そんなに甘くない
異世界ゼノカルチュアに来て早一月
何故会話は通じるのかわからなかったけど
文字は読めない書けない
最低限の読み書きは出来て損はないが
何せ畑仕事もある
「リサク、行くぞぉ!」
村の人々とも仲良くなった
今日は王都に出向け作物を売りに行く
村から初めての外出だ
「迷子になるなよ?」
「ガキじゃないんだから、大丈夫だ」
「いやいや、王都広いからな?迷子になったら、王都の門の前にいてくれればいいからな?」
24だって言うのにガキ扱いされる
渡人だと心配あるだろうから色々、世話を焼いてくれる気持ちは有り難いけど
むず痒い。人に優しくされることはあまり慣れてない。
親戚にたらい回しにされ捨てられた過去があるから軽く人間不振に近いものがある。
結局、信じられるのは己
馬車で5時間の道のり
退屈でもあったが見慣れない景色を見れたこともあって新鮮だった。
「リサク、頼むぞ?」
「はいよ、後ろは任せておきな」
魔獣が襲って来ることもある世界
昼間は活動を抑えていても人間を餌とするから昼間でも襲われる可能性もある。
魔獣といってもランクのようなものがあり、人間でも対処出来る小型や動物に擬態したものなどは下級、少し身体が大きく人間よりも力が強い中級、大きさは関係なく強い魔力を持ち人語を話せる上級、上級を凌ぐ程の魔力を持ちなから人の形をなす最上級
村の周辺では下級の魔獣はいても中級、上級、最上級はいない。
対処出来ることは出来た。
唯一、この世界で役にたった。
日本じゃ日常的には役には立たないけど
「まさか、日常的に役立つ日がくるなんてな」
弓を構え、そう思わずにはいられない
小、中、高と弓道部だった。
成績は高校の時に全国大会優勝。小、中もそれなりの賞をとった。
「リサクにそんな才能があるとはな!毎日ボケッとしてる割りにすごいな!」
「毎日ボケッとしてても弓の腕前は唯一、俺が自慢出来ることだぜ!」
実際に魔獣を狩った。
最初は恐怖を感じたがこの世界ではやらなければ殺られる。
ごく平和な世界とは違う。
魔獣は正に禍々しい存在だった。
日常的に死の恐怖を感じることがあるなんてな
普通、人間ならこんな禍々しい存在に逃げ立ち向かうなんて思いもしない。
それでもこの世界はそうでもしないと生き残れない。
この一月は良く考えさせられた
世界のこと、魔獣のこと、マナの存在、生活のこと、色々
マナは魔力の根源
この世界では魔法が使える。
その素養は誰にでもあると聴いて驚きはしたがこんな展開、ラノベ、アニメでは良くあることだろうと直ぐに冷静に考えられた。
現実にして非現実、正にファンタジー
未だ、魔力の扱いに悩まされてるけど使えなくもない
ちょっとした、火を起こして料理したり、大気中のマナから水を発生させて作物に与えたり凄く、平和的な使い方だ。
要はイメージだ。
強い精神力、集中力は弓道で鍛えられた。
手惑いはしたが、日常生活に使える程度には扱えた。
「緊張感ある生活もたまには悪くないけど、死ぬのは嫌だな」
「ははは、昼間は魔獣が出ることは少ない、出たところお前の弓で射殺せるだろ?」
「変な期待をしないでくれよ」
まぁ魔獣の気配は感じられない
でも王都まで気は抜けないなぁ
結局、魔獣出なかったし無事、王都に着いた
村から王都まで森を抜け川を越え休憩がてら町を抜けやっと着いた。
ド田舎から都会に来た気分。
それぐらい王都は賑わいを見せていた。
巨大な城が王都のど真中に聳え立つ様は圧巻だった。
「凄いな」
「そりゃあ、グレイズ国の王都だからな」
この世界にも色々な国がある
バルプ村もグレイズ国の一部には違いないが何せ国土が広い。
馬舎に馬車を預け大量の荷物は後々運ぶ
「リサク、迷子になるなよ?」
また、ガキ扱いされてる。
王都グレイズ
来て早々だが市場の下見、明日から市場に出向き作物の販売。
グレイズには今日を含めて5日間滞在する。
