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勇者と幼なじみの物語―あざと勇者の愛が重すぎる―  作者: 華乃ぽぽ
6章

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空白を埋める熱


「……ルル、お願い。この子を」


祝賀会場の控え室。

ミラは、駆けつけてきた侍女のルルに、疲れて眠ってしまったシエルをそっと預けた。

ルルは、ミラの横に立つアルヴィン――人類最強の勇者が、まるで所有権を主張するかのようにミラの腰を引き寄せ、無言の圧力を放っているのを見て、小刻みに震えながらも頷いた。


「は、はい。……命に代えても」

「ありがとう。……少しだけ、時間を頂戴」


ミラがそう告げると、アルヴィンは「行くよ」と短く囁き、ミラの肩を抱いて、近くの貴賓室へと連れ込んだ。


カチャリ。


重厚な扉が閉ざされ、鍵がかけられる音が、やけに大きく響いた。

世界から切り離された密室。

そこにはもう、勇者も魔王の系譜も関係ない。


「……アル」


ミラが振り返ろうとした瞬間、背後から伸びてきた腕によって、扉に押し付けられた。

逃げ場はない。

背中には硬い扉、目の前にはアルヴィンの広い胸板。


「……やっと、二人きりだ」


アルヴィンの声は低く、そして熱を帯びていた。

彼はミラの顔の横に手をつき、逃がさないように閉じ込める。

その黄金の瞳は、少年のような無邪気な輝きではなく、獲物を追い詰めた捕食者のような、昏く妖艶な光を宿していた。


「ねえ、ミラ。……僕がどれだけ我慢していたか、分かる?」


彼はミラの髪を一房すくい取り、指先で弄ぶ。


「一年間。君がいない地獄のような日々も……。そしてさっき、君が『魔族の男の子だ』なんて残酷な嘘をついた時も」

「っ……そ、それは……」

「理性が焼き切れるかと思ったよ」


アルヴィンはふわりと微笑んだ。

それは、かつてミラが弱かった「天使のような笑顔」の面影を残しつつ、ゾクリとするような色気が加わった、大人の男の笑みだった。


「君は昔から、僕のこの顔に弱いよね?」


彼はわざとらしく顔を近づけ、長い睫毛の奥から、濡れたような瞳でミラを見つめた。

計算高い。

自分がどう見えればミラが拒絶できないか、彼は完全に理解してやっている。


「……アル、ずるい」

「狡くさせたのは君だ。……責任、取ってくれるんでしょ?」


アルヴィンはミラの顎を指で持ち上げ、唇を重ねた。


「ん……ッ」


甘えるような言葉とは裏腹に、その口づけは強引で、深い。

唇を割り、舌が侵入してくる。

ミラの口内を蹂躙し、息継ぎの暇さえ与えず、絡み合う唾液の音だけが部屋に響く。

腰に回された腕が、ギリギリと骨が軋むほど強くミラを締め上げる。痛いほどの愛おしさ。


「は、ぁ……っ! アル、苦し……」

「息なんてしなくていい。……僕で満たされて」


唇が離れると、銀の糸が引いた。

アルヴィンは熱っぽい瞳で、乱れたミラの表情を眺め、満足げに喉を鳴らした。


「……いい顔だ。昔よりずっと、色っぽくなった」


彼はミラの体を抱き上げ、そのままベッドへと運んだ。

抵抗する気力など、最初から奪われている。

ベッドに沈むミラの身体に、彼が覆いかぶさる。


「……見て」


アルヴィンは自らの服のボタンを外し、シャツをはだけさせた。

露わになった鍛え上げられた肉体には、無数の古傷が刻まれている。

それは、彼が「少年」から「英雄」へと無理やり成長させられた証だった。


「痛々しい……。こんなに傷ついて……」

「痛かったよ。すごく」


彼はミラの手に自分の手を重ね、胸の傷跡へと導いた。


「君がいなかったから、傷が開くたびに死にたくなった。……でも、死ねなかった。君を探さなきゃいけなかったから」


彼はミラの指先に、チュッと口づけを落とす。


「……治してよ、ミラ。君のキスで」


甘えたような上目遣い。けれど、その奥にあるのは「絶対に逃がさない」という鋼の意志。

ミラの母性本能と罪悪感、そして女としての情動を同時に刺激する、完璧な手口。


「……分かったわ」


ミラは吸い寄せられるように身を起こし、彼の胸の傷に唇を寄せた。


「……ん……」


傷跡に舌先で触れると、アルヴィンがビクリと背中を震わせ、甘美な吐息を漏らした。

その反応に、ミラの胸の奥が熱くなる。

最強の勇者が、私の前だけでこんなにも無防備な姿を晒している。


「愛してるわ、アル。……もう二度と、あなたを一人にしない」

「約束だよ。……破ったら、鎖で繋いででも離さないから」


アルヴィンはミラのドレスに手をかけた。

黒い生地が滑り落ち、魔族となって白さを増した肌が露わになる。

彼はその変貌を嫌悪するどころか、崇拝するように見つめた。


「黒い髪も、赤い瞳も……。全部、僕のものだ」

「……怖くない?」

「まさか。……ゾクゾクするほど美しいよ」


彼はミラの鎖骨に噛みついた。

チクリとした痛みと、熱い痺れ。


「あッ……!」

「君が魔族なら、僕も堕ちるところまで堕ちよう。……英雄なんて肩書き、君の中で溶かしてしまいたい」


二人の肌が重なり合う。

かつてのような幼い恋の火遊びではない。

互いの欠落を埋め合わせ、魂ごと所有し合うような、重く、深く、そして甘美な儀式。


「ミラ……愛してる……。誰にも渡さない……」

「私も……」


窓の外では、静かに雪が降り積もる。

けれど、密室の熱気は冷めることなく、愛しい人の名前を呼ぶ声と、甘やかな音が、夜明けまで途切れることはなかった。


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