君と俺の短い日々
長編になります。
よろしくお願いします。
いつも通り、病院へ来ていた。
白い建物の中は、優しい顔した看護婦さんとか目が虚ろな患者とか、様々な人がいる。
ロビーで座っているといろんな人がいて、観察できる。観察している間は、ほぼ何も考えていないからか一番落ち着く。
俺は、小さい頃に声が出せなくなった。そのせいで病院へ通院している。今日はちゃんと診断目的で来た。まぁ、ここがなんか落ち着くから、診断しなくていいときもここへ足を運んでいる。
"声が出せない"。
今の俺ならまだしも小さい頃からだったこの症状は、気持ちを伝える唯一の手段を封じた。手話とかもめんどくさかったというのもあって習ってない。結果的に俺は、人に自ら気持ちを伝える、なんてできないのだ。だから、日常的にめんどくさいことに巻き込まれる。
「···君、一人?」
見慣れない人影に首をかしげる。
誰だ、こいつ。
《 そう ですけど 》
俺は途切れ途切れにそうかくと、今度は相手が首をかしげる。
「なんで、話してくれないの?···あと、字、汚い」
この子は初対面でもズバッとしたことを言う人なのか。めんどくさいな。
思っていることを顔にこれでもかというくらいに出し、またサラサラと汚い字をかく。
《 しゃべれねえの よけいなおせわ 》
俺も文面ならズバッとしたことが言える、と自分では思っている。
字が汚いのはおいといて、なぜオールひらがなかって?漢字がめんどくさいからだよ。
「よ、けいな、おせ···なによ、余計なお世話ってー!!」
あーうるせぇな。そう思いながら立ち上がろうとすると、目の前にいる女は俺の肩に手をのせ、力を入れた。立てない。
目線を上にやり、目の前の女を睨み付ける。
「ちょーっと手伝ってもらいたいことがあるんだけど···。あ、声出ないならだめ、なのかな···?」
声が出ないから、だめ。
何回も言われた言葉だった。大抵は別にどうでもいいことだったけど、1つだけ、声が出ないことを理由に封じられるのが嫌いなことがあった。
《 なにそれ 》
「いやー今度学校で合唱するんだけど、私音痴だからさー、周りにすごい言われるの。でもそれが嫌で···。だから誰かに聞いてもらおうと思って」
嫌いなこと。音楽に関することだ。
元々、歌を歌うのは好きな方で、暇があれば流行ってる曲やらなんやら歌って、と頼まれたものだ。歌が上手いねと言われた。声が綺麗ねと言われたこともある。
唯一の武器を失った俺は、もう何も持ってなかった。
《 きいてやるよ それくらいはいいだろ 》
「えっ、ほんとっ!?」
キラキラさせて俺を見つめる瞳。見ていると吸い込まれるような瞳。そんな瞳が俺を掴んで離さない。でもなんでだか吸い込まれてもいい、そう思えるような綺麗な瞳。
俺が頷くと、病院だっていうのにはしゃぎはじめた。
「やったー!じゃあこっち来て!良いとこあるの、ね!!」
俺は引きずられるようにして、女の子のあとをついていった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
続編もよければよろしくお願いします。