返信無し
私、リリエッタ・クラリエンスは転生者である。ついでに手紙を出したのにマリーから返信が返ってこず悶々としている人間でもある。
私が目を覚ましたのはあの事件から1週間後で、体はかなり衰弱していた。療養生活を送る私の面倒を見てくれたのはマリーではなく別の侍女たちだった。
マリーがどうしたのか侍女たちに、あれこれ聞いてみるが今は体を治すことに集中してくださいの1点張りでマリーがどうしているのかを教えてくれる人物はいなかった。
おそらく聖女として覚醒し、貴族の家へ引き取られることになったのだろうと思う。物語の流れはそんな流れであったし、意識を失う直前の状況なら多くの人たちが聖魔法を使うマリーの姿を見ているはずだ。仮にマリーが否定したとしても周りの証言がある以上しらを切り通すには無理がある。
そんな予想の通りに、療養生活を終えた私が聞かされたのはマリーが次代の聖女であること、これから貴族の養子となること、末端ではあるが男爵家の娘としてマナーや作法を学ぶことになること、そして私の専属侍女としてのマリーはもういないこと。
お父様が話す内容は私が認識していた流れのものと一緒だったので特に顔色も変えずにわかりましたとうなずく。少し、心配そうにこちらを見るお父様。あれだけ仲良くしていた専属の侍女がいなくなってしまったことに少なからずショックを受けていると思ったのだろう。ただ、私は自分が生き残るためにマリーと仲良くしていたにすぎない。だから、寂しいなんて気持ちも、この、何か心に塞がらない穴が残ってしまったような違和感も、全部勘違いだ。
さて、問題はこれからどうするかだ。マリーが私の傍から離れてしまったからと言って何もせず手をこまねいている訳にもいかない。
ということでとりあえず手紙でも書いてみることにしよう。もちろんマリーは貴族としてのマナー・作法を勉強している最中だし、学園に入るまでの期間を考えるとかなり詰め込みで、大忙しで勉強していることだろう。ただ、手紙の練習という名目で返信ぐらいは書いてくれるだろうし、何とか遊びに行く、もしくは来る約束を取り付けることができる可能性もある。
お互いに貴族の子女になったことだし、マリーが私の侍女だった時よりももっと友人らしい付き合いができるのではと思う。侍女の時から遠慮なんてしていなかったような気もするが、それはそれとしてだ。
早速手紙の内容を考えてペンを走らせる。
『親愛なるマリーへ
あなたが私を助けてから2か月ほどが経ちました。
本当は会ってお話したいのだけど、マリーは慣れない貴族としての生活で忙しいでしょうから手紙で失礼します。
元気にしているかしら。
私はあなたが傍に居ないことになんだが違和感を覚えてしまいます。
マリーが次の聖女になるというお話、聞きました。
どうか聖女になっても私との友情を忘れないでいてくださいね。
聖女というものが何をするのか私は分からないけれど、あまり無理をして倒れるようなことはしないようにね。
また会える日を楽しみにしています。
きっとお返事頂戴ね。
待ってます。
あなたの友人 リリーより』
親しい友人に送る物だし、文面はあまり固くならない方が良いだろう。
そんな感じで執事にお願いして手紙を出してからというもの、早一月。
一向に返事が帰ってくる気配は無い。別の方法でコンタクトを取ってくるということもなく、とにかく音沙汰ひとつ無い。
風の噂では何やらすごい勢いでマナーや作法を習得していってもう既に殆ど他の貴族と比べても遜色ない程らしい。
一体どれほどの詰め込み授業と努力をしたらそんなことができるのか分からないが、多分マリーはその手のことに適性があったのだろう。聖女になっていなかったらマナーの講師にでもなっていたのかもしれない。
勿論これだけ聞くとそれだけ忙しかったのだから手紙を返せなくても仕方が無い、そう思えるだろう。だが違うのだ。
私の書いた一通の手紙。それが全てではなく後4通程手紙を送っている。だが、どれにもこれにも返事は帰ってこない。
だと言うのに、お兄様とはどうやら頻繁に手紙のやり取りをしているようなのだ。これはもう既にマリーがお兄様を落とすと決めていると言うことなのだろうか。
それが発覚したのはたまたま執事がマリーからお兄様宛の手紙を持っているのを目撃したからだ。執事にお願いしてマリーからお兄様宛に手紙が届いた時は内緒で教えてもらうようになったのだが、なかなかの頻度でやり取りをしている。…私には一通も返事をくれないのに。
とにかくお兄様にも話を聞いてみなければならない。
「ということで、兄様。もう証拠は掴んでいるんです。一体私のマリーとどういう関係なので?」
詰め寄る私にたじろぐ兄様。何時も飄々としているからこんな風に慌てているのは珍しい。だからこそ何かあったのだと疑って掛かりたくなる。
「は、はは…。リ、リリー、顔が怖いよ?ほら、スマイル、スマイル…。」
何時ものようにのらりくらりと言葉を投げかけて、私の質問を回避しようとするが、今回ばかりはそうもいかない。マリーに関わる事なのだ。
もう一度目に力を入れて、ぎっと睨みつける。大袈裟に怖がる振りをした後、ようやく話す気になったのか、大きなため息をついて兄様は両手を上へと上げた。
「降参、話すよ。ただ、僕から全部は話せないからね。詳しいことが聞きたいならリリーが本人から聞き出してね。」
兄様は私が頷くのを見て、壁に寄りかかり再びため息をついて話し始める。
「好きな人ができたんだってさ。僕に来る手紙はその相談。その好きな人の近くにいて相談出来る相手が僕だったからその相談を受けているんだよ。」
「本当ですか!?」
「こんなことで嘘を吐いても仕方がないでしょ。本当にだよ。ただどう言われたって相手は明かせないからね。」
兄様のそばにいる人、兄様は騎士団長、このふたつから考えて相手は未来の副団長様か、ポンコツ王子でまず間違いないだろう。
将来有望な副団長様は、私と同様学園入学前から兄様の稽古を受けていたはずだし、騎士団長ともなるとポンコツ王子の警護も受けることだってあるだろう。他に個人的な付き合いがあったりしたら分からないが…。
ただ、これはかなりの確率でポンコツ王子だと言える。実のところ、兄様以外で学園入学前に出会うのはポンコツ王子だけなのだ。
時期としても聖女として覚醒した辺りのはずであったし、これはマリーが恋をしたのはポンコツ王子とみてまず間違い無い。
私に返事を書いてくれない理由は、恋に勉強に大忙しだからだろう。返事は帰ってこないかもしれないが、忘れられないように、定期的に手紙は送ろう。また会うためのきっかけになるかもしれないし。
私に相談してくれ無かったのは残念だけど、兄様がマリーの恋の手助けをしてくれると言うのなら大人しくそれを見守ろう。
それが、私の幸せにも繋がるのだから!
だから、絶対幸せになってね、マリー。




