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低難易度ダンジョンの高速攻略、そして潜む陰謀の影

 第二層も簡単なダンジョンで、ゴブリンしかいない。

 一度アドリアで黒ゴブリンとやり合っている俺からすると、本当に退屈という他ないな。

 俺の使う魔法も変わらず、探索も順調。そのまま階段を発見し、降りる。


 第三層。

 多少ゴブリンが増えたかもしれない程度で、全く難易度が変わった様子がない。


「こんなものなのか?」


「こんなものよ。一般的な低難易度ダンジョンってのは、想像から外れないものなのよ。10秒で20メートル走るところが、25メートルになった、程度しか変わらない。だから10秒で90メートルなんて事態になる前に、これ以上は無理だなって分かるの」


 難易度の変化が分かりやすい、随分と親切なダンジョンだな。

 ならば、このダンジョンはこの先も変わらずこれぐらいのレベルであり続ける、というわけか。


「先に高難易度のダンジョンに慣れすぎたわね」


「もう第二層からドラゴンは勘弁願いたいな」


 俺はシビラに肩をすくめて軽口を叩くと、新たに現れたゴブリンに魔法を撃ち、下の階へと降りた。




 第四層も、変わらずゴブリン。

 ただし、第五層は違った。


「なるほど、ブラッドウルフか」


 ゴブリンよりは強いといっても、やはり大したことのない魔物だ。

 冒険者ギルドで聞いたとおり、地元の冒険者が倒せるレベルの魔物。

 本当に、第五層まで徹底的に低難易度だった。


「でも、ギリギリの人にとってはブラッドウルフも覚悟を決めて挑むボスのようなものよ」


「そうか……そうだな」


 俺は、シビラのお陰で闇魔法を得ることができた。

 魔王の命に手が届くほどの、強い攻撃魔法。

 それは、存分に自分の実力だと誇っていいものだ。


 だが、その前はヴィンス、ジャネット、エミーが簡単に倒せるような敵も倒せなかった。

 だから、この難易度に手が届かない人の気持ちも、理解できる。


 俺は、襲いかかってきた狼の魔物を、ダークスプラッシュにより一撃で倒す。


「手が届かなかった頃の自分……そして、今、この魔物に手が届かない人。決して、蔑ろにはしないさ」


 倒せない者を、下に見たりは決してしない。今の俺には似合わないかもしれないが、自分の力にだけは謙虚でないとな。

 自分の望む力を『得られなかった者』を体験した俺だからこそ、その境界線だけは守りたい。


 それを忘れないことが、俺を最後に守ってくれるように思う。


 シビラはブラッドウルフの耳を切り落としながら、俺の顔を見る。


「久々に、『聖者』って顔ね」


「そうか?」


 俺達の会話を聞いて、シビラと一緒に俺を見ていたエミーが頷く。


「『正義のヒーローです!』って感じの顔だよ!」


「どんな顔だよ……?」


 自分ではぴんとこないが……二人がそう言ってくれるのなら、そうなのだろう。

 魔法は闇、服も真っ黒で性格もスレた自覚はあるが、悪人面にはなってないのなら、まあ悪くはないな。




 ゴブリンとブラッドウルフは多く、横からの不意打ちもあったが、ウィンドバリアを突き破って俺に攻撃できるような魔物はいないらしい。二重詠唱のウィンドバリアに肉体ごと弾かれた様は、防御する必要すら感じられないな。

