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変わらぬ世界と変わる視点

 私、リリエッタ・クラリエンスは悪役令嬢である。ついでに始まったマリーへのいじめを食い止められず歯痒い思いを感じている人間でもある。


 私がそれを知ったのは取り巻きたちが何やらコソコソと話しているのを小耳に挟んだからである。


 なんでもマリーがお花摘みをしている最中に突然水が降ってきたらしい。それが私の取り巻きたちによる仕業なのかは分からないが、遂にマリーへのいじめが始まってしまったのだ。


 誘拐事件からマリーを救い出してしばらく、何も無く平穏な生活が続いていたせいで前兆を見逃してしまった。私の落ち度だ。


 とにかく今からでもマリーを助ける手を考えなければならない。マリー自身が私との不仲の噂を流して、王子に近づいたりして周りを煽っているような気がしないでもないが、そんなことはどうだっていい。いじめなんてする方が悪いに決まっているのだから!


 ただ、大きな問題は私自身が出張ってやめなさいと言う事は出来ないということ。事件の後、届けられた手紙で私との不仲の噂を払拭するような行動は慎むように釘を刺されてしまっている。


 マリーが望んでいるのだから何かあるのだろうし、下手なことは出来かねるというのが現状である。


 なんて沈んだ気配があれば類は友を呼ぶという事で、さらに沈む原因が寄ってくるのは自明の理だということだろう。


 学園に入ってから、いや、むしろその前からずっと避け続けていたルドルフ王子と鉢合わせてしまったのだ。


「久しぶりだな、リリエッタ。婚約者だと言うのにおかしな話だな。」


「ええ、お久しぶりです。…今まではタイミングが悪かったのでしょう。それ以上でもそれ以下でもありません。」


 嘘だ。


 私と王子が滅多に合わないのは私が徹底的に避けているからだ。呼び出された重要そうなパーティーはすっぽかす。どうしても行かなければならないパーティーは気配を殺して壁の花になった上に途中で帰る。すれ違っても私に気づかない王子には随分と笑わせてもらった。やはり兄様に教えてもらった武術はそんじょそこらのお遊び貴族とはレベルが違う。


 普通はそんな意味の分からない使い方なんてしないのだろうが。


「ところでリリエッタ。君がリリーへの嫌がらせの主犯格だと聞いているが本当か。」


「さて、どうでしょうね。仮に私が違うと言ってもマリーに私が犯人だと言われればそちらを信じるでしょう?私、あまり無駄なことはしたくないの。」


「そうか。いや、聞いた私が愚かだったな。」


 1度言葉を区切ると小さく溜息を吐く王子。顔はこわばっているのにみなぎる決意が目に見える。


「これは命令だ、リリエッタ。貴様が主犯なのならば、今すぐ嫌がらせを辞めさせろ。」


 言うだけ言うと背中を見せて去っていく王子。その背中は少し大きく見える。


 私は全く関わっていなかったから知らなかったけれど、彼も王子として成長していっているのだろう。それはきっとマリーと出会ったからできた成長だ。


 彼が女遊びに走った理由。今ならわかる気がする。きっと私は等身大の彼を見ていなかった。きっと設定上の王子しか見えていなかった。


 私だって王子との結婚が嫌だった理由に大きく重い責任を負いたくないというものがあるのだ。私の場合はこうして王子との結婚が上手くいかないよう動いてしまえば回避できる可能性も低くはないだろう。


 だけど、王子はどうだろう。


 きっと彼は逃げられない。彼が彼である以上、王族というしがらみと次期王という枷は外れない。


 重い責任から、重い未来から逃げ出すために、現実逃避を繰り返したっておかしくはない。


 周りも王子を見捨てないのは彼を信じているからだろう。ほとんどあっていなかったからあまり覚えていないけれど、幼い彼はどこまでも真面目な性格だったと思う。だからこそ、女遊びに走る彼が立ち直ると信じて、重い責任に向かい合う事ができると信じて付き従う者たちは彼のために動くのだろう。


 きっとゲームでの私も、そんな真面目な王子に惹かれていたのだろう。


「救えないわね。」


 恋焦がれた人物は、残念ながらマリーの為に成長した。マリーの為に王となる決意を固めた。


 それは、リリエッタが私になっても変わらない。


 彼を変えたのはマリーだ。彼はマリーを助けるためならどんな手でも平気で使うだろう。後暗い手でも、自分の手が汚れることも厭わずに。


 それは自分の為にマリーを助けている自分とは違う。本当の意味でマリーの事を考えた行為。


「きっと、王子ならマリーを幸せにしてくれるでしょう。」


 王子の背中が見えなくなった頃。ようやく私は歩き出す。マリーを救うために奮闘している王子とは反対の方向へ。


 我ながら卑怯だと思う。マリーからの依頼を理由に彼女を助けないのだから。


 きっと本当に裁かれるべきなのは、私なのだろう。

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