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助けます

遅くなりました!!

私、リリエッタ・クラリエンスは転生者である。乙女ゲームの悪役令嬢でもある。お祝いは少人数でひっそりやりたい人間でもある。


 今日は私とヒロインさんが出会って3年目のめでたい日である。ついでに言えば私の11歳の誕生日だ。せっかくなので街のケーキ屋に私とヒロインさん用の特別なケーキを注文した。


 もちろん代金は私のポケットお小遣いから出している。注文したケーキは私とヒロインさんと2人で取りに行く予定だったのだが、残念ながら予定通りにはいかなかった。


 理由は2つあって、まず私が公爵令嬢であること。男ならいざ知らず、貴族の女の子は護衛も着けずに家の外に出たりしないんだそうだ。何をするにしても誰かが付いてくるとは、わかっていはいたが窮屈な生活だ。


 そしてもう一つ。今夜、私の誕生日を祝う夜会があること。この国の貴族は11歳から夜会に出席することが可能になり、また11歳の誕生日に夜会を親が主催し夜会デビューするのが通例だ。うちだって例外ではない。


 なので今はヒロインさんは一緒にいない。今は街にケーキの受け取りに行ってもらっている。本当なら2人で受け取りに行くはずだったのに…。


 私はというと、朝からずっと、ひたすらドレス合わせをさせられている。今日の主役だからとにかく華々しく、美しく見える物を選ぼうと、侍女たちは必死だ。私にドレスを着せてはああでもないこうでもないと話し合っている。


 ドレスの着せ替え人形になるだけならいいのだが、朝からコルセットをつけており、腰や腹がぎゅうぎゅう締め付けられて辛すぎる。ドレスで美しいラインを演出するには必須らしいのだが、息をするのも苦しいのでお願いだから外してほしい。


 ゲームの中で登場するモブキャラ含む令嬢たちもこんな苦労をしていたのだと思うと、なんだか同情してしまう。もちろん人のことを同情している場合ではないことはわかっている。今後は何かのイベントの度に、ドレスを着なければならないのだから。考えるだけで憂鬱な気分になってしまう。


 イベントという話で一つ思い出した。ゲームの開始自体は学園生活が始まってからの物なので実際にイベントとして起こるわけではないのだが、兄様のイベントの中の回想で私の初めての夜会の日、つまり今日のことが回想されるイベントがあったはずだ。わいわいぎゃあぎゃあ話し合っている侍女たちの喧騒をBGMに私は記憶を手繰り寄せる。


 そうだ、思い出した。確か、ヒロインさんが人身売買の密売組織に目をつけられ誘拐されそうになるという内容だったはずだ。…これはまずいかもしれない。ゲーム中のような人身売買組織なんて言う大げさな物では無いのかもしれないが、確実にヒロインさんの身に何か降りかかるだろう。兄様のイベントなのだから、多分兄様が助けに行くことになるとは思うのだが…。場所が問題だ。


 ゲーム中では犯罪組織を追っていた兄様がたまたまかけつけて助けたけれど、必ずそうなるとは言い難い。


 なぜなら今ヒロインさんが向かっているであろう場所とゲームでヒロインさんが向かっていた場所はほぼ正反対の場所だからだ。兄様のイベントで兄様が間に合わないとは考えずらいが…、絶対とは言い切れない。禄でもない結果になる可能性も捨てきれない。とするとどうするべきか。決まっている。通るであろうルートも行き先も知っている私が助けに行くしかない。幸いにしてやたらと高スペックなこの体のおかげで、兄さんから教えてもらった剣は3年の間にそれなりのレベルになっている。貴族の娘として、魔術だって多少扱えるようにはなっている。


 実際11歳の少女が暴漢に自分から向かって行くというのはどうかと思うがこればっかりは仕方がない。私以外に確実に助けられる人間がいないのだ。夜会の成功うんぬんよりもヒロインさんを助けねばならない。とにもかくにもさっさと家を抜け出してヒロインさんの救出に行こう。


 腹は決まったので、喧しく話し合いを続けている侍女たちの目を盗み、そっと部屋を抜け出す。待ってろよヒロインさん、私が助けに行くからな!


