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下層の難易度と、相性。その力をくれた者へ思いを馳せる

 目が痛くなるような、赤い壁。

 大きく広がる通路の中心に、俺とシビラは立っている。


 実は既に、相当数の魔物を倒している。

 しかも、特に苦労することもなく、だ。


「意外といけるんだが……何故だ?」


「あっ、ラセルが『えっこの程度簡単だろ?』ごっこをやってる! やーい嫌味ー!」


はたくぞ」


 こんなダンジョンの下層ど真ん中でも、孤児院の生意気なガキを相手にしている時と同じレベルのシビラに力が抜ける。

 緊張するよりいいが、こいつの場合緊張しなさすぎだからな。

 大体何だその聞いたことないごっこ遊びは。神の世界では流行っているのか?


「下層が簡単だと言っているんじゃない、中層より簡単なのが分からないんだ。これも相性問題ってやつなのか?」


 俺の疑問を理解したようで(恐らく最初から理解しているだろうが)シビラは解説を始めた。


「あんたってさ、中層から相手の魔物の出方を見て剣で対処するか魔法で戦うか決めてるわよね」


「まあな」


 シビラから敵の位置までは教えてもらえる。だが、その敵が闇魔法で倒し切れない時は、当然攻撃してくる。その場合は剣で対処した方が安全なので、どちらでも相手にできるように構えている。

 中層の時は魔法を使う前にこちらへ走り出している敵も多く、剣の出番も多かった。

 だが、今は出会い頭に魔法を何度も撃ち込めている。


「それよ。普通、魔法ってのは剣や槍と同列に考えていいものじゃなくて、基本的に『温存する』ものなの。これは回復魔法でもそうよ」


「まあ、そうだが……それはつまり、魔法を節約した場合は下層の方が難しいということなのか」


「そうよ。基本的に魔物の強さって『単純に能力が高い』というのと『対処がしづらい』という要素があるわね。まあ大体前者が後者を兼ねているけど、後者のみの要素というのもある。例えば上層で『魔法以外何も効かない魔物』なんて現れたら厄介でしょ」


 そんな魔物がいたらパーティーそのものを選び直さないと、上層や中層で出会った連中ではそもそもダンジョンにすら潜れないな……。


「だから、魔法を使う。対処しづらい魔物は精神的にも魔力的にも消耗するわ。その消耗こそがダンジョン最大の敵なの。逆に言えば、攻撃魔法も回復魔法も温存するものよ」


 温存する、か。

 普通の冒険者は、安定した生活と安全な稼ぎのために、ダンジョン上層を狩り場として暮らしつつ、各地を放浪していることが多い。

 温存という考え方がそこまで広まっていないのは、フロアボスそのものに挑まないからだ。


 シビラの話から分かるように、魔力の温存は通常の階層からフロアボスまで、という意味のみではない。

 上層から中層、そして中層から下層までも含まれる。

 下層を目指すのなら、中層で魔法は使わなければ使わないほどいい。


 やれやれ、知れば知るほど相性とタイミングの悪い環境にいたんだな……。


 シビラは続けて、下層ここの魔物の特徴を話し始めた。


「下層のタウロスは、剣で挑むと強いわ。その代わり警戒心が強いから、いきなり襲ってきたりはしない。魔法で倒すか、怪我しながら回復魔法を使いつつ剣で倒す。でも下層の魔物なので、普通の魔法は効きにくい。結果的に、フロアボスまでに魔力とマジックポーションが切れた時点で引き返すしかないわよね」


 なるほど、そりゃそうだな。

 俺の戦い方は、魔力の消耗を考えない戦い方。魔法を使って有利に進められる相手ほど、倒しやすくなるのは当然ということか。


 今更ながら、アドリアの村に現れたダンジョン下層の、リビングアーマーの集団というものの厄介さを感じてきたな……。

 鈍器でしか倒せそうにない怪力の鎧が、クロスボウ部隊を組みながら五階層に渡って大量発生しているなど、普通のパーティーではとても対処できないだろう。

 本当に、ダンジョンが現れた最序盤で攻略できてよかった。


「このまま下層フロアボスを倒す。様子見なく全力で行くぞ」


「よし! アタシも協力するわ」


「ああ、頼む」


 下層のフロアボスは、未だにどの相手も油断すると一瞬でやられてしまうような相手だった。

 


 宵闇の魔卿、か。

 ダンジョン攻略のための職業ジョブであると同時に、攻略することに全てをなげうっている。

 この職を得た時から、今もずっと。俺は守られ続けている。


 次々現れる牛頭ごずの魔物を闇魔法で圧倒しながら、大きく息を吸った。

 ——力が満ちるのを感じる。

 俺は、この力を与えてくれた幼馴染みに感謝しながら、いずれ共闘できることを願い下を目指した。




 下層フロアボス。

 準備も十二分に完了させ、俺はシビラに頷いて扉を開けた。


 目の前に現れたのは、崖。そして左右に広がるのは長い階段。

 嫌なものを思い出す構成だ。


 そして、部屋の中心に一体の魔物がいる。


「……これは、ありなのか?」


「アッハハハ、クッソうけるわ何これ。ここのダンジョンメーカーはセンスあるわね!」


 シビラが相手の姿を見て、気付かれるかどうかなどお構いなしに笑い声を上げた。

 正直、俺も笑いが出そうだ。フレデリカが空焚きした鍋ぐらいの湿度のやつな。


 部屋の中心にいたのは、牛の()をした、鎧の巨人だった。 


「タウロスでも何でもないだろ……」


 俺の呟きは、緊張感皆無の駄女神の笑い声の中に消えた。

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