「何事もなければいいな」
取り敢えず迷子にだけはならないようにしないとな
確かに広く入り組んだ道が多い
一本通りを歩けば済む話ではない
「此処が、俺たちの売り場だ」
活気ある市場にそごたけ空店舗
何だか異世界に来たはいいものの
着実に村人スキルが上がっている
それこそ使命だなんだと縛られることもないから、それはそれでいい。
異世界に来て、特に目標もなければ、ただのんびり暮らして行けたらとお気楽脳。
前世界で働くことに疲れたからこれぐらいが丁度良い。
「ん?自棄に賑やかだなぁ」
「嗚呼、ここの姫様が街の視察に来ているみたいだぞ?」
「姫様」
何にせよ村人の己には全く関係ない人物だ
「その姿はこの世のものとは思えない程、麗しく、何人でも惹き付ける魅力的な御方だ」
「へぇ、そんな大層な御方が街の視察ねぇ」
「毎週の日課なのだそうだ、民の生活、言葉を知り、民と共にあろうとする」
民と共にあるか
随分な愛国主義な姫様だ
「見てみるか?もう下見はすんだしそれぐらいの余裕はあるぞ?」
「そんな簡単に見れるもんなの?」
「もう少ししたら、王城前で演説が始まるんだよ、其を楽しみに王都に来たもんだ」
下心丸出しだな
まぁ、見るだけならいいか、直接関わるようなことになることもない
変なフラグを持ち込まれ平穏な日々を壊されてしまうなんてことは
っとそんなこと思うからフラグが立つのだ
余計なことは考えない方が身のためか?
絶世の美女
正に姫様はそんな感じの容姿
薄紅いろの長く艶やかな髪
大きくエメラルドのような瞳
鼻立ちもすっとしていて
ぷっくりとした唇
「綺麗」
自然と声に出してしまう程の美しさを持ったお姫様だった。
「なっ?姫様すげぇ美人だろ?」
「そうだな、確かに」
人が魅了され集まるのも無理はない
護衛に控えている騎士や兵は大変だろうな
その騎士がとんでもないことを引き起こした
姫を人質にとるなんて誰が思うか?
剣を姫の首にかける騎士
最初は何かのパフォーマンスかと思ったが周りが騒ぎだし騎士が喚きだし
ことの状況が異様なことは確かだった。
「おっと、魔術を駆使しようものなら、ここにいる姫様の頭がぶっとぶぞ?」
こんなことあるんだな、なんて思いながら騎士はどう動くのだろう?
「目的はなんだ」
プラチナブロンド髪の騎士
他の騎士とは違い身に包んだ鎧、剣は勿論、風格が違う
「って、リサク、何してんだ?」
「ん?この距離なら当たるかなって、なっ!」
まぁ、ゴタゴタには巻き込まれたくないが
どうやら騎士も兵も身動き出来ない
この人混みなら気付かれる心配もない
少しぐらいの手助けなら容認してやれなくもない
変形可能な小型の弓を取りだし姫を拘束する騎士の喉元を狙った。
この弓はグレイズに行く前に村長に貰った。護身用にと・・・
鏃はついてないから殺すまでには至らない
少々、お節介な性格はこの世界に来ても治りはしない、人間不振なのに本当、己は変わってる
「取り抑えろ」
案の定、騎士の喉元に命中し怯んだ内に取り抑えられ姫は無事救出された。
「はぁ、命中したからいいものの、良くそんな無茶なこと出来たな?」
なんて説教されたけど終わりよければ全てよしだ。
「あの距離で外さないさ、流石に無理ならこんな真似しないって」
人助けは嫌いじゃない
人が困っている時に見過ごせるような冷たい性格でもない
「ふぁ、なんか、今日は疲れた。ずっと気張ってたし」
「そうだな、リサクに取っては初めてだらけだしな?宿に戻って美味い飯食って寝るか!」
「さんせぇ~」
周りが慌ただしい中
宿に戻ることにした
まさか、そんな己を見詰める瞳があることになんて、気付くわけもなく、宿のご飯に心踊らせていた。
「よく寝れたみたいだな?」
「ん、おはよう、ジノさん、飯美味かったし、ぐっすり寝れたよ」
「そりゃあ、何よりだ」
宿に戻って飯食って直ぐに眠くなってあっという間に翌朝
それにしても、今日は市場で何すんだ?
