たった7分間で、自由経済に幻想を持つ若者が、確実に絶望する話
――自由経済とは、各経済主体の活動が各々の自由意志に任され、国家などによる干渉や規制を受けない経済体制。コトバンクより
皆さん、ウォーレン・バフェットという人をご存知でしょうか?
知っている人は、知っているとでしょう、1930年生まれ御年88歳、アメリカで、一番有名な投資家です。
世界最大の投資持株会社バークシャー・ハサウェイの筆頭株主、かつ会長兼CEOを勤めるバフェット氏は、世界長者番付トップ3の常連でもあります。
1位はビル・ゲイツ氏である事が多いのですが。
投資をしているなら、バフェット氏をご存知の方も多いでしょう、短期投資を辞め、堅実な株の長期保有で、リターンを上げるべきだという人ですね。
ランダムウォーク※主に株式の変動は予測出来ないというもの 関連だったか、数年前、このバフェット氏の驚異的な勝率は、確率的に証明出来る、という記事が出回りました。
投資市場に参加する人数が、多ければ多いほど、バフェット氏並の勝率を得る人の、存在する確率は、上がるという話ですね。
※話題になったと思いましたが、記事自体はどこの物か失念しました
さて、タイトルから記事に興味を持った読者の皆さまは、ここから、私がどのように論理を展開して、自由経済に幻想を持つ若者を絶望させようというのか、一度予測してみて下さいね。
もし、バフェット氏の偉大な実績の全て、もしくは一部が、確率的な根拠、つまりは「運」によって成された物であったら?
必然的に、本作品を読む若者は、自由経済に絶望するのだ、という内容になります。
※因みに、私は、バフェット氏の勝率は確率的に証明出来るという記事に対して、バフェット氏の実績の全てが、運によって成された物だったという所には、否定的です。
さて、皆さんなら、若者を絶望させるのに、いったい、どんな内容になるでしょうか?
そして、私の話術に、多くの読者は、コロッと流されてしまうのかも、再確認してみて下さい。
本作品の着想のきっかけは、バフェット氏の実績が運による物であるなら、バフェット氏と同等の能力を持つ人が、運によって市場から退場した可能性は、同等であるという事でした。
得られた仮定に、左右対称性があるのか、反転させてみて、仮定が正しいか確認しましょうというのは、論理的思考のテクニックの一つです。
この場合は、運で成功したという話を反転させたら、同じ分だけ運で失敗している人が居るという物。
反転した内容から、似た例が、私の知識内にあるか、すなわちは、本人の素養に全く問題はないのに、確率的に失敗してしまった類似例がないか、脳内で検索してみます……
※反転させ、類推しながら帰納法で確認してみたと書くと、解らない読者が居るため、この表現になります
すると、若者の就活で、100社落ちたという、都市伝説に突き当たりました。
この都市伝説、実は存在しないだろうと、一笑に付すような、あるある就活ネタですよね。
有効求人倍率の良くなった今とは、また環境が違いますから、世代ギャップのある話かもしれません。
大抵は、もしも、100社落ちる事がありえても、間違いなく、本人のせいだろうと、自己責任論で終わらせてしまう、この都市伝説。
実際、就活での自殺問題をネットで調べると、どの記事も、自分の程度を知れとの、自己責任論しかありません。
就活自殺について、意見を聞かれた学者が、自己責任論でもって指摘している始末です。
しかし、私のしたバフェットの話の類推では、この都市伝説、100社落ちたは、本人の素養と全く関係なく、確率的に証明出て来てしまうと、仮説が立ってしまったのです。
では、どんな確率かというと……就活生の数から割り出してしまいましょう。
就活生の数は平成21年で約38万人です。
平成22年は、リーマンショックの影響か、就活生は、約32万人に減ります。
以降、平成23年には、就活生は、約34万人に増え、1年ごとに、35、37、39万人と右肩上がりに成長しました。
平成27年には40万人を超えます。平成29年以降は、約43万人とさらに就活生は増加しました。
これは、確率的に、就活生の中に、40万分の1の運の悪さを、発揮してしまう人が出ても、何らおかしくはないという事です。
というか、母数的に、80万分の1程度なら、割と無くはない数字なのかなという所。
※13パーセント程度
さて、問題です。
本人の素養に何ら問題はなく、上手く自分にマッチした就活をしたのに、最悪の80万分の1を引いてしまった、ただ一つ問題はあったのは、運の悪さだけという、とある就活生がいるとします。
彼は、いったい何社落ちるでしょうか?
