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火星花嫁  作者: 猫又
第一章 伊織と海賊
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伊織、階級について桜に教えられる

「この二人をどうしましょう」

「どうって……どうしましょう」

「伊織様のいいようにとカイザー様にいいつかっております」

 ライオンに似た顔の大きな牢番はものすごく丁寧な口調で言った。

 私はティンを見た。ティンは少し不安な様子で私を見た。

「カイザーは自由にしてくれるって言ったわ。牢から出してあげてくれる?」

「は」

 牢番は二人を牢から出してくれた。

 私はティンと彼の姉、名前をティナと言った、を私の部屋に連れて行った。

「伊織様!!」

 桜と桃に二人を風呂に入れて、何か食べさせるように頼んだ。

 ティンとティナは居心地が悪そうに部屋のすみでもじもじし、バイオノイドの桃に声をかけられてびくっとなっていた。

 お風呂に入ってさっぱりした二人は美しい姉弟だった。

 お揃いのブロンドにグリーンの瞳。

 だけど発育状態は悪そうだ。ずいぶんと痩せて表情が悲しげだった。

 桜が用意した食事をがつがつと食べた、のだけど。

 皿の上の肉やパンを手づかみで食べようとして、桜に酷く怒られる。

「ここは奴隷部屋ではない。伊織様の部屋で不作法は許さない」

 怒られて、ティンとティナはおどおどと下を向いた。

「ま、まあ、いいじゃない。ナイフとフォークに慣れてないんじゃないかしら」

 と私が言うと、

「さようですか、伊織様」

 と桜は笑顔で私に答えた。そしてすぐに二人に視線を向けて、

「知らないのはしょうがない。では、今から覚えろ」

 と真顔で言った。


 二人が桜に怒られながら食事しているのを眺めていると、

「これからあの二人をどうなさいますか?」  

 と桃が言った。

「え、どうって」

「あの二人の立場ですね。よその奴隷にお売りになるのか、伊織様の奴隷としてここで働かせるのか、ですわ」

 って、奴隷しか選択肢ないじゃん。

「奴隷商になんか売らないわ。私の奴隷にもするつもりないわ、っていうか自分が奴隷部屋に連れてかれそうなのに」

 桃はくすくすと笑って、

「まさか、伊織様はカイザー様の花嫁様ですのに」 

 と言った。

「いやいや……それは、ないから! それにあの二人はもう奴隷じゃないわ」

「ではここで伊織様付きの使用人として働くという事でしょうか」

「え、あ、そうなの?」

「伊織様に必要がなければ他の部署で働かせる事も可能です。キッチンですとか人間の手を欲しがっている部署もあります」

「そっか、バイオノイドさん以外にも人間でもメイドさんがいるのね?」


「はい、ですが階級は私達が上ですわ」

 と話に割り込んで来た桜が凛とした声で言った。

「か、階級?」

「私達は人間の為に働くように作られたバイオノイドですが、奴隷よりは上の階級です。私一体で人間の上級奴隷が百人は買えますから。あの二人ならば千人は買えますわ」

 ちょっと上から目線で桜がそう言った。

「じょ、上級な奴隷がいるんだ……そっか、バイオノイドさんは高価だもんね」

 プ、プライドも高そうだなぁ。

「ですからここで伊織様付きとして働く場合でも私達が上級ですから」

「そうなんだぁ。あの二人はどうしたいのかしら? あの二人はもう奴隷じゃなくて自由なのよ」


 桜がテーブルの方へ行って、しょんぼりしている二人を私の座っているソファの方へ連れて来た。

「お前達はこれからどうしたい?」

 と桜が二人に言った。

 ティンとティナはおどおどした様子で顔を見合わせた。

「最下層の奴隷だったお前達を伊織様が格上げしてくださった。お前達は自由だ」

 それでも二人は嬉しそうな顔もせずにただふたりでうつむいているだけだった。

「故郷へ戻りたいとか、何かやりたい事があるとか? 将来の夢とか」

 まだ黙っている二人に桜の尖った声が飛んできた。

「伊織様のおっしゃる事にお答えしろ!」


「ぼ、ぼくたちは、その、どこへ行くあてもない、です」

 とティンが言った。

「故郷は? 両親は?」

「戻ればまた……奴隷に売られるから……」

 と消え入りそうな声でティナが言った。

「……親に売られたの?」

「はい、ぼ、僕たちは何も出来ないんです。だから……」

「何も出来ないって?」

 二人はうつむいてしくしくと泣き出した。

「ずいぶんと幼い頃に奴隷に売られて転々としたのでしょう。ですから教養がないのですわ。このような者達は読み書きや金銭の換算が出来ないのが普通です。ですから自立するのは大変でしょう。一から学ばなければなりません。でもこの二人のように人間的な容姿に恵まれた者はまだましですわ。寵愛を受けて生きていける道がありますもの」

 桜が言ったその言葉には少し侮蔑の感があった。

 ティナがぎゅっと唇を噛んだ。その肩は震えている。

 こんな子供なのにそういう風に扱われて生きてきたという事だ。

 それでもまだましな方なんだ。


「そっか。今すぐに外で自立するのは難しいって事ね?」

「こ、ここで働かせてください……お願いします」

 とティンが言った。

「姉さんと一緒にいられるなら、何でもやります!」

 ティナもこくんとうなずいた。

「そうね、いいわ、あなたたちがそう望むならここで仕事をもらえばいいわ。桜さん、桃さん、あなた達のお手伝いをさせてあげてちょうだい。私がいなくなってもこの船でちゃんと働けるように面倒みてあげてくれる? お願い」

「伊織様のご命令ならもちろんですわ。ですがいなくなるなんておっしゃらないでください。あなたはカイザー様の花嫁なのですから」

 と桃が言った。

「え~花嫁って一体何人目よ~~。すぐに飽きて捨てられちゃうわよ」


 本当はこんな風に人の世話なんか焼いてる場合じゃない。

 カイザーの気が変わって奴隷部屋に戻される前に逃げたいのが本音。

 だってこの贅沢な生活に慣れるということは私があの男のお人形として生きているということだ。

 そしてきっとそれに慣れた頃に捨てられる。

 私は捨てられれたくないあまりに媚びてしまうかしれない。

 それだけは嫌だ。絶対に嫌だ!


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