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 さほど広くはない店内。店員に待ち合わせなんですと言いながら少しだけバッチを見せた。その店員は綾羅木と打ち合わせしてあったらしく、さりげなく、入口にクローズの札を下げた。


 季伊那によく似た造りの男が携帯電話をいじっている。他は中年のサラリーマンと老夫婦。老夫婦は離れた奥に座っているので問題ないだろう。

 斗四季は真ん中のテーブルにいた。その後ろに背中を向けたサラリーマン。後から入った客であろう。そういえば今日は何も食べていない。時計は四時を回っていた。


 斗四季が座るテーブルについた。斗四季が少しだけ顔を上げて、笑った。スーツだが、ネクタイは外していた。会社には戻らないのだろう。手の甲にタトゥーを消した痕が残っていた。指が出るタイプの手袋を常用しているのだろう。指先だけが日焼けしている。


「お兄さん、席、間違ってない?」

 少し焦りが見えた。季伊那が来ないからだろうか。

「あってます、日賀 斗四季さんですよね」

「誰、あんた」

 バッチを見せて人工声帯を使って話すことを説明した。

「へえ、口、利けなくても刑事やれるんだね」

「どなたと待ち合わせですか?」

 面倒だったので、本題に入る。世間話も大事だが、このまま話すと手が出そうだ。

「話す必要があんの?」



「海藤 貴也、筒森 胡桃」

 斗四季は反応しない。他の被害者の名前も反応しなかった。

「誰ですかね?」



「椎崎 五月」

 ピクリと眉毛が動いた。



「石田 凛」



 唾を飲み込む斗四季。汗が吹き出している。犯人だという自覚はあるのか。

「季伊那さんが持っていたメモリーにあったあの部屋はあなたの部屋ですよね。本棚には證券の扱いや経済学、あなたのお父さんの本も並んでいました」


「さあ、何の話かな? 俺の部屋も弟が勝手に使っていたりするから」

「七回も強姦の現場にされて黙っている理由は何ですか?」


 不意に顔つきが変わった。

「へえ、知らなかったな。俺は知らない」


「キイ、ヤったのなら窓開けとけよ」



 ビクッとした斗四季を睨むように見る。

「海藤 貴也さんからの証言です。部屋に帰ってきたあなたが言ったんですよね」



 だんまりか。携帯電話を見つめて動かない。


「バカな弟で悪かったな、とも言いましたよね。それから、海岸寺に弟が悪さばかり繰り返してるから、お仕置きしてくんないかな、と言ったそうですね。何故、海岸寺だったんですか? 何故、日賀部長のところに行かなかったんですか? 時効制度も変わりましたし、あなたは捕まりますよ」



