目覚は好調、だがしかし
「・・・・・・・」
「やぁ、リサク、カリスが済まなかったね」
「えっと、俺は、あの凶暴女に腹殴られて」
「あれは君の体内のマナの循環を良くさせる施術なんだよ、どうだい身体の調子は?」
「あー、何となく身体が軽くなったような」
「まぁ、流石に3日も寝込んでいたから心配したけど何も問題なさそうなら良いけど」
3日!?
あれから3日も寝てたのか?
「ジノさんは」
「僕から事情を話して村に戻って貰ったよ」
なんだと!?
おいてけぼりか!?
「リサク様、お身体の方どうでしょうか?」
「あ、フェリス様」
「3日も寝込んでいたと聞きました。命の恩人足るリサク様に何も出来ず申し訳ありません」
「お気になさらず、3日も滞在しまいご迷惑ではなかったでしょうか?これ以上ご迷惑は掛けられませんので、今すぐに村に戻りたいと思います。」
「それなんだけど、リサク、君、思っていたよりもマナの活性力が多いんだ、不安定な状態で村に戻れば魔力を使わなくとも何かの弾みで暴発しかねない魔力を制御する訓練が必要なんだ」
「リサク様はゼノカルチュアに着て日が浅いと聞きました。渡人はここでの生活は保証されています。ご不安、ご心配の面はあるかと存じますので、是非にもここでの生活を御了承下さいませ。」
美人のお姫様にそう言われたら断るに断れない
「わかりました、ご迷惑をお掛けします」
「迷惑だなんて思ってないよ?渡人はこの世界では初めて知ることばかりで大変な思いをさせてしまう、だから渡人達の手助け率先してすることは僕達の義務でもある。」
「優しいんだな、見ず知らずの俺なんかに」
「見ず知らずではありません、リサク様は私の命の恩人なのですから、自分なんかと卑下されないで下さいませ。」
「リサクが思っているより僕は非道じゃないよ?目の前に困っている人がいたら助けたい、その為に騎士になったんだ」
このイケメンは己よりもお節介な性格している。
それにお姫様も
「お世話になります」
暫くの間、厄介になろうと思う
魔力の制御が出来るようになったらバルプ村に戻ればいい話だし
少し紆余曲折あってもいいと思う。それがどんな困難が待っていても。
魔力制御は思っていたよりも難しい
使えていた魔法すらまともに使えなくなった
「自分がチートでキーパーソンなんて、思わないけど、責めてこの世界で生き残れる統べぐらいあっても言いと思うのだが」
まぁ甘えだな
何一つ出来ないと言うわけじゃない
施術後は驚く程身体が軽い
身体能力が上がったのかというぐらい
「よっ?リサク、調子はどうだ?」
「見ての通り全然だ」
焼き焦げた肉の塊をソイツに見せる
「あらら、焦げたところ剥がせば食べれなくないぞ?」
「食べるつもりか?」
「ん?当たり前だ、丁度、腹減ってたしな」
銀髪、蒼眼、イケメン
リュウス・アレノダ
第三騎士団長
騎士団長はイケメンしかいないのか?
「ん、中は丁度良い焼き加減だ、美味いぞ!」
「それは良かったな?」
訓練から2週間
中々上手くいかないもんだ
でもまぁ、色々、城の中で融通が利く
渡人だと知れていることもあるがフェリスの恩人だとも知れていた。
大したことはしてないのだがな
「つうか、こんな狭い部屋で良いのかよ?渡人とはいえ、リサクはフェリス様の客人扱いなんだしよ?」
「俺には充分の広さだよ、それに無償なんだから贅沢出来ないだろ」
「変わってるなリサク、そういうところ好きだけど、もっと俺達頼ってくんないと」
「頼るっても必要最低限の生活は保証されてるし、魔力の制御は自分自身の問題だからなぁ」
「リサクはわかってないなぁ、そりゃあ、俺は騎士団長という立場だけど、リサクとはもう友人なんだ、友人には頼られたいし、仲良くもしたい」
「いや、その気持ちは嬉しいけど」
「失礼します、リサクさん、どうですか調子は?あら、リュウスいたの?」
緋色の長い髪、燃えるような紅い瞳
ルルビィ・アレット
第四騎士団長
取り敢えず美人、性格は抜きにして
「ルルビィ、相変わらずだね、そうそう、さっき、クレイが呼んでたよ?」
「あら、嫌だわ、クレイ様ったら、私が美しいからって」
「うん、さっさと始末書出せって、じゃないとカリスの実験台にするってさ」
「なんですって!?ふふふ、リサクさん、すみません、用事を思い出したので、では失礼します。」
何しに来たんだ?
