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お題スレ投稿作品

夏・山村・禁域

作者: この名無しがすごい!

2020-08-30

安価・お題で短編小説を書こう!8

https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1585490648/


>>794


使用お題→『絆創膏』『ハサミ』『荒い』『快晴だ』『走る』


【夏・山村・禁域】


 快晴だ。

 灰色の青空に、白い穴の太陽が浮かぶ。

 その白い太陽の光と、黒いアスファルトの反射が、私を焼く。

 私は走る。

 息が上がって、足がもつれる。それでも、私は走り続ける。

 目に見えない『何か』。それが私を追う。

 私は転ぶ。

 転んだまま、へたり込んだまま。ゆっくりと上半身をねじって、振り返る。

 私の、ゆがんだ顔。開いた瞳孔の中に、追跡者の姿が映る。

 もう逃げられない。

 それでも私は、震える手で、スマホと、何か白い輪っかのような物を————


 *


「————……ねえナツ、起きな。着いたみたいだよ」


 私の瞳に映る、親友の顔。


「……あれ……ハル……私、寝ちゃってた?」

「そりゃあもう、ぐっすりと」


 不機嫌そうに言われた。

 軽自動車の中はエアコンが効いていたけれど、窓を通して照り付ける日差しは、紛れもなく、この季節のものだった。

 ハルと運転手の人に促されるまま、車から降りる。

 そこは土の地面。

 車の前方には雑草が生い茂る。その向こうは雑木林。後ろは空き地で、少し遠くに、舗装された道路が見える。私たちが乗ってきた車の他にも軽自動車が何台か並び、私たちと同じように、車から降りた人たちがたたずんでいる。


