黒手病と旅の再開
3話目です。
思いっきりご都合主義てきな。
相変わらず駄文で短い。
よろしかったらどうぞ
診察を終え、居間へと戻って来るとイースは矢継ぎ早に指示を出した。
「たっぷりのお湯を沸かしてくれ!それと何か消化に良いものを」
「消化に良いものとは……?」
「今、彼女は極端に体力も落ち、栄養失調状態なんだ。
しかも胃が弱っている為に重いものは胃が受け付けない。
それに合わせビタミン、ミネラル等も不足してる!」
それを聞いた、シェラフィータ、ゼノン、カミルは困惑した。
「び、びたみん?……みねらる?……それは……」
イースは、『あー……』と声を出し顔をしかめた。
「と、ともかく薬を調合します。何か食べやすく、体力のつくものを!」
「申し訳ないですじゃ……この村には、満足な食事が出来るほど蓄えが……」
そう言ってゼノンは眉尻を下げた。イースはすぐに自分のザックから色々と取り出し始めた。
幾つかの中身が詰まった袋をゼノンに渡す。
「こ、これは麦!……こっちは塩にコショウ……さ、魚を干したものまで!」
皆は目を見開いて固まった。
「まずは麦かゆを作ってください!魚は少し炙ってからほぐして、出来上がったかゆの中に」
言いながらも手を止めずに、薬を作るのに必要な材料や道具を出してゆく。
「これから調合に入る!マージさんは既に両腕の全てが黒く染まってるから、時間との勝負に。
この病はここから進行が段違いに速い!急がないと取り返しが付かない事になりかねない!」
『ボーっとするな!』と声を荒げた。その声に皆ハッとして我に返る。
「わ、私はどうしたらいいんだ?」
「湯を沸かして食べるものを!材料が足らなかったら言ってくれ!」
「お、俺は!何をすればいい?」
「子供達の相手を!安心させて」
「わ、わしに何か出来る事はあるかのう!?」
「長なら長らしく、ドン!と構えてろ!」
言外に、お前には何もない!と言われ、ゼノンは少しシュンとなった。
慌しく皆が動きまわる。
シェラフィータが湯が沸いた事を知らせると、それを幾つかのたらいに張らせ、マージのいる部屋へ置かせた。
湯をこまめに交換させる様に言い付けて。
そして、粥を作らせた後、先に皆に食べる様促した。
「こんな物、本当に頂いてよろしいのか?」
代表してゼノンが問いかけた。調合の手を休まずにイースは首肯した。
「貴方達も碌なものを食べてないのでは?マージさん様に作ったものだから、満足できるか解らないけど食べてくれ。
こちらが体力不足に陥ってはマージさんの病だって、治るものも治らなくなる。
もう少しで調合が終わるから薬を飲んだ後、食べさせて上げる様にお願いする」
そう言って慎重に調合するイース。うっすらと額には汗が滲み出ていた。
程なく調合が終わり、急いでマージに飲ませる。
マージを無理矢理に起こし、調合した赤黒くどこか血液を彷彿とさせる様な薬を一気に飲ませる。
マージはその薬を飲むと、余りのその味に噎せた。
すぐに水を飲ませ、食べられるのであれば。と粥を側に置いた。
マージは弱弱しく首を横に振った。
イースは、少し眠った後に必ず体力回復の為に食べる様に、と指示を出し部屋を後にした。
下げた粥を手に居間に戻ると、皆一斉に視線を向ける。
「少し眠る、と。少ししたら食べさせて上げてほしい」
「マージは……妻は……助かるのか……?」
「大丈夫。じきに良くなる」
その言葉にジルとユルは歓声を上げた。
「……あ、ありがとう。どれほど感謝すれば……」
そう言ってカミルは号泣した。その様子にシェラフィータも涙ぐむ。
ゼノンはイースの手を取り深々と頭を垂れた。
「イース殿には、どうやって恩を返せばいいか……この村総出でお返しする……幾ら必要か……?」
「そう言った話は、マージさんが完全に回復したら、という事で。今は素直に助かった事を喜べばいいのでは?」
ゼノンは何度も首肯した。
シェラフィータはその様子を優しげな顔で何時までも見詰めていた。
イースは様子を見るために何日か滞在を申し出た。
喜んで了承するゼノンに、この家に滞在する事を勧めるカミル。
子供達もはしゃぎイースにまとわり付いた。