 本当に、安全なダンジョンだったな。


 そして第五層の探索の終わり、目の前に現れるのは大きな扉。

 上層フロアボスだ。


「よし、魔法準備して行きましょ」


「了解だ。《エンチャント・ダーク》」


 今回は、エミーも剣を使わない。俺に経験値を集めるため、盾を両手持ちするスタイルだ。

 そのため、竜牙剣を久々に俺が持っていた。

 魔法銀ミスリルのコーティングが燦めき、闇の魔法を吸って黒い剣身が青く光る。


「プロテクション! って言っても、もう何も起きないんだよね……」


「そこは妥協しましょ。【宵闇の騎士】にも使える魔法はあるけど、もうちょっと先よ。それに、宵闇の騎士の真価はその基礎能力と盾の力。ラセルを頼むわよ」


「ラセルを……はい、もちろんですっ!」


 エミーは、聖騎士のレベルが落ちた際に防御魔法を失っていた。

 失った魔法が大きいが、俺はその選択が間違いだとは思わない。

 セイリスでの魔王戦は、ああするしか打開方法がなかったからな。

 あの魔王を切り抜けられたのだから、代償としては安いものだ。


 何よりも、生き残ること。

 生きていれば、何度でもやり直しがきくのだから。


 俺は扉に手を掛け、フロアボスの扉を開く。




 中にいたのは、大型のゴブリン。


「ホブゴブリンね。周りに小さい魔物の気配もなし。ラセル一人でも十分だと思うわ、いってらっしゃい」


 シビラは気楽そうに言って、扉の前に待機するようだ。


 エミーが盾を構えて、ホブゴブリンの横に回る。

 俺はホブゴブリンの顔がエミーを追って横に向いたと同時に飛び込み、首目がけて闇の剣を振る。

 それで、終わり。胴体から首が離れたと同時に、ボスフロア前の魔力の壁がすっと消えた。


「フロアボス一撃は気持ちいいわね」


「ああ、次々行くぞ」


 シビラは第六層への階段を降りるかと思いきや、何かに気付いたように横道に入っていく。

 ボスを倒した扉と階段の、ちょうど間の場所だ。


「宝箱じゃない。ご無沙汰〜」


 そういえば、ダンジョンにはボスを倒せば宝箱があるのは比較的珍しくなかったはず。

 運が悪いのか分からないが、俺とシビラが組んでからはこれで一回目だな。


 セイリスではどんなに潜っても全く出てこなかったが……あの魔王だものな、宝箱なんて自分で回収していてもおかしくはない。


「ダンジョンには何故、宝箱があるのだろう」


「そういう疑問を持つの、いいことだと思うわ。『そういうものだから』で思考停止しないのは大事」


「シビラは知ってるのか?」


「でも、何でも答えを教えてもらえると思うのは駄目よ」


 そう返ってくるだろうなと思っていたよ。

 考えても答えが見つかりそうにないから質問したが……分からんな。

 誰か前に攻略した人が置いていったりしたのだろうか。


 俺はシビラが指輪らしきものを宝箱から手に入れて袋に仕舞い込むのを見て、第六層へと降りた。




 第六層の青い壁を見ながら、武器を構える。

 まずは、エミーが前に出てきた。


「どんな敵が出てくるかわからないから、私が前に出るね」


「ああ、頼む」


 そう会話した直後、ダンジョンの奥から現れたのはゴブリン。

 ただし、緑のゴブリンだった。


「シビラ、緑はどうなんだ?」


「弱いわよ。緑と赤と紫は、全部黒より弱い」


「そいつはよかった」


 俺は緑のゴブリンにダークスプラッシュを浴びせると、自分のペースで進んでいった。


「ううっ、私完全にただついてきただけになっちゃってるよぉ……」


「何言ってるんだ、エミーがパーティーの一員なのは安心感が全然違うぞ。いるだけで助かっている」


「だといいけどぉ……あっ、愚痴聞いてもらってありがとね、なんだかワガママで」


「役に立ちたい気持ちを我が儘とは言わないさ」


 エミーに自覚はないだろうが、いざという時に攻撃を防いでくれる仲間がいるというのは、本当に全然違うんだよ。

 攻撃力を求め続けていた俺が言うのも何だが、倒す能力よりやられない能力の方が、最終的に上を目指せる。

 シビラが『引き際』を重視したことも、ほぼ同じ意味だろう。


 ……思えば、それが勇者パーティーにおける回復術士であった俺の役目だったんだな。

 全く役に立てなくても、いるだけで下層以降の安心感が全然違う、それが回復術士だ。

 今更ながら、自分がリーダーになって初めて自分の役目が分かるというか……あっちは俺とエミーが抜けるという事態に陥ったわけだが、本当に大丈夫なんだろうか。

 まあヴィンスは心配していない。一人でも戦える上に頑丈だしな。何より心配する義理もない。

 問題はジャネットか。あいつも無自覚でありながら、いざという時は大胆な行動をする性格だし、無理していないといいが……。


 ……そんなことを呑気に考えながら攻略できたのも、中層が上層と同じようなものだったから。

 第六層から第十層は、第一層から第五層と変わらず攻略していくことができた。


 ちなみに中層のフロアボスは、緑のホブゴブリン。

 ゴブリンアーチャーが横に並んでいたが、俺はダークスプラッシュを交互連射し、全ての魔物をその魔法で倒した。

 あまり達成感のない勝利ではある。が、確実に倒せる方法だった。

 最初に出会ったのが、黒ゴブリンだったからな……あいつらは強かった。


 上層よりは難易度が高いとはいえ、ハモンドのタウロスよりは大幅に弱く感じる。

 他の冒険者は、ここまで来たのだろうか。




 下層に降りると、赤い壁。

 最近は夢に見そうで、あまり見たくはない色だ。


 エミーに前に出てもらい、後ろでシビラと並ぶ。

 恐らくこいつのことだから、索敵魔法は既に使っているのだろう。


「どこに敵がいる?」


「…………」


「……シビラ?」


 珍しく、シビラが黙っている。

 エミーも尋常じゃない様子に気付いたのか、シビラの方を振り返った。


 シビラは口に指を当てて、いつもの考えるときのポーズをしていた。


「……」


「あっ、おい!」


 シビラは急に、ずんずんと先へ歩き進んでいった。

 俺とエミーは突然の変化に目を合わせ、シビラの後を追う。


 ダンジョンの途中で、シビラはしゃがみ込んだ。

 何をしているのかと思ったら、床を見ている。……糸?


「……可能性の一つとして、考えていたことがあるわ」


 シビラがその糸を見失わないように見ながら、辿るように歩く。

 赤いダンジョンの先、その奥に何があるのか。


 ……いや、待て。


 そもそも、何故俺達は、一度も魔物と遭遇していない?


「これを『赤い』ってだけで重要視してるようじゃ、やっぱ邪教よね」


 俺達の目の前に現れたもの。

 それは、頑丈に作られた檻のようなものだった。


 そして、檻の先には……おびただしい量の赤いゴブリンがいた。

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