聖女の能力?
私、リリエッタ・クラリエンスは転生者である。何故か出来た取り巻き令嬢達を制御できずに手を焼いている下っ端気質の人間でもある。
実際こればかりはしょうがない部分もあるのだ。
私がどれだけ庶民的な人間であったとしても公爵令嬢という身分はついて回る。要は私という個人と仲良くなりたいというよりは何かあったときに助けてもらえるよう私にゴマをすっているということだ。
別にそれを否定するわけではないが、特段私に大きな権力はないので何かあったとしても本当に少し助け舟を出す程度しかできないのだが、わかっているのだろうかと心配になるときはたまにある。
さて、私の周囲にはそんな取り巻きたちがいるせいでマリーに会うための難易度が上がってしまい困っているのも事実だ。
取り巻きがいるということは私の周囲にいつでも数人が私の傍に居るということで、女三人寄れば姦しいなんて言うように大体静かに動くことはできない。
なんでそんなことになってしまっているのかわからないのだが、私はマリーから避けられているのでばれないようにこっそり近づいて捕まえたいのだが、取り巻きの少女たちが常に騒いでいるせいで静かに近づくなんてことは到底できない。思わず散れ!と怒鳴ってしまいそうになるくらいはうっとおしいい。
そんなこともあり、私がマリーに何とかして会おうとしていることと、マリーがどうにかして私を避け続けていることは学校中に広まっている。
冷静によくよく考えると、私に会うといじめられるので避けているとそんな風に見えるかもしれない。理由は、もちろんいじめるために追いかけているわけではないが、事実はどうあれ周りの人々がどう思うかは別だ。
これは、私がマリーをいじめていると噂が流れてしまうのも時間の問題のように感じるので、とにかく私とマリーの中の良さを見せつけてありもしない疑惑を払拭しなければと最近は考えている。
一応学校の中でマリーの姿を見かけることも無いわけではない。ただ、わたしが見かける時のマリーは恋愛対象者の誰かと必ず一緒にいるし、大体が二階の廊下の窓から中庭にいるのを見かけるなど、すぐにその場に行くことはできない状況で見かけるので、これはもう神が私にストーリー通り動けと言っているようにも感じる。
そんなことを珍しく一人になれたので考えながら学校の中庭を歩いていると、突然体に何かがぶつかってきた。私は普段から鍛えているので転んだりはしなかったが、ぶつかってきた誰かが転んでしまっているのは視界の端に映った。
「ごめんなさ…、」
それは、私がずっと会いたいと思っていたマリーだった。
思わず固まってしまう。そしてそれはマリーの方も同じようで私たちのあいだの時間はしばし止まっていた。
初めに動き抱したのはマリーの方で、差し出しかけていた私の手を取った。反射的につかまれた手を引っ張って、マリーの体を起こす。だがマリーは立ち上がった勢いのまま私に抱き着いてきた。私の胸に顔をうずめて思い切りぎゅっと抱き着いてくるこの感触は久しぶりで、マリーが私の侍女だった時の日々を思い出してしまう。
「リリー様。ごめんなさい。私、リリー様を信じたいんです。だから一つ、一つだけで良いんです。私の質問に答えてくれませんか。」
そんな風に今にも泣きそうな声で、絞り出されたその言葉に、私は頷く。どんな理由があって私を信じられなくなっているのか分からないが、マリーの信用を取り戻せるなら質問に答えるなんて簡単な話だ。
「聖女の力を知っていますか?」
当然知っている、と言いたいところだが、恋愛の重視された物語で、聖女としての力は聖魔法が使えることぐらいしか分からない。この国住んでいるもので聖女が聖魔法を使えることを知らない人はいないだろうし、おそらく何か違う能力もあるのだろうが…、正直に答えるしかないだろう。
「申し訳無いのですけど、聖魔法が使えること以外はまったく…。」
私を抱きしめるマリーの力がさらに強くなる。それはもう、一生離さないとでも言わんばかりに。
「やっぱり、やっぱりリリー様は知らなかったんだ!」
「ええと、マリー?私が何を知らなかった事がそんなに嬉しいの?」
ぱっと体を離したマリーの顔は満面の笑みだった。何が何だか分からないが私が聖女の力を知らなかった事が余程嬉しいらしい。
「内緒です!」
口に手を当てて私の顔をじっと見つめながら、そんなに何が嬉しいのかうふふっと笑うマリー。
ずいっと体を寄せて私の腕に自分の腕を絡めて横並びになる。
「今まで避けてしまってごめんなさい。どうしても不安だったの。でも思い切って聞いてみてよかった。」
私が聖女の力の全てを知らないことがどうしてそんなに嬉しいのかよく分からないが、マリーは何かが不安だっただけで私を嫌いになってしまった訳では無かったと私も少し安心出来る。
せっかくこんなに幸せな空気なのだから1食くらい抜いても良いかと考えて、今日のお昼はマリーのサラサラな髪を撫でながら静かな中にはで過ごしたのだった。