「ルルビィは実力あるのに残念な性格だよなぁ美人なのに」
イタイ女性であることは確かだった
「俺もそろそろ戻らないと」
「そうか、話し相手ありがとな?」
「いつでも話相手になってやるよ?訓練なければさ」
「騎士様も大変なんだな」
「何かあった時の騎士だからな、何かなくてもすることはするけど」
「頼りにしてるよ、リュウス」
「嗚呼、頼りにしろリサク」
頼れる存在がいると心強い
自分はこの世界で何が出来るとか何をすべきなのか
そんな使命じみたものは似合わない
自由気儘に生きることもまた、一つの選択
「リサク様」
「ミリアさんか、もう訓練の時間?」
「はい」
ミリア・ホライザク
物静かな出で立ちで蒼白の髪、金色の瞳、やはり美人だ。
騎士団長様達は美男美女で構成されているのか?
「すみません、何時までも付き合わせてしまって、ミリアさんも忙しいですよね?」
「大丈夫ですよ、私のことはともかく、リサク様が日々、不安のない生活をお過ごし頂ける為に少しでも助力出来ればと思うのです。」
ミリアさんかはルルビィと違って聖母様のような清らか淑女だ。
「では、始めましょうか?」
魔力をコントロール出来れば大抵は何でもこなせる。
そんな基本的なことさえ乏しい己は色々と学ぶことが多い
24なのに、また勉強しなければならない
勉強嫌いと言うわけじゃないがどうも知ることが沢山有りすぎる。
バルプ村で教えて貰ったことだけでは全く足りていなかった。
「そこまでに、しましょうか?だいぶ上達していますよ?」
「ありがとう御座います」
魔力のコントロールに一定間、手のひら上にずっと水の塊を存在させる。
気を抜けば一瞬にして手のひらから溢れ落ち水浸し。
ある程度集中していれば問題ない。
「リサク様、どうかなされましたか?」
「いや、ミリアさんは何で騎士に?優しくておしとやかで、争いとは一番無関係そうな感じなのに」
「うふふ、リサク様は私の身を案じて下さるのですね?ですが、リサク様?私は騎士団長です。強き者は弱き者を救うのは通り、私は色々な方に救われ助けられました。だから、私も騎士になり皆さまのお役に立てればと騎士になりました。」
「そっか、確かに人助けをする理由なんかないよな、助けたいと思ったから助けた。それが偽善的でも」
「リサク様はお優しいです。だからこそ、沢山、傷付き、心を閉ざしてしまったのですね?」
「参ったな、ミリアさんは、本当、聖母様だ」
この世界でも誰を信じたらいいか頼ったらいいか躊躇する
所詮は、見捨てられる
魔力のコントロールが上達したら其までの関係
仲良くする必要はないのにな
皆、優しい
優しいから信じてみよう、頼ってみようと思ってしまうが
立場上、渡人である己が騎士団長達の手を煩わせるのは如何なものかと思う。
自分一人ではこの世界で生きられないことは承知していても
独り善がりに思ってしまう。
「リサク様、ご安心下さい、私は貴方を見放したりは致しません。」
「何でそこまで優しいんですか?」
「リサク様は渡人、この世界に産まれ持った赤子と同じなのです」
「赤子って、もうとっくに成人してるけど」
「年は関係ありません、見知らぬ世界で生きると言うことは並大抵のことでは、ありませんから、何から何まで知る必要があり、この世界に住む者とは違い不憫を強いられてしまう」
「俺は幸せ者ですね?渡人でなければ皆に心配、優しくされることもなかった。」
「リサク様」
「渡人でなければ、俺は見捨てられた、そういうことなんですね」
優しくしているのは渡人だから
人間してじゃない
ずっと不信感を持ってた
何故優しくするのか?
渡人だからだ
この世界に来て何も知らない
害もなければ利もない
ただ、可哀想だから優しくしている
そこを勘違いするなと言われたような
そんな気分だった。
「俺に優しくする理由ってただの義務や同情、なんだ、それならそうと言ってくれればいいのに」
「リサク様、私はそのように思っていません。私の言でそのようなことを思わせたなら申し訳御座いません。ただ、純粋に貴方を案じているのです、渡人とは関係なく」
「それでも、どうしたらいいかわからない。信じていいかさえ」
見捨てられ続けた己に誰かを信じろと言うのは簡単には出来ない
「信じなくても、良いです。でも、少しでも信じてみようと思うなら私達を信じて下さい。この世界で誰かを信じ頼ることは難しいことかもしれません。ですが私達、騎士は貴方を見捨てたり、放っておかない」
そうまで言われて信じてやれないことはない
己よりもお節介で世話好きじゃないかと思う。
騎士が全員そうだとは限らないが
「ミリアさんは、凄いな、わかったよ、此処にいる間は騎士様達を信じるし頼る。さっき、リュウスを頼るって言ったしな」
「リュウスさんとは、仲がよろしいのですね?」
「良く話相手してくれるし、教えてくれるからかな」
「でしたら、私も負けていられませんね?」
