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判明したのは三人目と評判、そして俺が次にするべきこと

 シビラと次に向かったのは、昼食を食べた場所の近く。

 ジャネットの話によると、この付近の高い金額の宿に泊まっているらしい。


 俺と一緒にいた時は安宿だったくせに、俺に金を使う必要がなくなった今はケイティを入れて高い宿か? 随分となめた真似をしてくれるものだ。

 これはエミーとジャネットが一緒にいた頃からだから、記憶どうこうとは関係ないよな。エミーの話によると、最初は俺のことも覚えていたらしいし。

 やっぱ帰ってきたら一発殴るか。


「で、この辺りに何があるんだ?」


「実際にケイティをどう認識しているか、もうちょい確認がほしいわ。男相手ならアタシが動くより、むっつりなあんたが動いた方が良さそうね」


「何だそれは……」


「だって、こんなに可愛いシビラちゃんのことを襲いたくてたまらない狼さんが、無関心なフリを——きゃん!」


 相も変わらず拡大解釈が凄まじいし、人のいる往来で言うことじゃない。


 頭を押さえるシビラだが、こいつはやられるのを分かってて言ってる節があるよな。

 意外とそんなに痛くないのかもしれない。もうちょい威力を上げるか?


「要するに、ケイティのことを聞き回ればいいんだろ?」


 言いたいことは分かる、女の情報を女が聞き回るのも変だから、男の俺が興味を持っている方が不自然がないのだろう。


「いてて……まあ、そんなところ。男に聞くなら男、女に聞くなら女かしらね」


 痛がりつつも、俺に説明を終えると、シビラはぐるりと辺りを見渡した。

 俺も視線を動かすと、時間を潰せそうな本屋がある。ジャネットが一緒にいると、結局入らなかったな。


「目印なら、あの建物がいいんじゃないか?」


「そうね。軽く評判を聞いて回ったら、ここにしましょ」


 俺はシビラと話を終えると、お互いに別の場所へ向けて歩き出した。




 随分と高そうな宿には、意外にも同じギルドで見たことがある顔がいた。

 そうか、上層を連日うろつくだけでも無論のこと、中層付近に入れるランクのヤツならこの辺りの宿は余裕で泊まれるってわけか。


 俺は、宿の近くのベンチにいる一つのパーティーに話しかけた。

 ギルドで見かけたことがある話し好きのヤツだが……恐らく、こいつらも……。


「なあ、聞きたいことがあるんだが、いいか?」


 男達は一瞬目を合わせると、そのうち近くの一人が「何だ?」と返してきた。


「この辺りに有名な勇者パーティーがいるだろ。話を聞きたくてな」


 男達の一人が「おっ」と声を上げて俺に興味を持ったように動く。


「もしかして例のケイティさんのことじゃね?」


 その言葉に、周りの人間も一斉に動く。

 名前も知ってるということは、隠したりしているわけじゃないってことだな。


「おお、なるほどな。いやー、ありゃすごいな」


 凄い、というのがどこにかかるかは分からないが……聞いてみるか。


「実際に戦った姿を見たことはあるのか?」


「ダンジョン内でだろ? あるぜ。勇者ってやつが強いのはもちろんだが、他の女もすげえよな。多分俺らより強いぜ」


 なるほど……この辺りに住んでいるということは、こいつらも決して弱くはない。だが、それでも評価するしかないほどに強いのだろう。


「後の二人について、俺は詳しくないんだ。何か知っているか?」


「おうおう、いいねえ。ケイティは攻撃魔法すげえだろ? ありゃ【魔卿】ってやつじゃねえの? そうじゃなけりゃ、相当高レベルだぜ」


「アリアもいい女だな。あれで動きも速い」


「俺はマーデリンちゃんが一番! 回復術士の女の子っていいよな〜、しかも控えめでとびっきり可愛いときた」


 残り一人の名前も判明した。

 マーデリンというのか。


 それにしても、控えめ……ね。

 その女が何度も安宿に足を運び、姿を知らせずにジャネットを連日眠らせていたと知らなければ、確かに可愛い子なんだがな。

 残念ながら俺にとっては、控えめどころか冷たい目をした怖い女という認識しかない。


「あーあ、勇者はあんないい女囲い込めるんだからいいよなあ」


「おいおい、女神の職業に文句言ったら職業取り上げられるぞ」


「冗談だよ冗談。まあ職は取り上げられなくとも、勇者に叩きのめされたりはしたくねえから滅多なことは喋るもんじゃねえ」


「そうだな」


 女神の選定式で出た職業に対して、それを僻んだりするのは明確に禁止されている。

 と言いつつも、俺は思いっきり太陽の女神の選定に納得していないがな。

 ヴィンスのどこに勇者となる理由があったのか、さっぱりわからん。


 俺の女神はそんなお堅いヤツじゃなく、容赦なく突っ込めるヤツぐらいがちょうどいい。


「勇者はずっとあの三人と組んでいたか?」


「そうだ……ったっけな? えーっと、わっかんね。ま、組んでないんじゃね?」


「一人だったらそれこそ自分と組まないかとみんな寄ってくるよな」


「そりゃそーだ!」


 ハッハッハ、と皆で景気よく笑っている。

 男三人、なかなかいいパーティーそうだな。


 だが……やはり、記憶が曖昧なようだ。ぼんやりとしている部分があるらしい。


 話しかける前に予測した通りだ。

 俺がこいつらを話し好きと知っている理由。それは、二度ほどこいつらに話しかけられたことがあるからだ。

 ギルドでも幾度となく顔を合わせたのに、俺の顔も全く知らないって様子だ。


 情報収集には便利だが……自分のことを覚えている人がいないというのは、形容しがたい虚しさみたいなものを感じるな……。


「見たところ、あんたも独り身か? 女の子狙うなら勇者以外にしときなよ。あれであの勇者は女の独占欲あると見た」


 それは誰よりもよく知っている。


「忠告感謝する。噂のパーティーのことを知っておきたいと思ってな。突然話しかけてすまなかった」


「いいってことよ! あんた見る目あるぜ、俺ら話し好きだからな」


「話し好きなのはお前じゃなくて俺だ」


「いんや、俺だね」


 話し好き度合いでマウントを取り合うとか初めて見たぞ。


「ああ、話のついでに聞いておいてほしいんだが、山の魔物の話は聞いたか?」


「情報だけなら」


 その話が出た途端、三人はけらけら笑っていたのが嘘のように、すっと真剣な表情になった。

 ……こいつらも、ここ等に住まうベテランだ。その事実を肌で感じる。


「ここだけの話、門番が遠吠えを聞いたってよ。もしかしたら、近くにいるのかもしんねえ。だが街の中までは入ってこれねえから、夜は出歩くな。森で火の魔法なんてダンジョンのように使えねえし、地の利はウルフどもの方が上」


 そうか……魔物はもう、ここまで溢れてきているのかもしれないのか。


「悪いことは言わねえ。しばらく籠もってな」


 俺はふと、また道の片隅でうずくまっている子供の姿を思い出していた。

 胸の内に闇の炎の熱が宿るのを感じる。

 知らずの内に、自分のローブを触れていた。


 もしも、あの時のように何も知らない子供がいたら、誰か助けてくれるだろうか。


 緊張を解いて「悪いな、脅して」と笑う男達。

 喋り好きで気が利く男達に、俺は軽く口元を緩めて手を上げ、その場を立ち去る。


「忠告感謝する」


 誰かが危険に晒されるなら——。


「ダンジョンのことは、覚えておこう」


 ——俺がその場所を封じるまでだ。

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