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自然にやっていたことほど、しなくなった時に気付けない

 ウィンドバリアを習得してからは、想像以上に順調だった。

 黒ゴブリンの投げナイフという攻撃を防ぐため、そういった想定外の事態を招くようなことを全て防いでくれる。急接近だろうと、接敵までワンクッションぐらいの時間は稼げる。

 自分の思考の外側からやってくる危機がなければ、これほどまでに緊張が緩和されるとはな。


 もう一つは、この魔法の特性。

 人が四人入って少し余裕がある程度の広さのこの魔法は、シビラと二人で使うとなると結構な余裕がある。

 お陰で移動中だろうと常に、シビラはこのウィンドバリアの範囲の中に入っている。


 シビラが近くにいると、怪我の程度がわかりやすい。

 攻撃を受ける度に「痛ッつ」「チッ」と、分かりやすく言葉を発するのだ。

 その声を聞く度に、俺は一切確認をせずにヒールとキュアを使っている。

 いくら使っても魔力の枯渇を感じないエクストラヒールですら出番がないほどなのだ、ただのヒールを節約して一体何の意味があるというのか。




 結構な数を討伐した。そう思ったタイミングで黒ゴブリンに続いて、村を襲ったダンジョンスカーレットバットも出没。

 ゴブリン二体は、バットが前に出るように横に避けると、こちらを見ながら武器を構える。


「まだ階段らしい階段もないというのに、この辺りで既にこいつが出てくるのか……厄介だな」


 第一層にいるこいつらを根絶やしにしなければ、おちおち孤児院の子供らが遊ぶこともできないだろう。


 シビラがバットを見ながら盾を前に構える。


「出たわね。このダンジョンがどうして出来たのかはわからないけど、こういう外に出るタイプって自然発生あんましないはずなのよ。だから一層のこいつら全部倒せば、まー当面は坊主たちもジェマさんも、安心できるわ」


「そうか、なら徹底的にやらないとな」


「逃がすんじゃないわよ」


「言ってろ」


 生意気魔道士に言い返しはしたが、俺はシビラのように遠距離魔法が使えるわけではない。バットを取り逃がすことは避けたい。

 そして正面の魔物の組み合わせは、連携、というわけではなさそうだが同時攻撃を仕掛けてきた。

 シビラが無詠唱で火の玉を散らしながら、主に盾を前に出した戦い方をする。


「チッ……黒いヤツが結構頭回るのよ、ゴブリンのくせにクソ生意気よね。《ファイアジャベリン》ッ!」


 こちらの戦い方を相談する前に、シビラが大きな魔法を使った。

 先ほどまで主力だったファイアアローよりも、鋭い魔法がバットの身体の中心に綺麗に入り、串刺しにする。


 俺はその魔法を見て一瞬足が止まったゴブリン目がけて踏み込み、首を切り飛ばす。

 もう一体が反応、後ろに下がりながらこちらにナイフを投擲しながら逃げる。こいつはなかなか判断が早いな。


 俺が追撃に走ろうと思ったところで、心臓に赤い線が突き刺さる。あれはファイアアローだな。

 ……いや、待て。今さっき……。


「っしゃ、悪くないわね!」


「おい、シビラ」


「ん? 何よ」


 何の気なしに黒ゴブリンの耳を切り落としながらこっちを見るシビラに、俺は疑問をぶつける。


「ファイアアロー、無詠唱で撃てるのなら早くやっとけよ。それに今のファイアジャベリンっての使えば、最初に危険に陥ることもなかっただろうに」


 その疑問に対して、シビラは腕を組んでドヤ顔。


「ふっふーん、さっきあんたがレベルアップしたように、アタシもレベルアップしたのよ。魔道士レベル10の魔法! どうよ?」


 ああ、なるほど……確かに俺がレベルアップしたのなら、シビラだってレベルアップするのは当然か。


「……俺が6のままなのに、シビラが二つも上がったのが納得いかないんだが」


「そりゃ攻撃魔法持ってるからね。やっぱ攻撃できるやつが、一番強くなるでしょ」


 シビラの答え。

 それは本当に……本当に当然の答えだった。


 思えば勇者パーティーのレベルも、ヴィンス、ジャネット、エミー、俺の順番だった。

 エミーは前衛で剣士であるが、【聖騎士】というのは主に守るためのスキルが多い。だからエミーは、前に出て最もモンスターの近くにいたはずだが、レベルは後衛のジャネットに劣る。


