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マリーへの謝罪

 私、リリエッタ・クラリエンスは転生者である。ついでにどうマリーに謝ったらいいものか悩んでいる人間でもある。


 実際どう説明すれば許してもらえるのかは皆目見当もつかない。


 女の子同士でしかも緊急事態だったとはいえ、あんなにがっつりディープキスをしてしまったのだ。私がされた側だとしても何となくモヤッとしたものは抱えてしまうだろう。


 もちろんマリーと仲はいいがそれとこれとは別問題だろう。


 とにかく、今まで秘密にしてきた闇魔術についてはマリーに話さなければならない。それも憂鬱さをもたらすひとつの悩みの種だ。


 闇の魔術は忌むべき魔術と言われている。そんなものを自分に使われたと知ったらいくらマリーでも激怒するだろう。いや、怒られるのは別にいいのだがこれで完全に嫌われたりしてしまったらと考えると恐ろしい。


 どれだけ頭を悩ませても、正直に話して謝るくらいしか作戦は思いつかない。マリーがあれを知らなければこんなに悩む必要も無かったのだが、キスしている最中にバッチリ目が合ってしまっている以上シラを切り通す事も出来ない。


 結局、良案が浮かばぬままにマリーが療養しているはずの学院の治療室へと向かって歩く。


 当然のように取り巻きたちも着いてこようとしていたのだが、マリーのお見舞い行く所と、謝罪している場面を見られる訳には行かないので、2階の窓から飛び降りて撒いてきた。


 もちろん他の人間にも見られる訳には行かないので人払いをするつもりではあったのだが、幸か不幸か、ちょうど治療室にはマリーが寝ている以外に人はいないようだったので、開けたら音が出るようホウキを閉めた扉に立て掛けておく。


 念のため、仕切り用のカーテンも閉めてマリーの寝ているベッドの横にある椅子へと腰掛け、マリーに声を掛けてみる。


「マリー。」


 すると、既に眠りは浅かったのかすんなりと目を開きマリーはこちらを向いた。


「リリー様!?」


 私の顔を見て一瞬固まると、飛び上がらんばかりの勢いで上半身を起こす。確かにあんな事をしたばかりですぐに訪ねてくるなんて思わないだろうし、驚いてしまうのも仕方がない。


「何も言わずにまずは私の謝罪を受け取ってもらえないでしょうか。」


 マリーは慌てふためいていて、私の言葉を聞いているのか聞いていないのかよく分からない。が、こちらとしてはなんにしても謝らなければ話が進まないので強引に話を進めさせて貰う。


「緊急事態だったとはいえ突然マリーの唇を奪ってしまったこと、謝罪させて頂きます。申し訳ありません。一応理由はあるのですが…、あまり人に話すことでも無いのでマリーが知りたいのでしたらお話させて頂きます。」


 慌てふためいたマリーは、わたしの言葉が耳に入った途端目を白黒させて今度こそしっかりと固まった。


「え、リリー様が、私の唇を。」


「はい。気を失っている所を襲うなど言語道断ですが、あの場ではあれしか方法が無かったので…。」


 あれ、なんだか2人の間で話が噛み合っていない気がする。


「じゃ、じゃああれは夢じゃなかったんだ…。」


 その言葉で全てを理解した。マリーは私のキスを夢の中の出来事だと思っていた。そもそも薬品か何かで眠らされていたマリーが、目を開いてすぐ覚醒するとは限らない。寝ぼけてというかなんというか、ともかく夢だと勘違いしてくれる可能性も十分に考えられたはずだ。


 つまり、私はシラを切り続けるのがベストだった。


 そんな言葉が頭をぐるぐる回る。


 完全に余計な事をしてしまった。


「えへ、えへへぇ、そっかぁ、夢じゃなかったんだぁ。」


 どんな言葉で罵られるかと身構えるが、マリーは若干気持ち悪い笑みを浮かべて体をくねらせるばかり。怒っていないのだろうか。


「怒っていないのですか?」


 尋ねてみると、それまで浮かべていた若干気持ち悪い笑みを引っ込めて満面の笑みで答えてくれる。


「全然!少しも怒ってないですよ。あ、でも理由っていうのは気になります。」


 たとえ許してくれたとしてもやっぱり理由は気になるか。…マリーにはなるべく誠実でいたいしここは素直に話してしまおう。


「私がマリーの魔力を借りる為に必要だったのです。あまり周りには言いふらして欲しくないのですが、私は少々闇の魔術が扱えます。その魔術を発動するために粘膜接触、つまりキスをさせて頂きました。」


「わざわざディープキスをしたのはなんでですか?」


「その魔術自体、サキュバスなどが使う系統の魔術で発動するのに必要だったんです。」


 何やら頷いているマリーは、改めてこちらに向き直る。


「私を助けるため…って事ですよね?」


「ええ。」


 元々にこにこしていたのだがさらにはち切れんばかりの笑顔が私を襲う。マリーが突然抱きついてきたのだ。


「助けてくれてありがとうございます!リリー様!」


 抱きついて離れないマリーの頭がちょうど良い所にあったのでそっと撫でてやる。誘拐されたのだ。トラウマになってもおかしくないほどの恐怖に違いないのにこうして笑っていられるとは、可愛いだけでなく強い心も持ち合わせているんだなと感じる。


 それからしばらく、扉に仕掛けたホウキが倒れて、誰かが入ってくるのを知らせるまでそうして2人で穏やかな時間を過ごした。

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