シビラとエミーの、目的があるのか趣味なのか判別に迷う宝飾品店巡り
新たにレビューをいただきました、ありがとうございます。
それぞれのキャラクターを立てながら、楽しめるよう書いていきたいと思います。
シビラが手元のブレスレットを光らせる。
エミーに買った物に比べて、明らかに装飾が多く高級品と分かる逸品である。
それにしても、どこかで見たことがあるデザインだな。エミーに買ってやる時に比べた物だった気がする……あの時ぐらいしか宝飾品なんてじっくり見なかったからな。
……まさか対抗したのか?
「おいおい……いくら俺が買わなかったからって、自分で買うか普通? しかもそんな高いものを」
「いいじゃないの、ラセルが買ってくれなかったのが悪いもの。アタシに似合ってるでしょ?」
腹立たしいぐらい似合っている。
が、意地でも似合っているとは言いたくない。
特にエミーへ買ってやるつもりだった高級品を、そんな風に自慢されては褒めるはずもない——。
「シビラさんとっても似合ってます!」
「ん〜っ、やっぱりエミーちゃんはアタシの天使ちゃんね! はい、ラセルもエミーちゃんの可愛さを見習うこと。アタシが学園の面接官なら入試で落としてるわよ」
——俺が褒める前に、事情を知らないエミーが褒めてシビラに言いたい放題言われた。
理不尽だ……。
宿の外は、日差しの強い正午前。
雲一つ無い青空を眺めつつ、俺達はセイリスの街へと繰り出す。
今日は水着というほどではないが、動きやすい簡素な薄着だ。
理由はもちろん、ダンジョン探索を行わないからである。
シビラに至っては、なんとワンピースを着ている。正直、誰だこいつってぐらい違和感あるな。
『ニードルアースドラゴンの片方が第二ダンジョンから来たなら、今のセイリスには第一ダンジョン以外に最下層のフロアボスはいないわ。あの魔王でもさすがに最下層となると、魔力供給してフロアボスを復活させるまで時間がかかるはず』
とは、宿を出る前のシビラの弁。
想定外を何度か考えたシビラに対して、本当にそれで大丈夫なのかと聞いてみた。
その返答は、納得のいくものだった。
『あいつが一番キレたの、いつだったと思う?』
『イヴに後ろからばっさり斬られた時だろ』
『ええ。……その時出したのは、何だった?』
そう……あの魔王が選んだのは、ニードルムース。
魔物の召喚の仕方は怒り任せの雑なもので、間違いなく自制心を失っていた。
一番強い魔物でイヴを殺すつもりで召喚したのだ。
——そう、黒ギガントでも、青ギガントでもない。
あの状況で、第三ダンジョンの魔物を選ばなかった。
それはつまり、ギガント系の魔物がまだ補充できていないこと、フロアボスを呼べなかったことを意味する。
だから第二ダンジョンの下層の魔物しか用意できなかった。
今のセイリスは第一ダンジョン以外はかなり魔物が少なく、魔力が弱まっている可能性が高いとのこと。
だからしばらくは、ダンジョン外に魔物が溢れることもない。その間に街でやっておきたいことをやりたい、とのことであった。
そのやりたい事、というのは何かというと……。
「……服飾店の通り、だよな?」
「そ! ここがアタシの目的地」
以前イヴに服を買った店のある、服を置いてある店に挟まれた大通り。
「やりたい事って、まさか服を買うことか?」
「ん〜っ、惜しい!」
「惜しいってなんだよ、やっぱり買うのか? 服じゃなければまた宝石でも見に行くんじゃないだろうな?」
嫌な予感を覚えつつも、さすがに勝手に買った直後に宝石はないだろうと思って冗談半分で言った。
「当たり!」
冗談で終わらなかったぞおい。
「マジかよ、いきなり金遣い荒すぎるだろ」
「エミーちゃんも素敵な宝飾品が並ぶお店、興味あるわよねぇ〜?」
うわっ、嫌な手を! エミーを味方につけに行ったぞ!