「あっ! 皆様、ようこそおいでくださいました!」


 道路の方から、はっぴを着た男性が、小走りでやってきた。頭には鉢巻。


「すぐに集落の方へご案内いたします。こちらです!」


 男性の後に続いて、私たちはぞろぞろと移動する。路肩の雑草が青々としている。

 乾いた路面には何も落ちていない。相変わらず日差しは強い。

 緑の木々に覆われた山々と、雲一つない青空だけが、この世界に存在している。そして私たちは、このまま溶け落ちて蒸発する。そんな白昼夢が頭をよぎる。


「いやー、今日は暑いですなあ。天気予報なんて、当てにならんもんです。なるべく日陰をお通りください。申し訳ありません。もう、すぐそこです」


 先頭を歩く男性の声に、釣られて私たちはそちらへと顔を向ける。

 集落が見える。その手前には、鳥居を思わせる、けれども古びた、粗末な、木製の門が建っている。

 そして。


「あっ、おばさん!」


 ほっかむりをした農家のおばあさん、といった格好の女性が待ち構えていた。右手には鎌を持っている。


「本当に連れてきたのか! んだども、こっから中へは入れられねえぞ! 特にこの時期は駄目だ!」


 そう言って、通せんぼをするように両手を広げる。


「おばさん、言ったろ。熱中症になると悪いから、家の中で待ってろって。この人たちも疲れてるんだから、まずは休ませないと」


 先頭の男性がそう言うと、そのおばあさんは、私たちの方を見て、男性を見て、「そうか、そうか」と言って。


「分かった。まずはゆっくりしていけ」


 そう告げると、村の中へと引っ込んでしまった。

 男性と私たちも、門をくぐって、その後に続いた。


 *


 公民館か集会場のような場所に、私たちは通された。そこで一休みしてから、今後の日程が説明された。

 昼食もそこで食べた。地元の食材を使った、素朴な料理だ。

 村の人たちは席を外している。


「では、お話を伺ってもよろしいでしょうか」

「はい、大丈夫です」


 食後、一人の男性が、全員から話を聞きたいと言い出した。私たちと一緒に村の外から来た人だったが、旅行雑誌の記者だという。

 一グループずつ話を聞く。私たちの前は二十代後半と思われるカップル。次にハルと私。その次は全身黒ずくめの女だった。

 この女、服も持ち物も、髪留めから靴に至るまで、すべて黒。ただ日傘を使っていて、その外側と、本人の肌だけが白い。

 記者の質問は当たり障りのないものだった。

 質問が終わると、まるで見計らったかのように、例のはっぴの男性が顔を出した。


「あっ、須藤くん。質問は終わりましたか」

「ええ、おかげ様で」

「そうですか。皆さん、こちらの須藤くんと私は、昔からの知り合いでして。宣伝の記事を書いてくれると言うので、お呼びしたのです。ありがとうございます」

「いえいえ」


 午後は農業体験。これは本当に軽く、あまり疲れない程度に、野菜の収穫などを手伝った。

 対応してくれた村の人たちは全員愛想良く、最初のおばあさんはなんだったのかと、私はとても不思議に思った。


 *


 まだ明るい内に夕食を済ませると、私たちは村外れの林道へと向かった。来た時とは反対側の出口を通る。木の門はこちらにも建っていた。

 林道の入り口には、林を背にして、篝火かがりびかれていた。

 夕闇が迫る。


「いやー、涼しくなりましたね。良かった良かった。お疲れの方はいらっしゃいませんでしょうか。それでは本日のメインイベント、肝試しです!」


 朝から同じ格好の、しかし鉢巻だけは外した男性が、相変わらず元気に声を上げた。

 最初に簡単な説明の後、目的地に関する歴史や、怪談、怖い話のようなものを聞かされた。


「では、一組ずつです。ほこらまでは一本道ですので、迷うことはないはずです。ロープの外には、くれぐれも出ないようにしてください」


 それから数分置きに、二三人ずつ出発した。ハルと私の番になる頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


「行ってらっしゃい」


 道の両脇にはロープが張られ、所々にライトが設置されている。出発する時、懐中電灯を一つ渡された。それはハルが持っている。祠にはスタンプが置かれていて、それを押すための台紙は、私が持っている。