作物の販売っても八百屋みたいなことだろうし
「俺、することあんの?」
「嗚呼、足りなくなった作物を順次運ぶ作業だ」
「うげぇ、それ、一番大変じゃんか」
「大丈夫だ、市場からそう遠くない普段の畑仕事に比べたら楽勝だ!」
いや、まぁ、最初は畑仕事はそりゃあもう初日からグダグダで次の日は筋肉痛
散々だった。
「がんばりまーす」
様々な経験を積むのはいいことだ
なんて悠長なこと言って迷子にならなければ良いけど
市場は活気がある。
様々な人が行き交いまるで都会を思わせる。
文明は然程、日本と変わりないだろうけど機械化は進んでいない。
それは魔法があるからだろうとも言える。
その分、体内のマナ、大気中のマナを消費して疲労することにはなるが
「ふぃ、これ、何往復すりゃいいんだ?」
木箱に入れられた作物を運ぶ作業
案外、思ったより売れ行きよくて大変だ
まぁ、お世話になっている村の人たちの役に立てんならやるしかない
「おっと、すみません」
「いや、君こそ大丈夫かい?」
ん?この男何処かで・・・
プラチナブロンド髪
確かあの騎士様もこんな髪の色で
顔立ちはそれこそ女受けの良いイケメン顔
ブルーの瞳も結構、印象的だったな
「少し持とうか?」
「いえ、仕事なのでそういう、訳にはいきません。失礼します。」
気のせいだよな?
「これは、バルプ村の作物かな?」
「はい、よければ市場にて売っていますので」
「なら、一緒に連れていってくれないかな?」
「はぁ、まぁ良いですけど」
なんだこのイケメン?
何が目的なんだ?
怪しい
見た目は至って好青年
貴族かと思う程の優雅な立ち振舞い
嫌味か?
「実は、ある人物を探しているんだ」
「そうなんですか?こんな広い王都の中で、探すのは大変でしょうね」
「大変だったよ、何せ情報が少ないしね、黒髪で黒色の瞳をした人」
ははは、何かの冗談か?
「君だね、フェリス様を救ってくれたのは」
「な、何のことでしょうか?」
フェリス様って誰だ?
助けた覚えなんてないのだが
まさかのまさか
「貴方様は騎士様だったりします?」
「嗚呼、今、僕は非番でね?騎士の格好はしていない、君の言う通り騎士だ」
余計なことをしてしまった
ちょっとしたお節介のつもりだった
まさか、あの人混みの中で目をつけられていたとは
「僕の名はクレイ・シュバライ、グレイズ国第一騎士団長を務めている。君の名を尋ねてもいいかい?」
聴いてもないことベラベラ喋ったけど名乗られて名乗らないのは礼儀知らずで失礼だ
ってか騎士団長!?
そんな凄い人物だったのか?若いのに
「俺はリサク・シマバラ、バルプ村にお世話になっている。」
「君は渡人だね?」
「えっ」
何でわかるんだ!?
もしかしなくてもやっぱりこの騎士団長様は
「マナの活性力が弱いからね、大抵、この世界の住民は病気、何らかの原因がなければ、こんなに弱くないんだよ、魔力を使うと直ぐに疲れるだろう?」
「あ、はい」
「普通、渡人は王都に来てこの世界に見会う身体に変化させるのだけれど、君はまだみたいだね?」
そうなのか?
