閑話~マリーは思ふ~
この話はおまけです。読まなくても支障無くさらに短いです。また、投稿期間空いてしまい申し訳ありません。
私、マリーにとって世界が本当の意味で動いたのはこの日だったのだと思う。
王都の端っこの方。スラム街とまではいかないけれどその日の生活にも困るような貧民たちが集まる階級最下層付近に私は住んでいた。
両親の顔も知らない私の家は、崩れかけた教会を修理して作られた孤児院だった。
その日、貴族の従者が突然現れて私を侍女見習いとして雇いたいと孤児院の管理人の先生に交渉しに来たのだ。
唐突な申し出ではあったけれど、孤児院に身を寄せる子供たちが増え経営も苦しくなってきていたところであったし、相応の謝礼も用意するという話だった。何より申し出た貴族は高名なクラリエンス家の方であったこともあり、私は自分から先生に侍女見習いとして旅立たせて欲しいとお願いした。
もちろん不安はあったけど、これがチャンスだと思ったのだ。
侍女見習いとして雇われるのは当然だけど私だけではなかったようで、いろいろな年齢女性がクラリエンス家のお屋敷に向かう馬車に乗っていた。
「このままお屋敷に連れてはいけません。多少は身なりを整えましょう。」
私たちと一緒に馬車に乗っていた厳しそうな雰囲気の眼鏡をかけた女性に連れられて、私たちはお屋敷につく前に、貸し切られた大衆向けの浴場で体を洗い、着替えとしてこれから着ることになる侍女服を与えられ、それを着用する。
侍女服とはいえ、さすがは貴族に使える人のための服であり、私が今まで、着たことの無いような上等な布で作られた気品を感じる作りであった。
クラリエンス家のお屋敷へとたどり着いたころには、太陽は沈みかけ、日の光で王都は火事みたいに赤く染まっていた。
広い玄関ホールへと連れられて横一列に並べられた私たちは、出迎えてくれたクラリエンス家の当主様へと一人ずつ自己紹介をしていく。
やがて私の順番がやってきて、緊張したけれど名前を名乗ったその直後、当主様の隣に立っていた私と同じくらいのご令嬢が私の方に近づいてくる。何か気に障ることをしてしまったのかと思ったが、私の手を取ると彼女は、
「この娘を私の専属の侍女にしたいの。」
なんて言ってくださった。
幼ないながらも、凛として気高い雰囲気を纏う彼女が、私なんかを友人として指定してくださった。
その事実だけで胸がいっぱいになるような気がする。
ああ、きっとあなたのお役にたって見せます。
リリー様。