「おいおい、俺達はついてるぜ。こいつはかなりの上玉じゃねーか。」


私が我が家を抜け出しヒロインさんに追いついた時には案の定ヒロインさんが襲われる1歩手前だった。なんとかギリギリセーフといったところ。周囲に騎士がいる様子もなかったので急いで駆けつけて大正解。


「あなた達、私の友人に何をしているのでしょうか。それ以上その子に近づくのならば我がクラリエンス家を攻撃したものとみなしますよ。」


「へっへっへ、威勢のいい嬢ちゃんだ。2対10のこの状況でそんな口が叩けるとわよ。丸腰で何ができるって言うのやら。クラリエンスだかなんだか知らねえが捕まえればいい値段で売れそうだ。おい、お前らカモがネギしょってやってきたんだ、ちゃんと料理してやんねえとなあ。」


げへへへとあたりにこだまするゲスい笑い声、こんなテンプレートなチンピラがいるのかと感心してしまうが、ヒロインさんに危害を加えようとしていたことには腹が立つ。あらかじめ決まっていた出来事だったとしても許せはしない。


「マリー、さがってなさい。」


右手に魔術を展開しする。瞬間私の手の中には氷でできた剣が出現する。


「ちっ、魔道士かよ。だが数の有利は変わらねえ、やっちまえ!!」


各々の武器をふりかざしこちらを捉えようと迫って来る男達。確かに数は多いが所詮はそこらのごろつきども。戦いにおいての動きがなっていない。たとえ数が多かろうと兄さんにぼこられ続けて鍛えられた私の敵ではない!!


「はっ!!」


 大きめのマチェットをのを振り下ろしてきた男を横薙ぎに切り払う。ちらっと目線をやると体勢を崩した先で壁に頭をぶつけ昏倒してたので取り敢えずもう起きてはこないと見てよいだろう。


「おらっ!!」


 先ほどの男の影から飛び出してきた男の短剣による突きは身を捻って回避し、足払いで体制を崩し、頭が下がってきたところを剣の柄の部分で思いっきり殴りつける。倒れ伏したまま動かなくなったのでこいつもとりあえず倒したと見てよい。


今度は数で攻めようと三人のロングソードを持った男たちが息を合わせて迫ってくるが、剣を持っていない左手に発動させていた氷の弾丸を打ち込んでまず一人処理した。


 1人倒れてもひるむことなく迫ってくる2人。再び左手に術式を展開し氷の弾丸の次弾を準備しつつ右の男の一線をバックステップで回避する。当然左の男が襲い掛かってくるが、顎を狙った下から突き上げる蹴り上げで叩きのめす。


 いいところに入ったのか顎を押さえてもがいているので取り敢えず放置。さらに踏み込んでロングソードを振り下ろしてくる男に対処することにする。


 降りてくるロングソードに合わせて下から剣を振り上げる。勢いに負けた氷の剣は砕けてしまうが、その破片は男の顔を襲う。思わず片手で目を覆ったことにより、ロングソードの軌道はずれて、豪快に地面に叩きつけられる。


 その瞬間を見逃さず、再び左の氷の弾丸を叩きこみまた1人戦闘不能状態へと追い込んだ。


これで残り半分。


「くそっ、なんだあの小娘は!!」


 さすがに私にいいようにやられているのを見て、リーダー格の男もあせっている様子。こちらもまだ半分しか倒していないし、最後まで気を抜かずに行かせてもらう。


 …つもりだったのだが、


「何って我が自慢の妹だよ。」


「兄さん!?」


 ごろつきどもの後ろから突如現れた白銀の鎧を身にまとった騎士。間違いなく兄さんである。


「このへんの住民からガラの悪い男達が徒党を組んでるって通報があってねー。様子を見に来たんだけど…、いやーまさかうちの妹と従者が襲われてるとはね。さあて、覚悟してもらおうか?ごろつきさん?」


 その後の展開はあっという間だった。


 どこに隠れていたのかわからないが、あたりから騎士たちがぞろぞろ集まって来てごろつきどもを捕縛していった。どなどなされていくごろつきを見送って何とも締まらない初実戦の最後だった。


その後は何もなく無事に私達はケーキを手に入れることができた。


「あの、今日はなんでリリー様はあそこにいらっしゃったんですか?」


「虫のしらせ、ですわ。マリーに危険が迫っている予感がしていてもたってもいられなかったの。」


「そうなんですか…、あの今日は私なんかをわざわざ助けにきてくださりありがとうございました!!とっても…かっこよかったです…。」

 

 恐ろしい思いをしたからか、若干ぎこちなくはにかむヒロインさんの顔はとてもかわいらしいものでした。


 今更ながら近に可愛い子を利用してしまっていることに罪悪感を抱くけれど、友人としてあなたのことを守るから、許してヒロインさん…。

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