いや、まぁ村長の話、限りでは検査受けた後、それなりの待遇で生活出来るとは聴いていたが
この世界に見会う身体に変化させるとは
「ここです」
「君が泊まっている宿に使者を向かわせるよ、フェリス様を救って頂いたお礼がしたいからね」
フェリス様ってあの美人なお姫様なんだろうな
まずったなぁ
自分からフラグを立ててしまった。
いや、普通気付かれないと思うだろ?
その認識さえ甘かった
どちらにせよ
異世界人だと騎士団長様に知られたからには従うしかあるまい
バルプ村の人達に迷惑かけたくないしなぁ
「では、リサク、また会えるのを楽しみにしているよ」
イケメンは何言っても様になるな
甘くないな非現実の世界も
「リサク・シマバラ様ですか?」
「はい」
「私、クレイ・シュバライ様の使者、ガロと申します。」
一応、ジノさんには伝えた、昨日のことで、騎士団長様と接触したこと
使者が来ること
驚いてはいたけど気にするなと言われついでに身体良くして貰えと言われた。
「此方に」
馬車に乗り込めば直ぐに出立した。
そんなに時間はかかっていないと思うが王都の中心部に着いた。
「圧巻だな」
「足下にお気をつけ下さい」
間近で見るとその壮大さは見事としか言えない
城に入るなんてある意味、絶対と言って良いほど何か起きる
ガロに連れられ城に入場
多少、緊張しているが渡人なら誰もが城に一度は入るらしいのでそんなに気構えする必要はないのかもな
「シマバラ様をお連れしました」
「嗚呼、ありがとうガロ」
「では、そちらが昨日の」
「はい、フェリス様」
間近で見るお姫様はやはり美人だった
「昨日は私のお命をお救いして頂き、ありがとう御座いました。私はこの国の姫君という立場でありながら、身の危険を顧みずあのようなことになったことを深く反省致します。」
「いえ、そんな、俺は何も、最終的には騎士団長様がお姫様をお救いになったのですから」
「リサクが隙を作ってくれたお蔭さ、魔術も使えなければ下手に動くことも叶わなかったからね」
騎士団長様はフレンドリーだな
名前で呼び会う仲でもないのだけど
別に嫌っていう程じゃないけど
「リサク様のお陰で私は救われました。どうしてもお礼を云いたくて、私がこの身の上のため、クレイを遣わせました、ご無礼を御許し下さい。」
「一平民に畏まらなくても大丈夫ですよ?騎士団長様みたいに楽にしてください。」
「リサク、僕は別に楽をしているわけじゃないよ?それよりも、リサクは渡人なら施術を施す必要がある。」
「リサク様が渡人?でしたら、施術を施した後、お話を致しましょう、施術をしていないなら何かとご不便が御座いますでしょうし」
「リサク、僕に付いてきてくれるかい?」
「はぁ」
なんか勝手に決められてるけど
仕方ない、ここで無礼を働けば即刻牢屋行きだろうし
目の前の騎士団長様に敵うわけもない
ノコノコ付いてきた己にも非はある
断れば良かったが後の祭りだ
「カリス、頼むよ、彼が渡人のリサク・シマバラ」
「フェリス様を助けたという?ふーん、中々良い男だな、鍛えているのか?いい身体をしている」
「いい加減にして貰えますか?」
身体を触りまくる痴女がいる
美人だけど非常に残念だ
「あー、ごめんごめん、ついな?」
何がついなだ
「じゃあ、施術を始めるよ?楽にしてて?」
「カリス、彼は何も知らないんだ手加減してくれよ?」
「大丈夫大丈夫、直ぐに終わりますから!」
「うごっ!!」
女とは思えない強烈な拳が腹のど真ん中に入った。
身体から力が抜け意識が揺らぐ
一撃で男を仕留める凶暴女
何が施術だ
ただの暴力だ
意識が完全に途絶えた。