日に日に良くなっていくマージに、最初は半信半疑だった村の住人達もイースを受け入れていった。
特に懐いたのは村の子供達だった。その中でもジルとユルはべったりだった。
シェラフィータはその様子に、イースの事を段々と信用していった。
マージがすっかり良くなった頃、イースは彼女を『シェリー』と愛称で呼ぶようになっていた。
「シェリー。話があるのだが」
夕食を終え、寛いでいる所に声を掛ける。
「どうした?」
「ああ。マージさんももう心配はなくなった。そろそろ旅に戻ろうと思う」
その言葉にシェラフィータは虚をつかれた。
「そ、そうか。ず、随分と急だな。もう少しゆっくりしてもいいのではないか?急ぐ旅でもないだろう?」
「確かに急ぐ旅ではないが……色々と揃えたい材料もあるし、路銀ももう少し蓄えておきたいし……」
「それで、何時旅立つのだ?」
「ああ。明日にでも……」
「あ、明日ぁ!?」
その急な出発にシェラフィータは声を大きくした。
その声を聞きつけジルとユルが寄ってきた。
「どうしたの?お姉ちゃん!大きな声で」
ユルが甘えるようにシェラフィータに飛びついた。
「あ、ああ。イースが……明日に旅に戻ると……」
それを聞いた二人は声を荒げた。
「な、なんで!まだ一緒にいて遊ぼうよ!約束したもん!明日も遊ぶって!」
「イースお兄ちゃん!なんで?ユルの事キライになったの?」
ジルはイースに縋り、ユルは目に涙を浮かべる。
イースは困り顔で二人の頭を撫でた。
それを見ていたマージはゆっくりと二人に近づき抱きしめた。
「だめよ。イースさんにも事情があるのよ?ワガママ言って困らせちゃ。ホントに嫌われちゃうわよ?」
そう言って優しく諭す。イースは軽く会釈で礼をした。
マージは首を横に振り小さく、『こちらこそ、すみません』と謝罪した。
二人は火の付いたように泣きだした。
とうとうカミルまでも出てきて二人を叱り付ける。
「いい加減にしないか!イースさんも困ってるだろう!ちゃんとお母さんの言う事を聞け!」
「だ、だって明日も遊ぶって約束したもん!」
「わ、私も一緒に飴玉食べるって約束したもん!」
ジルとユルはしゃくりあげながら言い募った。
「まだ、行かないよね!?明日も遊んでくれるよね!?」
「私も!一緒に木登りして!それで……それで、飴玉食べて……」
今度はイースに言い募った。
「ごめんな。二人共。もう決めたんだ。明日旅に戻るよ」
それを聞いた二人は更に泣きだした。仕舞いには
『うそ付き!』『お兄ちゃんなんかキライ!』
そう言って部屋に閉じこもってしまった。
「すみません。子供達がわがままを言って」
「申し訳ない。妻の恩人に向かって酷い事を」
そう言って夫婦二人頭を下げた。イースは苦笑し首を横に振った。
シェラフィータはじっとイースを見詰め決意した様に小さく頷いた。
「これもいい機会だ。私も旅に戻ろう」
「シェリー?何も合わせる事はないだろう?」
「いや……時期をずらせば私もズルズルとなってしまいそうなんでな……」
「そうか……子供達には悪いが……」
「……その方がいいかも知れません。子供達には良く言って聞かせるので……」
「本当に申し訳ない。最後に嫌な思いをさせてしまった様で」
大人達は苦笑しながら頷いて見せた。
二人が明日出発する知らせは瞬く間に村中に知れ渡り、村総出でお祝いがされた。
皆それぞれ、食べ物、飲み物を僅かばかり持ちより、代わる代わる皆は感謝を述べ、ささやかでは有ったがちょっとした宴となった。
一段落が付いた頃、居間には長であるゼノン、カミル夫妻とイースにシェラフィータだけになった。子供達は結局出てこなかった。
「本当にイース殿には世話になりましたじゃ。村の代表として改めてお礼を申し上げますじゃ」
そう言ってゼノンは両手をついた。同じ様にカミル夫妻も深々と頭を下げる。
「いえ。お礼は先程、村の皆に言われましたので、お気になさらず」
そう言ってイースは笑った。ゼノンは真剣な顔になり
「イース殿。先日お話をした件は覚えてお出でかな?『村の総出でお返しする』と」
そう言って中身の詰まった小さな袋を取り出した。
