第一章 第六節 帰還
相原中尉とハーマン中尉は米国航空母艦に帰還する。だがアルテミスは日本に墜落していた
「アイハラ、俺達は生き残った」
頭に包帯を巻いたままハーマンが嬉しそうに笑った。
「ハーマン、ホールボディカウンタによっては余命僅かです」
軽傷だった僕だが、ハーマンは飛ばされてきた通信機器に頭を強打し十針縫う怪我をした。
司令部から救出されて、台湾沖の米国航空母艦に収容されるまで、ハーマンは顔が強ばったままだった。意識を失わなかった僕と違って、彼なりの死の恐怖を経験したのかも知れない。母国の軍艦まで戻ってようやくと安心したのだろう。
手元に届いた専用のタブレットで、ハーマンと共にCIAの秘密報告書を読む。
アルテミス1はやはり海南島の司令部を中性子線砲で狙撃したのだ。
CIAの高高度偵察機はその瞬間を捉えていた。体幹を斜め下に向け延長砲身を展開した姿。追い払われた末の置き土産に、海南島の地下司令部を破壊しようとしたのだ。だが幸いなことに、発射の瞬間延長砲身が崩壊した。中性子線砲は狙いを外した。
「アイハラ、陳少将はどうなった」
ハーマンが疑問を発する。ヘリコプターから病院に直行し、頭部MRIを取られたハーマンは、事情を知らない。
「中国本土の病院に運ばれたと聞いてます」
「そうか、彼は国を守った」
中性子線砲射撃後、弾道飛行を開始したアルテミス1だが、63秒後右側のスラスターが脱落、低軌道まで到達出来ず墜落した。
行き先は日本だ。
「報告書を書いている暇はありませんね」
「どうせ横田への連絡便の中で書かされる」
作戦開始から72時間は経過している。そろそろ眠りたかった。
結局報告書は、米国航空母艦ビル・クリントンに滞在したまま書く事となった。
日本軍、在日米軍の動きだけで日本は大混乱していた。
海南島におけるアルテミス1戦で生き残った連絡士官の事を、お偉方は忘れてしまったようだ。
するべき仕事は終えたので手持ち無沙汰に夕陽の甲板を散歩する。台湾沖まで来ると少しは秋の風を感じる。艦載機は厚木に呼び戻され、飛行甲板は閑散としている。
原子力航空母艦は桁外れの巨艦ではあるのだが、横田飛行場の滑走路を見慣れていると意外と狭く感じる。
EF−18Gが甲板上にぽつんと取り残されている。かなりのロートル機だが貴重な電子戦機だ。
係留された主脚の廻りを散策する。アルテミス1はこれより全長全幅とも小さい。そのほとんどを月で発掘された人型骨格が占める。人類が行ったのは艤装だけだ。骨格の材質は成層金属間化合物と呼ばれるオーバーテクノロジーの素材で原子レベルの3Dプリンタで成形されたと推測される。X線レーザー砲でも容易には破壊されない。人類が施した装甲は後付けの武装や補機類を保護するためのものだ。胸部にはゼロエンジンと名付けた未知の機関があり、無限の吸熱と、無限の電力供給を行う。かくして放熱機構無しにエネルギー兵器が打ち放題となる。腰部分には球殻と呼ばれるコクピットブロックが存在し、知的生命体の存在をキーにして人型骨格は稼働する。
十九年前、日本の探査機は月で異星人のものと思われる二体の人型骨格を発見した。これを契機に日本と米国は連合宇宙軍を結成して月で応用研究を始めた。
五年前、連合宇宙軍は突然地球からの物資の搬入を拒否して、日本及び米国に反旗を翻した。
海南島の方向に振り返り思考を断ち切る。今は止そう。
居住区に戻るために艦橋に足を向ける。そろそろ夕食の時間だ。悪くは無いが米国海軍の食事は大味だ。
「蚵仔煎【牡蠣入りオムレツ】が食べたいですね」
台湾島がはるか彼方に見える。あれは華蓮市だろうか




