ペルゼウス
水滴のような音がする。
ここはどこだろう。
俺は……。
目を開けても、真っ暗だった。何も見えない。
そばでシュウシュウいう音がした。
手を伸ばすと、何か柔らかいものに触れた。
「きゃっ!」
女性の声にハッとした。しまった、今、俺が触ったのって……。
「ごめん、何も見えなくて」
「いいえ、大丈夫。目が覚めたのね。良かった」
俺は……助かったのか。そして、この人が恩人?
「ここは洞窟なの。あなたを襲った人たちが探しにくるかもしれないから、身を潜めてるの。今は夜だから明かりをつけると目立ってしまう」
そうだった。あのとき俺は襲われて……。
「傷はもう大丈夫よ。明朝旅立つといいわ」
あれ、そういえば痛みがない。おかしいな、深手を負ったはずなのに。
「薬が効いてるわ。痛みもないはずよ」
「そうなんだ。ありがとう。俺はペルゼウス。君の名前は?」
「私……私の名前は………」
「?」
「だめよ、言えないわシアナ。この名前も知られてるかも」
「他に誰かいるの? シアナって?」
「あっ、ううん。ひとりごと。ずっと一人きりだったから変な癖がついちゃって」
「……」
「そうだ、これを飲んで。よく眠れるわ。朝までぐっすりよ」
彼女は俺に液体の入ったカップを手渡した。驚くほど冷たい手だった。
カップからは眠り草の匂いがした。
その瞬間、俺は、気を失う前に見たものを思い出した。まさか……。
「どう? 全部飲めた?」
「う、うん」
俺は飲むフリをした。
そして、しばらくして「眠い」と嘘をついて横になった。
「眠ったようね。シアナ、これでよかったのかしら」
彼女はひそひそ誰かとしゃべっていた。シアナという人物の声は聞き取ることができなかった。その代わり、シュウシュウという音が聞こえた。
「朝になって彼が出ていくまで、私はどこにいればいいかしら」