シェラフィータはその小さな袋に察しがついた。
村の皆でかき集めたのだろう。全て金貨とは思えないが、それでもこの村にとっては大金であるには間違い無かった。
シェラフィータは、イースがこの申し出をどうするのか僅かばかり興味があった。
イースは袋の中身を覗いた。僅かばかりの金貨、それと銀貨と銅貨が約半分づつ。若干銅貨の方が多い。
イースは袋の口を確りと閉じ突き返した。
「月光草、一角獣の血液、ムラサキマダラの根、魔狂虫の体液と赤焔竜の唾液。
更に雪中花の種に青ヨモギの葉……まだまだありますが……これ等を調合し出来上がった薬。
市場に出回ったとしたなら、相場は幾らぐらいになると思う?」
そう言って器用に肩眉を吊り上げた。そのセリフに驚きに固まる4人。
嫌な沈黙が降りた。シェラフィータの視線はきついものになった。
「……足りないと申しますか?」
「聞いているのは、『金額が幾らだと思う?』です。因みに月光草の相場は最低金貨3枚。
先程口にした材料も、月光草に似たり寄ったりの金額をするものも幾つか。
それ以上にするのも幾つも。さて、もう一度聞く。幾らぐらいになるとお思いで?」
シェラフィータは激高しそうになった。所詮はイースも人間だったか!と。
獣人達は顔が青くなった。
「……最後に。女神の涙」
それを聞いた4人は目を見開いた。
女神の涙。
慈悲深き、慈愛の女神が流した涙と同じもの。
その涙には奇跡の力が宿ると云われる。
曰く、どんな病も瞬時に回復させる妙薬。
曰く、不老不死に最も近き霊薬。
曰く、死んだ者さえも生き返させる神薬。
諸説あれど、伝説といって過言ではない神秘の薬。
イースが調合した薬がそれであると証拠がある訳ではないが、マージの病が回復したのは事実。
今度こそシェラフィータは立ち上がり、声を荒げた。
「そんな馬鹿な事があるか!『女神の涙』なら誰でも知っている!それこそ人種を問わず!
それに、語り継がれる夢物語の中の産物だ!あくまでも伝説の中に出てくるだけの代物!
それを騙るなどと!恥を知れ!!」
シェラフィータは机を殴りつける様に叩いた。
「子供達が起きるだろうが。そう興奮するな」
あくまでも冷静なイースに、シェラフィータは更に怒りを募らせる。
「っく!ふざけるな!見損なった!高々、一介の人間が『女神の涙』など作り出せる訳がないだろう!
薬師である事を差し引いても、余りにも度が過ぎている!馬鹿にするな!!」
シェラフィータは余りの悔しさに目頭が熱くなった。
恩人である村の皆に迷惑を掛けてしまう事への悔しさ。
こんな人間だとは見抜けなかった自分への悔しさ。
そして、信用していたことに対する裏切りの悔しさ。
それらが頭を駆け巡り感情の抑えが効かない。
「いいから座れ。シェリーの悪い癖だぞ。人の話を最後まで聞かずに判断するのは。冒険者たるもの、常に冷静たれ、だ」
「戯言を!もう、シェリーなどと呼ぶな!虫唾が走る!」
「もういい。少し黙っててくれ。話が進まん」
イースは嘆息し、ゼノンに真剣な目を向けた。
掴みかかりそうになったシェラフィータだったが、ゼノンに諌められ渋々座りなおした。
「この村は見ての通り貧しい獣人族の村。
貴方が作った薬が『女神の涙』かどうか、確かめる術はありませぬが……
マージを治療していただいたのは紛れもない事実……何をお望みですじゃ」
「本来、黒手病は『女神の涙』でなければ治らない病ではない。
手持ちの材料でそれ様の薬を作る事も出来た。しかし、思ったより進行が早かった。
確実に治す為に『女神の涙』を作成した……信じる信じないは自由だ。そこはどうでもいい」
そこまで一気に話して、飲み物で口を潤した後、再び口を開いた。
「まず。この事は絶対に口外をしない、と約束をしてもらう。
これには何があっても拒否を認めない。厄介事は好きじゃない」
強い口調で釘を差す。
『女神の涙』であろうと、なかろうと。
黒手病を治す薬を作れる事は事実な訳で。
他にいない訳ではないが、獣人の為に、という触れ込みは厄介事を招く要素を多分に含んでいる。
それが理解出来た以上、これには皆首肯した。
「頂く報酬についてだが……」
