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柳沢は知り合いの婦警を捕まえて中に通してもらった。ついていくと、強行犯係の側に座らされた。廿日署との違いは明らかで、強行犯係の広さが倍であった。班は三つありそうだ。雑然とした机は二つほどで、他はみんなきれいである。
「残念。出てるのかぁ」
柳沢は軽いため息をついて隣に座った。帰っても構わないのだが、帰れとは言いづらい。人工声帯を当てて聞いた。
「誰がですか?」
「綾羅木巡査部長。めっちゃイケメンなんだ。会いたかったなあ」
だからキラキラして送ってくれたのか。
「あ、キツネくんが配属されるとこの室長もかっこいいんだ。早く来ないかしら」
だが、迎えにきたのは紫色の極太フレームをかけた女の子だった。
「あ、すいません、こっちですぅ」
分かりやすく落ち込む柳沢にお礼を言って極太フレームについていく。霧沙署自体、廿日署よりでかい。階段は二つあるようだった。一番奥にある階段を降りていく。半地下になっているところを歩いていくと女の子は正面の可愛いげのないスチールの扉を開けた。
ごうっと風が流れ出た。
「やだな、もう。ほんと、やだ」
中に入ろうとしない。
黒っぽい影が彼女をとうせんぼしているのだ。
その影がこちらに気がついた。
影には顔があったらしく、分かりやすく、目を見開いて消えた。
「あ、入れる。ここが未解決事件捜査室。アタシ、香川 範子。右にいるのが黒井 惺。室長の海岸寺は今、いない。どこ行ったかは知らない」
「アヤさんと出掛けましたよ」
「ふーん。君の机は左のやつ。嫌なら好きなとこ、移って。パソコンはもう使えるようにしてある。あ、携帯、いい? クロイデ、番号とアドレス、入れたげて」
段ボールを充てられた机に置いて右にいる黒井に近づく。
「あ、カイさんと同じ機種だ。いいな、使いやすいよね」
黒井は迷いもなく操作して互いの番号やアドレスを登録してくれた。終わった瞬間、携帯が震えた。
「よし、かかる。大丈夫、オッケー」
切ると黒井は携帯を返してくれた。
今のを取ったら柚井姫は黒井の携帯に移っただろうか。
「ありがとうございます」
人工声帯を当てて言うと、オッケーと気さくに答えてくれた。一々、人工声帯のこととか説明しなくて大丈夫のようだ。そのあと、黒井はパソコンの使い方やパスワードを教えてくれて、とりあえず、仕事らしいことは出来る環境を整えてくれた。
「香川がここの資料をみんなパソコンに入れてるんだ。基本、みんな自分でやらないとなんか気が済まない性分だから、ま、資料のまとめは香川に任せて、気になる事件があったら調べてくれれば。調べ始めたら基本、担当。もちろん、手伝うし、意見も出す。管轄に戻したくなったら、戻して解決。あ、戻すときはホシの目星をつけて。管轄が難なく捕まえて来られるように証拠とかあげといて。で、五時で帰る。基本、残業しないこと」
「はい、分かりました」
「ちょっと、クロイデ、偉そう」
「因みにクロイデじゃないから。黒井だから」
「なんて呼べばいいの? じゃあ、クロイデ。って言ったじゃん」
じゃあ、黒井で。
「あ、笑ってる、ほら、そう思うよね」
「思わねえし。えっと、狐島くん?」
「あ、なんて呼べばいいの?」
「キツネ」
「ほら、やっぱりクロイデだ、ね。キツネくん」
「黒井だし」
香川は名前がいいんだといい、ノリコと呼び捨てにしろと言う。
「何が呼び捨てにしろだ、気持ち悪ぃ」
「うっさい、バカ」
決して近づいたりはしないのがまた面白い。
「さすがに呼び捨ては出来ないので。ノリコさん、よろしくお願いします」
「やーん、紳士。かっこいい。ってか、イケメンだ、よかった、毎日見る顔がクロイデじゃあさあ」
「はいはいはいはい、どうせ、イケメンじゃありませんよ、目、小さいですよ、足も短いですね、はいはいはいはい」
ノリコの容姿を言わない黒井は充分にイケメンだと思う。
やはり緊張していたのか、ほっとしたら肩が痛い。軽く揉んでから部屋を見回した。入り口に一番近い机が室長のらしい。きれいに片付いている。そういえば、紙や段ボールだらけの部屋だが、空気もきれいである。
奥の棚には数えきれないほどの段ボールがあった。これがみんな未解決なのかと思うと、やりきれない感じが背中をかけ上がってくる。
「なんか、その顔、アヤさんみたい」
「俺もそう思った、イケメンは何してもかっこいいんだな、いいなあ」
「顔は関係ないじゃないですか、だいたいそんな、イケメンとかじゃないですし」
「謙遜することも知ってる。心もイケメン」
「香川、よかったじゃん、来た頃はふてくされてた」
「だって、室長はだいたいいないし、クロイデはイケメンじゃないし」
「顔で捜査するわけじゃありませーん」
「毎日見るんだからイケメンがいいに決まってますーぅ」
いいコンビだなと思った。