 途中で帰りの何組かと擦れ違った。あまり怖がっている様子はなかったが、一組だけ、昼間の二十代後半のカップル、その女の方が、髪を振り乱して走ってきた。


「あの、どうしたんですか」


 声を掛けるが、女は私たちには目もくれず、走り去っていった。

 仕方がないので、そのまま進む。

 小さな祠があった。


「スタンプもあるね。さっさと押して戻ろう」


 祠の前は小さな広場になっていて、その真ん中に机が置かれていた。スタンプとスタンプ台がその上に。

 手早くスタンプを押して振り返ると、おかしなことになっていた。


「ハル……どこ?」


 ハルの姿がない。足音も何も聞こえなかったが、私を置いて帰ってしまったのだろうか。

 来た道に目を凝らすと、遠くに揺れる光がある……ような気がする。

 私は、心細さをこらえつつ、来た道を戻ることにした。


 *


 来る時は気にならなかったが、ライトの光が届かない場所は、闇がより深く感じられた。

 姿の見えない何者かの気配に身を震わせながらも、私は足元に注意して歩いた。

 ふと前を見ると、揺れながら近付いてくる光があった。


「あっ、見付けた。迎えに来ましたよ」


 それは例のはっぴの男性だった。懐中電灯を手にしている。

 私は少し安心して、彼に促されるまま、その後に続いた。

 数十メートルも進んだだろうか。


「えっ」

「あっ、電池が切れてしまったようですね」


 その場が闇に包まれた。


「危ないですから、手をつなぎましょうか」

「えっ、えっと」


 彼は私の返事を待たずに、私の手を取った。ごわごわとした感触、それを知覚する間もなく、私の手、肩、全身が、荒っぽく引っ張られた。


「なっ! 何を——」

「俺を誘ってますよね」


 道の脇の草を踏む音。その中に倒れ込む。獣の息が顔に当たる。


「何を言ってるんですか!」

「あんたは! 俺を誘ってる!」


 話が通じない。逃れようとして暴れるものの、力ではかなうはずもなく、完全に組み敷かれてしまう。


「いやっ! 放して! 放せ!」

「暴れなければ、痛くはしないさ」


 冗談じゃない。私は全身で、力一杯の抵抗を————


「————……へっ?」


 両手両足が空を切る。そこには誰もいなかった。


 *


 それから翌朝までの記憶は曖昧だが、私は林道の入り口まで帰り着き、集落の民家に泊まって、ハルと顔を合わせたのは、そのお宅での朝食の席だった。


「ハル……それ、どうしたの?」


 ハルの首の正面に、絆創膏ばんそうこうが貼られていた。


「覚えてない?」

「う……うん……」

「そう」


 ハルは、それ以上は何も話さなかった。

 朝食を終えた私たちは、前日に引き続き、農作業の手伝いをした。昼食を挟んで、適当な時間まで作業を続けると、一休みしてから、集落を見下ろす高台に登った。

 そこからの眺めは素晴らしかったが、私の心は晴れなかった。

 高台の上を見回すと、例のカップルの男性が目に入った。カップルの女性は、姿が見えない。


「あれっ……」


 男性の首の正面に、絆創膏が貼られていた。


 *


 その日の夜は、集落の伝統芸能の鑑賞だった。仮面をかぶって踊る、神楽のようなものだ。

 神社の境内に設けられた舞台の上で、集落の大人たちや子供たちが、動物や神様の姿になる。踊りも演奏も迫力があって、意味は分からなかったが、面白かった。

 途中で休憩の時間があり、私は一人、神社の鳥居の外まで移動した。


「こんばんは」

「こっ、こんばんは」


 後ろから急に話し掛けられて、私は飛び上がった。振り返って確認すると、声の主は、あの黒ずくめの女だった。


「突然で悪いけど、あなたには感謝してる。これはお礼。それと私の連絡先」


 紙紐かみひもで作られた輪っかが何本かと、メモ用紙だった。


「えっ、と。どうも」

「私一人ではどうにもならなかったから。あなたも危ない所だったでしょ。気を付けて」


 それだけ言うと、彼女は離れていった。


 *


 翌朝。私たちを見送る、はっぴの男性。その首の正面には、絆創膏が貼られていた。

 ハルと私は、コンクリートに覆われた都会に戻ってきた。駅で別れて、私は自分の部屋へ、徒歩で向かう。

 暑い。今日も暑い。青空が灰色で————


「————……うそ」


 灰色の青空に、白い穴の太陽が浮かぶ。

 夢の中よりもはっきりと、太陽光とアスファルトの熱を感じる。

 背後に視線を感じる。振り向いても、そこには誰もいない。


 ——ひとーつ


「だっ、誰」


 ハル? それとも他の人? 恐怖に駆られた私は、たまらず走り出す。


 ——ふたーつ


 声はどこまでも追ってきた。男性でも女性でもないその声は、じめじめとした響きで私を追い詰める。


 ——みーっつ


 その時、私の脳裏に、ある人のことが浮かんだ。バッグの中身を確認する。


「何これ……」


 紙紐の輪っかが三本、まるでハサミを使ったかのように切れていた。


 ——よーっつ


 四本! 私はメモ用紙に書かれた番号をスマホに打ち込む。


『はい、もしもし』

「あっ、もしもし、アキさんですか! 私です! ナツです!」

『あなたね。今どういう状況?』

「紙紐が切られてて、追われてて」

『場所は?』


 私は今いる場所を伝えた。


『分かった。すぐ行くわ。私が着くまで、なんとか持ちこたえ——』


 そこで通話は途切れてしまった。


「アキさん? アキさん!」


 ——いつーつ


 間に合わないかも知れない。私は逃げ切れない。残りの輪っかと、スマホを握り締めて。


 それでも、私は。

 目に見えない『何か』を。


 歯を食いしばって、にらみ付けた。


もしご興味がありましたら、スレの方もご覧ください。

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