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誘拐

 私、リリエッタ・クラリエンスは転生者である。ついでにマリーが誘拐されたという話を聞いて動揺を隠せない、冷静沈着では無い人間でもある。


 突然そんな話を聞かされたら誰だって動揺するだろう。マリーが、友人が誘拐されたなんて話を聞かされたら。


 こんな展開を私は全く知らない。


 とにかく、今できることを考えなくてはならない。


 まずは、誘拐犯の目的を考えてみようか。


 1番わかりやすい動機としては金銭目的だろうか。貴族の子女を誘拐すればある程度の身代金や手に入るだろう。この場合はマリーの身に何か危険が及ぶということは考え辛い。交渉材料に何かして計画を無駄にする程度の知能しかない犯人ならば、貴族の誘拐などそもそも成功しないだろうし。


 2つ目に聖女の力が目的の場合。この場合もマリーに危害が及ぶとは考えられない。マリーに危害を加えてしまえば聖女の力は手に入らない。…いや、暴力や拷問で無理矢理言う事を聞かせようとする可能性を考えると一概に身の危険は無いとは言いきれないか。暴力では無いにしろ、何かしらの手段でマリーを支配しようとする可能性がある。


 最後に、王子からマリーを引き離すために実力行使に出た人間の反抗である場合。多分この場合が一番危険だ。流石に自分で実行したりはしないだろうから多くはならず者なんかを雇っていると考えられる。そうなると、マリーを王子から引き剥がせれば安否自体はどうでもいいと考えている可能性が高く誘拐された先で何をされるかわかったものでは無い。


 マリーが聖女であることはそれほど広まってはいないし、知っている人間も貴族が中心でわざわざ国の逆鱗に触れるようなマネはしないと思う。


 また、マリーが学校を出たという話は聞いていないし、何よりある程度の警護は着いていたはず。学園の警備隊や直属の護衛の目を掻い潜って、ただのチンピラがマリーを誘拐できるとは考えられない。


 と、すれば、王子からマリーを引き離すため、どこかの令嬢の手引きで誘拐された可能性が1番高い。


 つまり、マリーの身が危ない。


 考えがまとまった以上こうして教室で固まっている訳にはいかない。兄様達騎士団も動いてはいるだろうが、私も動かなければ。


 もしかすると怪しまれるかも知れないが、マリーの居場所を知っていそうな人物。暗部の男に接触すべきだ。


「そういうわけで、誘拐されたマリー居場所について全て吐きなさい。」


 自分でも驚く程勘が冴え渡っており、廊下を歩いていたローイットをものの数分で発見し、問い詰める。


「え、俺ですかい?いやいや、俺みたいな平民風情がそ知っていることなんてなんにもありゃあしませんぜ。誘拐云々っつうのもついさっき聞いたばかりで。」


「そんな御託はどうでもいいの。マリーに付いている暗部の人間がマリーの居場所を把握していない訳が無い。なんですぐに助けに行かないかは分からないけど、私が行けば、ひとまず兄様が個人で突撃する大義名分は得られるんだもの。教えなさい。」


 目の前の男から尋常じゃない殺気を感じる。ヘラついた顔はなりを潜め、能面でも被ったかのような無表情が現れる。


 本当にさっきまで軽口を叩いていた男と同一人物なのか、目の前で見ていても疑いたくなるほど、雰囲気が一変した。


「なるほど。どこで知ったのかは知らないが、俺の事を知っているようだ。」


 正直、今この場で殺されてもおかしくない。それほど暗部の人間は自分の素性を隠すことに重きを置く。放たれる殺気は私を襲い、恐怖で全身の震えが止まらない。


 だが…、


「私があなたの素性を知っていることなんてどうでもいいの。必要なら後で尋問でもなんでも受けてあげるわ。そんな事より、マリーの居場所を教えなさい。」


 私はここで引き下がる訳ではいかない。


 じっとこちらをを見つめる目が、ふっと緩んだ。同時に私を覆っていた痛みすら感じられるほどの殺気も無くなり、目の前の暗部の男は、何時ものローイットへと戻っていた。


「へいへい、俺の負けで構いませんよ。なんで俺の正体を知っているのかも、誰かに漏らしたりしなけりゃ不問でいいですよ。全く、どれだけ命知らずなのやら。俺以外の暗部のだったら死んでますぜ。」


 そこまで言うと、自分に近付くよう手招きをしたので近付く。私が近づくと声を潜めて話し始めた。


「マリーちゃんが捕まってるのはマリーちゃんが暮らしてた孤児院の近くにある古い倉庫ですぜ。いつの間に作ったのか地下に隠し部屋なんか作ってある様でそこに監禁されてるみてぇなんだ。他の暗部の連中が見張ってはいるんですがねぇ、何しろ黒幕を捕縛しろとのご命令だ。黒幕が尻尾を出すまでマリーちゃんが何をされてたって助けに入る事なんて出来やしねぇんですよ。少なくても俺らじゃあヒーローにはなれないって訳だ。」


 話すローイットの表情は苦虫を噛み潰したように渋い色に染まっていた。彼も、本心では今すぐ助けに行きたいのだろう。だが、暗部に下された命令がそれを許さない。故に、私に話すのだろう。


「任せなさい。」


「はてさて、なんの事やら。ま、リリーちゃんが向かう先はおにーさまに伝えといてあげますよ。」


 それだけ言うと、背中越しにヒラヒラと手を振ってローイットは去っていく。


「ありがとう。」


 彼の暗部での立場が危うくなるかもしれないというのに彼は情報をくれた。それを無駄にはしない。


 マリー、今助けに行きます!

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