ゴクリ、と誰かの喉を鳴らす音が聞こえた。
「……実は既に貰っている。これ以上貰っては此方が貰い過ぎる」
そう言ってニヤリと笑った。
そのセリフに皆、口をあんぐり、と開けた。
「な、何を貰ったというのですじゃ?」
震えた声でゼノンがきいた。
「……さぁてね?当ててみな?ここの長だろう?」
『身支度もあるので、お先に』そう言って、ゼノンの答えも聞かずさっさと休んでしまう。
残された皆は、暫くポカンとしていた。
明くる朝、身支度を整えたイースとシェラフィータは村の皆に見送りをされていた。
シェラフィータはイースの方をチラチラと盗み見していた。
あれだけ激高し、酷い事を言ってしまった、と思っているにも関わらず謝罪のタイミングが掴めずヤキモキしていた。
そんな心情や視線に、気付いていないのか、解っていて気付かない振りをしているのかはイースのみしか知らなかった。
「本当に有難う御座いました。イースさんがいなければ今頃どうなっていたか。
シェラフィータさんもどうかお元気で」
「感謝している。また近くに来たらぜひ寄ってくれ。
大したもてなしは出来ないが、精一杯歓迎させて頂く。
シェラフィータさん、道中気を付けて」
カミル夫妻が頭を下げる。
「マージさんはどうぞお大事に。
まだ病み上がりなのは間違いないので、くれぐれも無理しないように。
カミルさん、余りお子さんを叱り過ぎないように」
「本当に世話になった。皆、元気で。ジルとユルによろしく伝えて欲しい」
ジルとユルは見送りに来ていなかった。割り切れないのだろう。
イースたちは一抹の寂しさを感じていた。
その時、カミルの家から勢い良くジルとユルが飛び出してきた。
涙を堪えて二人を見上げる。シェラフィータの目にもうっすらと涙が浮かんでいた。
イースはしゃがんで視線を合わせ頭を撫でた。
たまらず二人は泣きながら謝り始めた。
「ごめんなさい……酷い事……言って……ごめんなさい。
謝る……から。もう……うそ付きなんて……言わないから!だから……だから……」
「……キライって……言って……ごめんなさい……ホントはキライじゃ……ないもん!……うそだもん!」
イースはきつく二人を抱き締めた。
「解ってる……解ってるさ。二人の事大好きだぞ!俺は!また、会いに来る!必ず会いに来る!だから今は……またな!だ」
そう言って荷物から飴玉が一杯詰まったビンを取り出した。
「今度会いに来る時は、もっともっと美味しいお菓子を持ってくるからな!それまではこれで我慢してくれ。
いいか?ジル。お前はお兄ちゃんなんだから、ユルをしっかり守るんだ。
ユルはお母さんをしっかりお手伝いするんだぞ?
お父さんとお母さんの言う事を良く聞いて、一杯遊んで、一杯食べて、一杯眠って……そんで一杯笑え!」
そう言ってビンを渡した。
二人は涙を拭き、輝かしい笑顔を浮かべた。
そのやり取りに全員が涙ぐむ。
二人は笑顔で他の子供達と飴玉を分けあっていく。
それに比例して笑顔が連鎖していった。
それを見たイースは
「あの子供達の心からの笑顔。
どんな物よりも一番、価値があると思わないか?
それこそ『女神の涙』なんかじゃ足元にも及ばない位に、さ」
そう言って大人達に向かってウィンク一つ。
そのセリフに大人達は、イースが既に『貰った』という報酬に気が付いた。
村人全員がイースに向かって頭を下げた。
イースは照れたように頬を掻き歩き出した。
シェラフィータは自分を恥じた。
『本当のイース』を見抜けなかったことに。
そんなシェラフィータに向かって振り向いたイースは声を掛ける。
「さぁ行こうぜ!シェリー!」
それを聞いたシェラフィータは自分が笑顔になっていくのを感じた。
きっと自分はこれ程の笑顔を浮かべた事は久しい、と。
「あ、ああ!そうだな!行こう!」
村の人々は二人が見えなくなるまで笑顔で手を振っていた。
二人は穏やかな風が吹く街道を目指し村を後にした。
旅の再開には申し分ない程に澄み切った空に流れる雲。
二人の足取りは軽く。
シェラフィータは、足取りと共に弾む気持ちを抑えられなかった。
有難う御座いました。
次の更新は何時になるやら……
頑張ります。




