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『不可視』でのそれぞれの感想

 『不可視』のアジトを出た俺達は、傾いた夕日を眺めながら溜息を吐いた。


「協力は得られなかったか。ま、俺が聞いた限りでも無茶振りだったと思うし、断られるのは当然か」


「いやー、無駄骨無駄骨! お腹も空いたわね!」


「あっ、おなかすきました!」


 エミーは本当に、飯の話にだけはいい反応するようになったな。

 お前はいつからこんなに食べるようになったんだ?


 いや、そこじゃねえよ。


「なんでわざわざ全員でここまで来させたお前が、商談失敗でそんなにあっさりとしてるんだよ」


「あら、過去を振り返ってもいいことはないわよ。未来に目を向けなくちゃ」


「そういう問題じゃねーだろ、叩くぞ」


 シビラは俺のツッコミにヘラヘラ笑って、ヴィクトリアの肩を抱きながら右手を突き上げた。


「ヴィッキーちゃんの旧友との再会を祝して、今夜はとっておきの美味しいお店で、ぱーっと呑むわよ!」


 マジか。

 なんつーか、もう俺から言えることは何もないな。


 敢えて言うなら、今日もこいつはいつものシビラだったということだけだ。


「ふー」


 ここで、あまり会話に参加しなかったイヴが、大きく息を吐く。

 首を回し、肩を回し、腕を伸ばして猫のように伸びをする。


「よう、疲れたよな……俺もだ。一応全員回復しておこう」


(《エクストラヒール・リンク》。あと《キュア・リンク》もしておくか)


 俺の回復魔法を感じ取り、イヴは目を見開いて軽くぽんぽんとその場で跳ぶと口角を上げた。


「うおっ、一気に楽になった! やっぱすげーっすわ、感謝っす!」


「気にするな」


 イヴの反応と同時に、他のパーティーメンバーも疲労が取れたことに気付いたようだ。

 次々貰う礼の言葉に片手で同じように応える。


「いやー、さすがというか何というか、ありゃ同業だらけっすね」


「同業というと、【アサシン】という意味か」


「うっす。多分もっと別のもいると思うんスけどね。全員近い感じで間違いねっすわ」


「そりゃ確かに緊張するな」


「そこそこ強い隠密スキル使って、気配遮断しながら壁にはりついてるのもいたっすよ。多分あの壁じゃシビラさんの明るい声ぐらいしか分かんないと思うんスけどね」


 そうだな、あの部屋は随分と防音がしっかりしていたように思う。

 天井から光が差し込みつつも、外の風の音など全く聞こえてこなかった。

 俺達の会話も聞こえないから、部屋の外の会話も聞こえていない。


「後は……やっぱあのリーダーさんっすね」


「レティシアか?」


「っす」


 『不可視』ギルドの暫定リーダー、とは言うが実質もうリーダーなのだろうな。

 あの鋭い目をした男の多い集団にいて、リーダーがなめられていないというのは相当に実力が上なのだろう。


 女神の職業には、性別の壁など軽く凌駕できるほどの肉体的な加護が乗る。


「まー間違いなくあたしより上っす。さすがにエミーさんにはびびってたっぽいんスけど、逆に言うと『聖騎士の強さに一人だけ気付いている』という辺りが相当っすわ」


 イヴよりも、か。

 現在のイヴは、かなり強い部類というか、ハッキリ言って斥候兵としては代わりがいないのではないかというぐらいに強いし能力が高い。

 隠れて行うタイプの情報収集なら、これ以上になく便利だろう。


 なら、言うまでもなくレティシアはそれ以上の隠密スキルの使い手か。


 強さに関しても、ある程度実力がある者なら、熟練者の腕を見抜く。


 以前、剣闘士ディアナがヴィクトリアと初対面だった時、闘いを希望したのは彼女の実力を見抜いたからだろう。


「あのレベルの情報収集チームがお断りっすか。やっぱ残念な感じっすね」


「全くだな。シビラのヤツは何を考えているんだか」


「んー……案外何か考えてるんじゃないんスかね」


「あれが?」


 こちらの気も知らず、美味しい肉詰めの話題を振るシビラと、最早肉以外に興味なしというぐらい目を輝かせるエミーを眺める。

 まあ実に楽しそうである。


「いやあ、まあ……万に一つも、そうだったらいいなーってぐらいで……」


 ほぼ信じてねーじゃねーか。

 じゃあ俺と同じだな。


 乾いた笑いで答えを濁しつつ、ヴィクトリアに呼ばれてイヴが前に向かった。

 代わりに、今度はジャネットがこちらに来た。


「お前もシビラなら何か解決策を仕組んだと思っているか?」


「何の話?」


 そりゃそうだな、すまん。

 あいつの唐突に話を始める癖が移ってしまっているようだ。

 何だか、完全に自分のノリがシビラに引っ張られたようで嫌だな……。


「いや、忘れてくれ。それよりジャネットは何か気になることがあったか?」


「気になることといえば、教皇のことだね」


 そういやジャネットがした質問は、俺自身も気になったんだよな。


「――普通に考えて、『太陽の女神教』の教皇は一人だよな」


「凄いね、ラセルは気付いたんだ」


「そりゃな。むしろノーヒントでそこに思い至ったジャネットこそ凄いな、頼りになる」


 俺がそう返すと、ジャネットが僅かに目を見開き、数度瞬きをすると……「えい」と、何故か俺の頭を小突いた。


「……前もやっていたが、お前のそれは何なんだ」


「自分で考えて」


 理不尽だ……こっちは全く勘が働かない。

 まさか照れ隠しか? というわけでもなさそうなんだよな。


「とにかく……教皇の話だったな。あまり大きい声では言えないが、太陽の女神が王国にいることを考えると、順当に考えれば『太陽の女神教』の教皇は」


「セントゴダートの『太陽の女神教』の教会にいるはず」


 やっぱりそこに行き着くよな。


 王都セントゴダートの城には、知っての通り王国の女王シャーロットがいる。

 彼女は人間の女王であると同時に、『太陽の女神教』における最高神の太陽の女神そのものである。

 会ったことはないが、恐らく教皇は彼女の近く、王国にいると考える方が自然だろう。


 しかし先程、レティシアは明確に帝国の『太陽の女神教』に教皇がいると言った。

 この状況をシャーロットは認識していないとは思えない。

 特に異議はないのだろうか。


「もう一つ、気になったことがある。ラセルも連想したんじゃない?」


 ジャネットは、それから話を切り換えた。


 連想したといえば、あれのことだろうか。

 地下へと入る、あの床の扉。


 偶然か、アドリアの孤児院にあった地下の図書室と同じ入り方だった。規模は遥かに先程の『不可視』の方が大きいし、内装も圧倒的に綺麗だったので違いはあるが。


「確かに、似てないと感じるのは分かる」


 ところがジャネットは、気になる回答をした。

 それは俺の感想が一般的であり、それ以外に思い当たっているという意味だろう。


「ってことは、ジャネットは何か似ていると思ったのか?」


「ん」


 小さく返事をして、淡々と――そう、いつもの会話のように感想を述べた。


「僕が見た限り、似ていたというか、恐らく同じ人が作っている」

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