エミーはこちらを見て戸惑いつつも、正直に答えた。
「え? え? あの、えっとまあ、そりゃありますけど……」
「はい二対一! さー行くわよ!」
気まずそうに身振りで謝るエミーに、お前のせいじゃないと首を振り、諦めてシビラへと付いていく。
別に行くのが嫌なわけじゃないんだ。こういう頭を使った戦いは、早々に諦めるに限る。
果たしてシビラが立ち止まったのは、それはもう立派な建物だった。
白い簡素な建造物が並ぶ中、小さい城か何かじゃないのかという見た目で装飾過多である。
間違いなく、ここが目当ての店だろう。
シビラは早速目の前の店に堂々と入り、店の棚に飾られた金の飾り物を見て満足げに頷く。
先程まで頭を掻きながら同情気味に苦笑いしていたエミーも、店に入った瞬間は「ふわぁ……!?」と声を上げてシビラの隣にすっ飛んでいった。
俺が男だからというのもあるんだろうが、こういうことに関する女性の気持ちというのは、多分一生分からないだろう。……男の身で寄り添ったつもりで、分かると断言すること自体が失礼かもしれないしな。
まあ、素人目に見ても、どれも繊細で綺麗なものだなと思う。
エミーに買ったブレスレットは、なるべくエミーの良さを殺さないよう簡素なものにしたが、この店のものは装飾過多と思うぐらいに凝っている。
それこそ……シビラが今付けているブレスレットみたいに、な。
「いらっしゃいませ、お客、様……!?」
俺がぼんやりと見ていると、女性店員がシビラの方へと目を輝かせて近づいた。
「お客様のような美しい方、初めて見ました……! 当店の品々は、きっとお客様を更に輝かせ、引き立たせるでしょう! よろしければ、わたくし自らご案内しても?」
「あら、いいわね〜。ちょっとお話いいかしら」
「はい! 何なりと!」
……そうだよな、シビラみたいな女がワンピース着てたら、お忍びのお姫様みたいに見えるよな。
エミーは……一歩引いて、俺の方へと戻ってきた。
「うう……分かってはいたけど、シビラさんの横に並ぶと同じ女として劣等感で心が死ぬ……」
「アレを比較対象にすると、まあ人間じゃ誰一人敵わないから諦めろ。それこそ貴族の令嬢でも連れてこないとな」
「人間なら、かあ……」
エミーが、ふと不思議なところで引っかかる。
「どうした?」
「ううん、一人シビラさんに対抗できそうな冒険者を知ってるなって」
……マジかよ?
あのシビラを相手にできる、令嬢じゃなくて……冒険者?
「ラセルがいなくなった翌日に、ヴィンスのところに来た魔道士の人なんだけど、女神像が動いてるような感じのものすーっごい美人で、しかもジャネットよりも、その……迫力すっごいの。私より背が高いのに、その上で……こう」
身振り手振りで、胸の所に両手を持ってきて、ぐるっと球体を抱えるように動かす。
……おいおい、エミーより背が高くて、ジャネットより胸が大きく見えるって、それどんな女だよ。つーか冒険者とか絶対無理だろ。
……というか、待てよ?
「ヴィンスは警戒とかしなかったのか? それとも……」
「ケイティさんに対してヴィンスが拒否するとか有り得ないよ。ていうか布少なすぎだし、ずっとガン見だったよ。……あ、その人ケイティさんっていうんだけど」
「ケイティ、か……」
聞いたことない名前だな……まあ容姿の特徴に心当たりがなかった時点で、知るはずもないか。
しかし、初めて聞く話だ。
エミーが新しい人の話を今までしていなかったのには、理由があるのだろうか。
「話から察するに、ヴィンスが積極的に絡んでいったであろうことはなんとなく想像つくが……今まで話さなかったってことは、エミーとの仲は悪かったのか?」
……少し思慮に欠けた質問だったかもしれない。
エミーは顔を伏せて、悲しそうな顔をした。
しかし……その答えは意外だった。
「とても良かったと思う。……色々教えてくれたし、私のこと憧れてくれて、すごく良くしてくれた。独り言が多いけど、欠点なんて外面も内面も全く探し出せないぐらい、いい人だったよ……」
じゃあどうして、そんなに辛そうな顔をしているんだ……?
俺が質問を重ねようとしようとしたところで——二階からシビラの叫び声が突如店内に響き渡る!
「——ラセル! エミーちゃん!」
その緊迫した声にエミーと目を合わせると、一旦会話を切り上げてシビラのいる二階に駆け上がった。
「言い掛かりにも程があんでしょ!?」
シビラが詰め寄られているのは、先ほどとは別の店員だった。
雰囲気から察するに、店長クラスの人間ではないだろうか。
「いえ、お客様。確かにこの商品であったと聞いております」
「だからっていきなりアタシを疑うなんて失礼じゃないの!」
ただならぬ様子に、エミーがすぐに飛んでいって二人の間に入る。
「セイリス冒険者【聖騎士】エミーです。彼女は私のパーティーメンバーですが、何か問題がありましたか?」
「せ、聖騎士様……!」
シビラに手を伸ばそうとしていた男が腕を掴まれて、身動きができずに冷や汗を流す。
……あの手に掴まれたら、全力で踏ん張っても本当に石の中に埋め込まれたように動けなくなるからな。
俺はその間に、シビラのところへと向かう。
「シビラ、何があった?」
「アタシが、セイリスの偽造通貨を利用した人だと疑われたのよ」
偽造、通貨だと……!?
シビラは、普段一切の硬貨を持ち歩いていない。
全てギルドタグに登録されてある自分の登録記録から決済をするようにしている。
以前も『時代はキャッシュレス』と言っていたとおり、現金で支払わない。
俺が店の男に反論をしようとしたところで、シビラの手の平が目の前に来る。
「ラセル」
「何だ」
エミーが男を留めている姿を横目に見つつ、シビラは俺に顔を近づけて……声を潜める。
「やっと、手がかりを掴んだの。下手に疑いを晴らさず、話を聞いていくわ」
……どういうことだ?
手がかり? この偽造通貨騒動とシビラの目的に関係があるのか?
俺は疑問を浮かべながらも、シビラの方針に任せる。
「とりあえず、奥で話を聞いてもいいかしら。アタシもその相手のこと、助けられるかもしれないし」
「……わ、分かった……」
男はエミーが手を離したことで安心したように大きく溜息を吐くと、俺達を店の奥へと案内した。






