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 室長の海岸寺は、柳沢が会えなかったことを残念に思ったことを納得できるかっこいい人だった。央からもらったスーツで本当によかったと思った。モデル並みの肢体にきれいな顔がのっかっている。ただ、かなり機嫌が悪いようだった。


「室長、すごい顔になってますよ、怖いから」

「ほら、新しい人ですよ、欲しがってましたよね? はい、にっこりして」


 範子にも黒井にも無反応で、整然とした机を睨んでいる。正面に立ってみたが、自分のことは後回しのようだった。とにかく、挨拶を済ます。

「狐島 結といいます。よろしくお願いいたします」


 ちらりと視線が動いた。声のことを説明しようとしたら遮られた。

「構わない。別に声が出ないことなんか関係ないよ。刑事辞めたくないって言ったんだろ? それでいいよ」

 頭を下げて自分の机に戻った。パソコンを開いてとりあえず使ってみる。キーワードを入れると関連する事件のファイルが並ぶようになっている。

 石田 凛。エンターキーを押すと検索が始まった。八件ヒット。八件? 同姓同名の可能性もある。上から開いて読むことにした。


 読んでいくと全部殺人事件で、何故犯人が挙がらないのかと考えると頭も心も痛い。犯人が捕まろうが逃げようが、生きていようが死んでいようが、遺族の悲しみは積もるだけである。決して減ることも消えることもない。

 同姓同名だったのは一件。抜いておく。一番古いファイルが見たかった資料である。

 凛が事件に絡んでいるのは何故かが気になったが、被害者やその関係者が凛の作品を買い付けていたり、個展に行ったりしただけだった。特に怪しいわけでもなかった。


 何故、それがわざわざ資料に入っているのか。


 海岸寺が机を蹴った。


「ちょっと、室長、あり得ないっ」

 範子が怒鳴った。

「俺さぁ、一番ムカつくのが、あれ、あれなんだよ。なんなんだよ、クソガキがよっ」

「分かりません、机、蹴るのがいけないことしか分かりません」

 四人の机はバラバラに置かれているので部屋中に声が散らかる。室長は入り口に一番近く、入り口を背にしている。範子はちょうど自分の向かい側で壁を背にしてこちらが見えるように座っている。黒井は入り口からまっすぐ奥まで行った辺りで壁に向かって座っている。

 明日は入り口が見えるように机を動かそうと決めた。場所はここでいい。


「大学時代に遊んだ友達、友達? 学部が一緒だったんだけどさ、そいつが弟連れてきてさ」

「室長、アヤさんと出掛けたんですよね?」

「ああ。呼び出されたからアヤに付き合ってもらってた」

「ふーん」

「弟を逮捕してくれって言うんだよ」

 壁に向かっていた黒井が、ブッと吹き出した。

「マジなんだよ」

「何仕出かしたんですか、弟くん」

「レイプ教唆。殺人教唆」

「はあ? ええっ」


「あのクソガキ、笑ったんだよ。俺、十七歳なんですけどぅ。ああっ、ムカつく、ああっ」


 少年法か。


「死んだやつは還ってこないんだよ。レイプだって精神の殺人とか言われる。クソガキは俺はやってません、言ってませんと言い出した」

「なら、十七歳なんですけどとか関係なくないですか? わざわざ言うって」

「分かってんだよ」


 海岸寺は勢いをつけて立ち上がり、自分の腕を掴んだ。

「少年課に紹介してやる。ちょっと来い」

 頷いて海岸寺についていく。


 地下から上がり、強行犯係を抜けて少年課に向かう。

「木梨さんは?」

「取調室ですよ。怒ってましたよ、変なの連れてきてって」

 少年課が取調室を使うとは。殺人教唆は本当だったのか?

 海岸寺は踵を返し、再び強行犯係に向かう。入り組んだ机の奥に取調室があった。隣の部屋に入って扉を閉めろと言った。


「範子もクロイデも人よりパソコンが好きでな。足、使うやつが欲しかった。頼むぞ」

「はい」

 いちいち、大変だなと付け加えた。人工声帯のことである。

「仕方ないです。慣れればもう少しましになると思います」


 マジックミラーを海岸寺と覗く。木梨は女性だった。貫禄もある。

「次で少年課の課長だ。カッコいいよな」

 木梨の向かい側にちょこんと座るのが海岸寺が言ったクソガキである。線の細い、なよなよしているように見えた。

「あれでも、バンドのボーカルをやるそうだ。名前は日賀 季伊那。キイと呼ばれている」

 木梨が何を言っても薄く笑うだけ。証言を待つより証拠を探したほうが早い。


「いいね、お前。なんて呼べばいい?」

「キツネ」

「名前は嫌か?」

「そんなことはないです」

「強行犯係にな、似たのがいる」

 似たのが?

「綾羅木 恩。名字も名前もどっちでも女の子みたいな名前がいる」

「アヤさんってその人ですか?」

「そ。強行犯係の係長はメグミちゃんって呼ぶ。反論もしないで受け入れてる」

「それ、ユイちゃんって呼ばれるように頑張れってことですか?」

「キツネは結婚してんの?」


 話が飛んだのかつながっているのか分からない。

「これからです。恋人はいます」

「そっか。なら、ユイちゃんとは呼ばないだろうな。俺だってカイだもんな」

「お付き合いされてるんですね?」

「や、してない」


 意地悪そうに笑った海岸寺。何故か央を思い出した。


 


 

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