※有効求人倍率から、受からない人が居るのは当たり前だから、もう就活するなという意見は、問題がありすぎるので、脇に置いておく
これ、その年によって合格率が違うので、80万分の1までは解っても、何社落ちるかは、割り出せないんですよね。
問題にしたいのは、確率的に、毎年、何の問題もない誰かが、必ず何十社落ちるという話ではないので、本題に行きましょう。
ただ運が悪かっただけで、何十社も落ちた可能性のある、その就活を原因にした、各年の自殺者数、これこそが本題になります。
何も悪くないのに、確率的に何十社も落ちる人は必ず居るという話と、就活での自殺者を繋げる、勘の良い読者は、この作品の骨格が、見えて来たでしょうか。
前出した年で会わせると、平成21年、10代と20代の就活を原因とした自殺者数は、男105人、女25人、計130人となります。
平成22年、10代と20の就活を原因とした自殺者数は、男143人、女16人、計159人。
平成23年、同年代、就活を原因とした自殺者数、男126人、女24人、計150人。
平成24年、同年代、就活を原因とした自殺者数、男139人、女19人、計158人。
平成25年、同年代、就活を原因とした自殺者数、男100人、女10人、計110人。
平成26年、同年代、就活を原因とした自殺者数、男96人、女15人、計111人。
平成27年、同年代、就活を原因とした自殺者数、男83人、女9人、計92人。
飛んで平成29年、同年代、就活を原因とした自殺者数、男59人、女13人、計72人。
自殺者数と関係のある失業率は、平成21年から順に、5.1%、4.9%、4.5%、4.2%、3.7%、3.4%、3.3%、飛んで平成29年2.8%となります。
失業率と自殺者数が相関するのは、有名な話ですね。
この就活自殺者数の内、全てが全て、本人の素養に、なんら問題がなかったケースだったとは、敢えて言いません。
しかし、本人の素養になんら問題がないのに、ただ確率的に悪い数字を引いたせいで自殺した人は、この中に、必ず居るのです。
確率って怖いですよね。
お前が内定を取れないのは、お前が身の程を知らないからだ。
世の中のせいにするな、とにかく努力しろ。
巷の自己責任論は、就活自殺者の原因を、その一言二言で、片付けます。
では、実は確率的に既に約束されている、この手の確率を原因とした就活の失敗は、その人の身の程を知る事や、努力でどうにかなる問題なのでしょうか?
――無知は時に罪である。
就活自殺の原因を調べるに、一番必要だと思われる数字を、今現在も、厚生労働省は調べていません。
その数字とは、いったい何なのか?
確率的に一番悪い人は、何もしなくとも確実に何十社は落ちる、しかし、それが毎年何十社かは、解らない。
では、割り出せるであろう、就活生の自殺に、一番関係する数字は?
その数字とは、実際問題、就活生は、いったい、何社落ちたら、自殺しだすのかという閾値です。
そして、就活生は、何社落ちたら、死にたくなり始めるのかという閾値です。
必然的に、ここまでたどり着ければ、就活生の自殺を防ぐには、確率的な観点から見て、いったい、どうすれば良いのかという話になりますね。
政府が、就活市場を、自由経済に完全には任せず、閾値にかかった特に確率の悪い人だけは介入すれば、確率的に相当数自殺者は防げるハズなのです。
※逆説的に、就活自殺の閾値に、一般的な就活生の中央値が達した時、自殺者だらけになるのかは解らないけれど
対して、就活市場を、ただ自由経済に任せて、確率的に就活自殺者を防ぐ方法は、果たして存在し得るでしょうか。
私が考えるに、ありません。
これまで、普通に生きてきて、ただ確率に選ばれただけで、就活自殺に追い込まれた、ある就活生の死。
経済全体として見て、正しい自由経済の結果だとしても、私には、なんら意味を見いだせません。
損失でしかないハズです。
では、その、ある就活生の、生と死に、何か意味はあったのでしょうか?
遺族の方には申し訳ありませんが、敢えて言います、これ以上、無駄死にという言葉が、相応しい事例は、他には、なかなか見当たらないでしょう。
これこそが、自由経済の問題点です。
確実に起こる不幸への介入くらいは、政府がしたって構わないと思うのが普通の感覚ではないでしょうか。
時に、自由経済は、インモラルと批評されます。
これは、自由経済は、そもそも無知と無責任に溢れる経済体制であり、時に無知はインモラルとなり、無責任も必然的にインモラルとなるからです。
未だにある、就活自殺への、自己責任論による批評は、自由経済を標榜する事によって、勘違いに走るその典型です。
市場に、個人の自由意志が介入する余地が、どの程度あるのか、売り手と買い手の、自由意志は対等なのかという点は、永久に、自由経済の現実的な問題となり続けます。
なし得もしない自由経済に、若者が無知故に幻想を抱く、それを都合が良いからと放置する、むしろ、有りもしない自由経済に類する思想を垂れ流す、これも自由経済を標榜する人のインモラルの好例なのです。
自殺者の急増したリーマンショック-2009から、就活生の自殺は、2013年辺りまで、話題でありましたが、今はもう下火となりました。
※リーマンショックによる自殺率の急増を背景にNPO法人を先駆けにして自殺対策が大きく進んだ事もある
今現在、失業率ベースで急増した就活自殺という過去の大きな教訓があったのに、誰でも簡単にたどり着ける確率論ではなく、自己責任論が蔓延るのは、理由の一つに、そもそも批評側に、就活生の自殺そのものの興味が無く、自由経済、自己責任論という他の事への興味が勝る、というのがあるからでは無いでしょうか。
つい最近思い出したので、書いただけの作品です。
自由貿易や自由経済を批判してる事の多い私ですが、批判先って、自由貿易や自由経済の中の人だったりします。
何社落ちたら若者は自殺し始める閾値なんて存在しないと反論する方が出そうですが、予め失業率と自殺率が相関する理由を問いたいと思います。
本作品の立場からすれば、失業率が増えれば、自明的に閾値を超える人が増えるからです。
80万の1は四つ子を妊娠する確率に等しいそうです。
色々書き忘れた。