第一章 第一節 作戦
相原中尉とシュワルツ中尉は、人民解放軍の陳少将に作戦の提案をする
艦載戦闘機の前方光学センサが、南シナ海上空に向けて放たれたX線レーザー砲の軌跡を感知した。
不可視の光学兵器と言えども十分強力ならば光学的な散乱によりほのかに光る。戦闘機の高感度センサなら捉えられるのだ。
軌跡の先で爆発の閃光を観測した。
怖じ気づいた戦闘機は僅かに後退する。光学兵器を避ける術は無い。追跡対象のX線レーザー砲を受ければ戦闘機は一瞬で砕け散るだろう。
幸い対象は超低空飛行をしている。この追跡機も地平線に隠れながら低空飛行を続ける。
「海1被弾」
空軍軍官【士官】の報告に、司令員【司令官】の陳少将が大型ディスプレイを睨みつける。
「相原中尉、提供された資料より連合宇宙軍機の有効射程が長いな」
そのまま、僕の方に険しい視線が回ってきた。
僕は、手元のタブレットに目を落とす。被弾したのは早期警戒管制機だ。状況は悪化している。この機体を失うと、敵の位置情報の把握に遅れが生じ、ミサイル及び対空X線レーザー砲の照準精度が落ちる。
「提供したのは連合宇宙軍反乱時点のX線レーザー砲の射程要素です。アルテミス1のターレット形状は同系列のものです。それ以上の効率改善は困難と分析しましたが、間違っていました」
「そうか、ならば君達はもはやただの『観戦武官』【日露戦争・第一次世界大戦頃の呑気な制度】だな」
「は……」
「それは違います」
米軍国防情報局のハーマン・シュワルツ中尉が割り込んだ。僕が日本人だから謝りかねないと思ったのだ。
「少将、我々は作戦原案をお持ちしたました」
「作戦?……失礼、あれは良い作戦とは思えないが」
「弱点を突く作戦です。アルテミス1の外装は人類の技術です。既知の限界があります」
「海南島には多数の民間人がいるのだぞ、連合宇宙軍一機墜とすのに核兵器を使えというのか」
司令室内の英語が使える軍官がこちらをチラチラと見る。
ハーマンに注目が集まり出したので口を挟む事にした。
「核兵器は最後の手段です。もし整備中の戦略ミサイル原子力潜水艦の出航が間に合わなければ、アルテミス1の中性子線砲によって核融合弾頭を起爆されます。そうなれば戦略的敗北です。飽和攻撃が有効なのは既存の兵器と変わりません」
「どれだけの損害が出るか分かっているのだろうな」
陳少将はため息を付いた。
「目標との距離推定1500km、ルソン島東側です」
割り込んだ作戦参謀の報告に、陳少将は中央軍事委員会との直通電話の受話器を上げた。
「躊躇するなら米軍が介入します」
ハーマンが余計な事を言う。
「それには及ばんよ」
陳少将が受話器に話し出した。
日本軍と米軍がアルテミス1と呼び、人民解放軍は連合宇宙軍機と呼ぶ人型有人飛行兵器は一昨日太平洋上に降下し、今朝より超低空を飛びながら海南島三亜港の原子力潜水艦基地に直進している。
アルテミス1の目標は、中国の戦略ミサイル原子力潜水艦に積載された核融合弾頭。強力な中性子線があれば、外部から核融合弾頭を起爆出来るのだ。アルテミス1は非常に強力な兵器だが、大量破壊兵器では無い。人民解放軍の核融合弾頭を起爆する事により継戦能力を失わせ、その力を示威する事が目標であると推測されている。
「作戦開始だ。作戦案二一号。各部隊ただちに状況を開始せよ」
中央軍事委員会の許可が出たらしい。
「戦闘機数機を早期警戒管制機代わりに上空で待機させろ」
空軍軍官が命令を復唱して、具体的な指示に変換した。
「第二飛行隊一番機、四番機、高度一万六百メートル、撃墜されないように距離をあけろ」
「核兵器使用を許可する権限は私には無いぞ。分かっていると思うが」
陳少将は僕達を見ずに呟いた。
「適時適切に対処されると信じております」
作戦の第一段階は、対空ミサイルを初めとした通常兵器の飽和攻撃でアルテミス1の侵攻を遅らせ、かつ兵装及びパイロットに過負荷を掛ける事に目的がある。
これにより海南島の戦略ミサイル原子力潜水艦を全て海中に沈める時間を稼ぐ。強力な中性子線砲であっても水深二百メートルまで潜行すれば減衰する。整備中の原子力潜水艦は潜行出来ないので文字通り沈没させる事になる。弾薬庫にある核融合弾頭は中国本土に移送する。海上や地上で核融合弾頭を起爆させる訳には行かない。
第二段階は、海南島の防空システムと防空駆逐艦で迎撃する。アルテミス1は、戦略目標、すなわち戦略ミサイル原子力潜水艦、弾薬庫、指揮管制施設を中性子線砲で狙撃するだろう。陸上設置型、艦載のX線レーザー砲でアルテミス1と撃ち合う。射程では負けるが、砲門数で勝負する。
第三段階は、中国本土から発射した対艦弾道ミサイルを精密誘導してアルテミス1を攻撃する。対艦弾道ミサイルは陽動だ。ミサイル防衛対策を施された弾道弾はX線レーザー砲の効果が薄い。アルテミス1は中性子線砲で弾頭を起爆して迎撃するだろう。我々も飽和攻撃するので全ての弾頭を破壊出来ないはずだ。低高度核爆発の反射衝撃波による不意の損傷を避けるためにアルテミス1は上昇する。そこを山陰に設置したX線レーザー砲で迎撃する。