 一呼吸してから続けた。

「あなたは知りたかったんじゃないですか? 自分が今、どこまで追い詰められているか」




 斗四季はテーブルを拳で叩いた。奥にいた老夫婦がこちらを怪訝そうに見ている。店員はすかさず、フォローしに行った。そのまま、店を出てくれるように促している。

 斗四季は諦めなかった。


「分かんないなあ、何の話かなあ?」


「あのメモリーの中身は全て観ました。あれは全部、あなたが首謀者のようですよね」

「違うっ、ふざけんな」

「あなたが仲間にアイツを襲え、コイツを襲えと指示したんじゃないですか? 場所は貸すからと」

「違うっ、俺じゃねえっ」


「何が俺じゃないんですかね?」

 額から汗が流れ、目に入ったのか、斗四季は手でごしごしと拭いた。

「俺は知らない、みんな季伊那が」


「石田 凛と椎崎 五月の誘拐以外は、ですよね?」

「黙れよ、殺すぞ」

「季桜堂の先鋭が殺人予告ですか?」

「知らねえって言ってんだろ」


「季伊那くんに脅されたんですか? あなたがお父さんの日賀 誠二さんを脅したように。そうでなければ、その若さで取締役の肩書きはつきませんよね」

「っ、止めろ」


「今、日賀 誠二さんと石田 京一郎さんに事情聴取を行っています。この二人の関係性が原因ですよね」

 斗四季は怒りからか、恐怖からか、ぶるぶると震えだした。

「あの動画は真っ暗だ、どうせ何も写っていない」

「うちにいるパソコン狂を甘くみないで欲しい。あの動画を見られるようにするくらい、朝飯前ですよ。だいたい、あれが元で季伊那さんはあなたの仲間をゆすってましたよね」

「あれさえ、なけりゃ」


「そうでしょうか」

「証拠はない」



「あなたは言いましたよね。俺はお前がいい、と。凛くんはちゃんと覚えていました」


 真っ青になる斗四季。隙を見て携帯電話に届くメールを開く。同時に動いているチームからの報告が黒井を通して送られてくる。

「誠二さんの指示は誘拐だけだそうですね。少しだけ、隠してほしかったと。何故、あのような凶行に?」

 唇を噛み、血を滲ませる。

「双子を間違えたからですか? 殺したら誤魔化せると思いましたか?」



 

「途中で死んだんだよ。あいつら、加減しないから」

「途中? 小学四年生に何をしていた途中ですか?」

「分かってんだろ、ヤったんだよ、お前、分かって言ってんだろ。そうだよ、俺は凛の方がよかったんだよ、男とか女がとかじゃなくて、他のやつが突っ込んだとこに自分のを突っ込むのが嫌だったんだよ、それだけだ。助けてやるから誰にも言うなって言ってな。それから俺は凛を捨てに行ってた、そうだ、俺はホントにいなかったんだよ、俺は殺ってないっ」


 メールを見る。


「あなたの仲間、三人とも確保しました。後から加わった一人も」

「え?」

「一人でも逃げられたら困りますから。その四人から証言を取ります。あとはあなたと季伊那さんだけですよ」


「じゃあさ、ここであんたを殺って逃げればいいか?」

「私に聞くことでしょうか?」

「言ってんだろ、五月は俺が戻ったら死んでたんだよ、俺は捨てただけだ、あいつらの尻拭いをしてやったんだよっ」

「尻拭いとは首を切り落としてゴミ収集場に捨てたことですか?」

「そうだよっ、すぐに叔父さんに電話してさ、大変だったんだぜ」


 少し自慢気に聞こえたのが堪に触る。




「筒森 胡桃さんは当時着用していた衣類を持っていました。今、鑑定中です。凛くんにも何かないかと聞いたところ」

 バンっとテーブルを叩く斗四季。本当は自白させたくない。罪が軽くなってしまう。


「同じように当時の衣類を出してくれました。それから馬のマスクを被った男のスケッチもありました。見えたんですね、その手にあったはずのタトゥーも描かれています」


「親父のせいだ」

「誠二さんは、あの事件以来、石田さんには頭が上がらず、石田さんは一切、あの事件を語りませんでした。椎崎さんに引っ越しをさせて、今でも連絡をとっています。石田さんは我々同様、日賀を根元から引きちぎるつもりだったようです。我々に負けないほどの証言を集めていました。公安に弟さんがいることで、我々を信用していなかったようです」


 海岸寺らは全てかもしれないが、石田と自分は凛のことが優先である。メモリーにあった動画は結局、あの場面しか聞こえず、古い形式で復元は難しいと黒井は判断した。凛のことは自分にしか解決に導けない。


「自白と受け取りますがよろしいですか?」


「まあ、すぐ釈放してくれんだろ?」

 手錠をかけてから返事をした。


「日賀部長は先程、解雇されました。この一連の事件で、行き先はあなたと同じかもしれませんね」


 大人しくついてくる。だが気は抜けない。出口に近づくと海岸寺が慌てて飛び込んできた。


「ダメだっ」

 視線は自分ではなかった。後ろに注がれている。振り向いた瞬間にキラリと光ったナイフが斗四季の首に刺さっていた。







 







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