんは巻き込まれただけ……かも?」
それに続いて樋口がおずおずと口を挟んだ。
ナイス樋口! そう、悪いのは橋岡なんです!
「まあ確かにねぇ、あんたってこういう事するタイプじゃないもんね」
「はい、そうでございます!」
加納が樋口に賛同したこともあって二対一。
これで俺だけは許される流れ……あるな。
「でもさぁ……それじゃ筋通んなくない?」
「それは……そうかも」
「何かしら罰はないとダメかもね~」
えーと、君ら三人そこまで面識なかったよね?
こんな時に限って意気投合するのやめてもらえないかな?
「じゃあこうしましょうよ! 夜凪、あんたが本当に好きな人を教えなさい。それで許してあげるわ」
「好きな人……ですか?」
「ああ、それいいじゃん? 夜凪、実際のところはどうなのよ。好きな人いんの? 例えば……あたしらの中に、とか」
なるほどそうきたかぁ……
罰ゲームの罰を受けるって理不尽過ぎる気がしないでもないけど、これに関しては俺たちが悪いからなぁ……。
それにこれ以上隠すっていうのも無理そうだし、ちょうどいい機会なのかもしれない。
「好きな人……いるにはいるんだけど」
「何よ、歯切れ悪いわね。男ならビシっと決めなさいよ」
「分かったよ」
観念した俺はスマホを取り出して、ホーム画面を開いて皆に見せた。
「一緒に映ってるのは……誰これ?」
「彼女です……」
一瞬の沈黙の後、その場にいる五人全員が叫んだ。
「「「「「彼女いるんかい!」」」」」
ちなみに彼女は女子高に通う金髪碧眼巨乳の幼馴染です。
彼女が恥ずかしいから、ということで交際していることは秘密にしていたそうな。
追記 頭の悪いラブコメをまたしても投稿しました。良ければ下のリンクor更にその下のリンクから合わせて読んでやってください
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