何だか美人と話すのは多少、緊張はするけど
こんな、何気ない会話をしたりのんびりするのは悪くない。
「今日も指導ありがとう、ミリアさん」
「いえ、貴方との一時は私の息抜きにもなります。初心を忘れないようにと、気付かせて頂きました。」
真面目だなぁ
リュウス、ルルビィとは大違いだ。
「騎士様ばかり頼るのは申し訳ないなぁ」
と言うことで王都随一の図書館に来てみた。
この世界のこと、マナ、魔獣など基本的なおさらいしてから
マナの活性化に伴う魔力の蓄積をどう解消したらいいか調べてみる。
毎日のように魔法、魔術を使えたら良いが不安定な今、使うのは得策ではない。
適当に何か役に立ちそうな本はあるかと探していたら
ある本が目についた
「ん~、召喚術?」
精霊、精獣などを使役しこの世界に現界させ、力を借りる。
殆どが魔力を代償とし契約を為す。
現界させるには契約者の魔力を必要とする。
ある意味一番楽な方法だ
魔力を消費し続けるなら蓄積された魔力が暴発することはない
日に一度の多量の魔力の解放しなくて済む
あれ、どっと疲れがくるから嫌だったんだよな
とは言っても魔法魔術に関してド素人である己が召喚術という高度な術を使えるわけもない
本を読んだ限りでは魔力があっても儀式やら何やらあって難しい感じがする。
結局、騎士様だよりだ
「ってことでカリス、召喚術どうやったら出来る?」
「ん?そんなの簡単だよ、発動するにはこの法陣に立って強く願い、力を欲し、共にあろうとする心があれば」
リュウスに聞いた話によればカリスは召喚術に詳しいらしい
あの凶暴女が
「まぁ、あたし、みたいに素質ないと、無理かな?」
はぁ、なんかイラっとくる
「何か呪文みたいなのって必要ないのか?」
「ないよ?ただ強い意思、願いがあれば良い、後は、運と素質」
「単純なんだな」
「正規の召喚術なんてもう廃れているからね?呪術みたいなものでさ、人や動物を媒介にしていたんだ。」
えげつないな
「君は何のために、召喚術をしたいの?適当な目的のためなら、止した方がいい、契約とは一生なのだから」
適当な目的か
あながち間違ってない
そう考えると身勝手だな
「はぁ、カリス、召喚術って何時でも出来るのか?」
「出来るよ?自分の信念、強い願いがあれば」
「じゃあ、それは今じゃないな」
「そうだね?誰でも出来ることだけど、一生契約が付き纏う、下手をすれば死に繋がる。迂闊には使えない術でもあるんだよ、わかった?」
やっぱりイラっとくる
「こんなこと、初めてだ」
カリスの声色が変わり緊張感に満ちる
「どうしたんだ?」
「結界が破られた、どうやら、上級魔獣がきたみたい」
「なんで、そんな・・・・」
「あいつらの行動は不規則だからね、いつ何が起こっても可笑しくない。あたしは、今すぐ収集にあたるから君は城から離れずにいるんだよ?いいね?」
カリスも騎士団の一員だ
それも彼女は騎士団長
現場を指揮する必要があった。
上級魔獣か
精々出会えて中級が良いところ
なんでまた突然に
討伐には何人もの人が犠牲になるだろう。
怖くないのか?
人間離れしたした存在など畏怖でしかない
大人しく城で縮こまっていることしか出来ない
無力な存在だ。
クレイは案外、面倒見が良くて気さくな奴だ。
カリスは凶暴女だが気のいいやつでもある。
リュウスは一緒に笑い合うような仲にもなった。
ルルビィは良くわからないが気にはしてくれる。
ミリアさんは優しくて、本当に清らかな心を持っている。
みんな強いことは理解している。
けど、不安なんだ。
折角、この世界で知り合えた人
何も知らない己を助け不安をなくしてくれる。
頼ってもいい、信じてもいいと思う人達を失うのは辛いことだ。
窓から見える禍々しい気配
普通の人間が太刀打ち出来るわけもない。
それでも騎士達は民や己を守るために立ち向かう。
現実のファンタジーは死ぬか生きるかの世界だ
自分の考えがいかに浅はかだとわかった。
村でのんびり暮らしていても魔獣の脅威は消えない。
王都が上級魔獣の襲撃にあっているんだ
村で起こっても可笑しくない
日本での平和ボケはここでは通用しない。
自分に何が出来る?
下級魔獣ですらいっぱいいっぱい
上級なんて死にに行くようなものだ。
異世界に来たのだからひとつぐらいチートな能力ぐらいあってもいいじゃないか?
と思うが
あるとしても膨大な魔力くらい
騎士団長のクレイが手を焼くくらいならそれが自分のチートスキルなのか?
魔力あっても魔法、魔術使えないなら意味ない
寧ろ、有り余る魔力は身体に毒じゃないか?
「腹括れってか?」
この世界に来たこと
現実逃避して来た世界で生きる覚悟
なんのためにその力を欲する?
単純に考えれば自分が生き残るため
そして世話になった人を守るため
其れだけだ
其れだけの力が欲しい。
願い、欲する
己と大切だと思える人を守るための力が欲しいと