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知識の宝  作者: エンジェルミート
3/5

二話 知らない

ルーテシアは眩しい朝日に目を覚ました。

柔らかい。

ここがベットの上だと気づくと、この感覚がベットだと、記憶にインプットする。今まで冷たい床で寝ていたので、フカフカのベットと暖かい布団が気持ちよかった。

「よう。嬢ちゃん」

いつの間にそこに現れたのか。ルーテシアはゆっくりと声の主を見る。

誰だっけ…。

すると昨日の出来事が鮮明に蘇ってきた。逃げろと言われたこと、記録に書かれたことを言っただけなのに殴られたこと、それがとても痛かったこと、多分この人に抱えられたこと。それと。

「シャルル・ジャエノン」

彼女はどうなったのだうか。国兵から必死に逃がそうとしてくれたシャルルは、どこにいるのだろうか。

「あぁ、あのレディなら心配いらないぜ。俺が安全な場所まで送ったからな」

ルーテシアの心を読んだように大丈夫だと微笑む。

「自己紹介がまだだったな。俺は──」

「レオ・ブラック。自称世紀の大泥棒。金、銀、宝石、絵画構わず盗みを働く。その犯行の手口は、時に派手であったり、時に地味であったりと読みづらい。稀に悪徳業者や不正を働く貴族の悪事を暴く。一部からは支持されるが、悪事を暴いても金目の物は華麗に盗んでゆくため、犯罪者には変わりない」

「随分と辛辣だな」

さっき起きたばかりなのにお喋りなお嬢様だ。と笑いながら付け加え、部屋を出ていった。

鳥の鳴き声がする。塔で聞こえるものとは少し違う。

ルーテシアは起き上がろうとしたが、背中が痛くて諦めた。

「痛い」

「当たり前ですよ。完治するまで大人しくしてください」

部屋に入ってきたのはレオともう一人、眼鏡をかけた黒髪の男だった。

「酷く腫れているからね。はい、服脱いで」

男はルーテシアの体を優しく起こして言った。

「あれ?レオから聞いてない?」

キョトンとしているルーテシアを見つめると、男は吹き出した。

「ごめんごめん。まだレオから聞かされていないんだ」

レオ、ダメじゃないか。ちゃんと説明しないと。笑いながらレオを叱責する。

この人たちは笑ってる。

ルーテシアはわからなかった。

「ごめんね、ルーテシアくん。驚いてるだろう?僕は──」

「知ってる。リュカ・マーティン。腕の良い医者で、嘗ては先代国王陛下の主治医を務めた、若きエース。しかし、手術失敗で死刑宣告されたものの牢屋から逃走。それ以来行方不明」

ルーテシアから淡々と述べられる事実に、リュカは驚きを隠せなかった。

「だから言ったろ?辛辣だって」

「これは凄い。という訳で服、脱いでもらえる?背中の腫れを見ます」

ルーテシアはボタンに手を掛けて、一つ一つ外していく。

「レオは出てってね」

「へいへい」

レオが部屋から出ていった頃には、ルーテシアの背中の痛々しいアザが露わになった。

「少しは引いたみたいだね」

リュカが背中に温めたタオルを当てて包帯で巻いた。

「内出血が止まって腫れが引き始めたら、こうやって患部を暖めるんだよ。アザを残りにくくするためにね。まあ君は知ってるだろうけど」

ルーテシアは何も言わない。

「君はね、ここに運ばれてから丸二日は眠っていたんだ。お腹が空いたろう。後で食事を持ってくるよ」

包帯を巻き終わり、ルーテシアが服を着るとリュカは薬箱を片付けて立ち上がった。

「君は聞かないんだね。国兵が君を狙った理由も、レオが君をここへ連れ去ったのも」

ルーテシアは答えない。

「それとも、君は全て知っているのかい?」

ルーテシアは俯いたまま。まるで答えなど持っていないかのように、シーツをぎゅっと握る。

リュカは溜息をつくと「おやすみ、ルーテシアくん」と言って、部屋から出ていった。

私は知らない。国兵の目的も、レオが私を連れて来た理由も。あの塔に居れば、知る必要の無いことだったから。記録には書かれていなかったから。

ルーテシアは背中の痛みを無視して、膝を抱いて蹲った。

シャルル・ジャエノンが言った通りだった。あの塔の世界は小さい。そんなことを思って、ルーテシアは眠りについた。



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