SS22 「闇の中」
車で山を越えようとして細い道に迷い込んだ。
地図上では国道と出ているが、実際に走ってみれば山道としか言いようがない。
かろうじて舗装はしてあるが、車一台の幅しかなく、ガードレールもない。路面は枯れ葉に覆いつくされており、白線も見えない。おまけに片側は川で路肩は崖だ。そして周囲は闇に包まれていた。
――まいったな。
少し道が広くなった所で、車を脇に寄せた。周囲は植林された針葉樹が並ぶ。町に出られるはずだが、今いる道が本当に国道57号線なのかも不明確だ。ナビに頼らず自動車を走らせるのが好きなので、車にナビはつけていない。山越えルートの選択も含めて、今回ばかりは行き当たりばったりな自分の行動パターンを後悔した。電波の調子が悪いらしく、携帯電話のナビも先ほどから少しも現在位置が動いていない。
前進すべきか考えていた時、場違いな音がした。
チリン・チリ~~ン
ベルの音と共に赤い自転車が横を通り過ぎた。自転車には長い裾の赤いワンピースを着た少女が乗っていた。羽織った薄手のストールが夜を泳ぐ熱帯魚の尾びれのようにたなびく。
チリン・チリ~~ン
走り抜けた自転車を目で探した。だが、赤い自転車の少女はどこにも見えなかった。
チリン・チリ~~ン
再びベルの音がして、自転車が通り過ぎていった。
同じく後方からやってきたから、同一人物ではないが、先ほどと同じく赤い自転車で赤い服だ。暗闇の中を赤い残像が走る。
自転車が通るのだから、近くに人家があるのだろう。
車を動かし、道を進む。崖から落ちないようにスピードは出さず、ライトに照らし出された先を進んだ。
ライトの中で赤い裾が揺れた。
いつの間にか赤い自転車が三台、目の前を走っている。それぞれの自転車にはやはり赤い服の少女。恐らくは中学生くらいだろう。よく見れば全員髪形が違う。
またベルの音がして、バックミラーに数台の赤い自転車が見えた。やはり赤い服の少女が乗っている。気が付くと前方の自転車の数が五台に増えていた。
――なんだこれは?
速度は出ていないとは言え、背後にもいるので止まることもできない。横を見ると木々の間にも、赤いワンピースとストールが揺らめいていた。少女たちが一瞬、ハンドルから手を離し、両手を打ち合わせる。二度、三度。リズミカルな音が自動車の中にまで聞こえてくる。それに淡い口笛のメロディが混じる。
少女達が自転車を止め、こちらも慌ててブレーキを踏んだ。
ライトの向こうで揺らぐ少女達の影は赤い蜃気楼のようだ。
ドアの開閉を示すライトが灯った。
――いつの間にか後部座席に乗っていた赤いワンピースの少女が車を降り、光の中に進み出る。彼女は傍の少女に赤いマントを羽織らせてもらうと、それを翻しながらクルリクルリと踊った。
少女達がこちらに向かって舌を突き出す。
――アッカンベー。
その瞬間、少女達の姿は消え、闇の向こうに微かに街の灯が見えた。