 同じ後衛職でも、シビラと俺ならこうなるのは当然か。


「……あ、あのさ、ラセル」


「ん? 何だ?」


 シビラは何やら申し訳なさそうに、こちらを上目遣いに見ながら言葉を絞り出した。


「……知ってると思うけど、【神官】って職業は人数自体少なくて、パーティーでは序盤大切に育てるってのが定説なのよ。でもあんた、なんで【聖者】なんかもらっちゃったのかわかんないぐらい強いから、アタシも調子乗っちゃってさ」


「シビラ、お前……」


「本当はアタシみたいな魔道士って、常識のあるヤツならトドメとか譲るべきなのよ。……黙っててごめん」


 そうか……そうだったのか。

 俺がこうなら、聖者に劣る神官が普通のパーティーでどうやって活動しているのか、全く分からなかった。

 なんてことはない、回復術士そのものが圧倒的に少ないのだ。だから活躍しなくても配慮してもらえるのが、当然なんだな。


 まあ、それでも俺はあのパーティーに役目はなかっただろうが……それでも、少しすっきりした。


「謝る必要はない」


「え?」


「シビラが悪いんじゃないし、優秀だと思ってくれてんのなら、それで十分。倒せなかったのも全部俺の責任だ。第一お前が謝るとか似合わねーよ、もっと堂々としてろ」


 俺が言いたいことを言うと、シビラは面食らったように瞠目しながら少し上体を逸らし、目を閉じて少し考えるように黙る。

 そして深く溜息をつくと、再び目を開けたときにはいつもの表情になっていた。


 再び腕を組んで、笑いながら肩をすくめる。

 やはり、シビラはこちらの方が似合う。


「そうね。それじゃ遠慮なく、今までどおりやらせてもらうわ」


「ああ、任せた。……ああ、あと」


「ん?」


「お前ゴブリンの耳持ったまま腕組んでるから、ジャケットの内側に血がついてるぞ」


「ギャーッ!?」


 ビシッと決まった軽装姿で格好良くポーズを取っていたと思ったら、目を白黒させて悲鳴を上げる美女。

 なんとも締まりのない姿だが、こういうどうしようもなくポンコツなところも含めて、シビラという女を形作っている。

 見ていて飽きないし、緊張していなくて済む。


「……フッ」


 俺は涙目でジャケットの血を拭くシビラを見ながら、小さく笑った。

 そして数秒後、ふと気付いた。




 ——自然に笑えたのは、いつ以来だろう。




「ああもう、後で洗わなくちゃ……。ん? どったのよ」


「何でもない」


 自分が勇者パーティーを抜ける前から、全く笑わなくなっていたことに、今の今まで気づけなかった。

 それだけ俺の中で、余裕がなかったということか。


 そしてこのお調子者にそういうことを知られるのは癪なので、そっけなく返す。

 首を傾げていたが、シビラはすぐに興味を失うとバットの方を解体して、その肉を焼き始めた。


 魔道士シビラ。たまたま組んでみたが、考え方が柔軟だし魔道士としても十分強いし、本当に何故ソロでやっていたのかわからん。

 男性関係のトラブルだとしたら納得だが、それなら俺と組んだ理由が余計に分からなくなるな。


 まあ多少のトラブルを持っていようとも、これだけ協力してくれるというのなら十分だ。

 村の脅威を取り除くまで、しっかり協力してもらおう。

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