舞台の左右に絡まった主役の荷物
背負ったそれは、ひどく重いものだった。それ以上感覚できることはなかった。重さだけだった。したがって、実際は何も背負っていなかったのかも知れない。ただAの神経系が何を思ったのか、重さを直覚していただけなのかも知れなかった。
Aは古い自転車を漕いでいた。ブレーキの効きが悪かった。Aは一昨日靴屋に預けた、茶黒い革靴を引き取りに行こうというのだ。
右に曲がった。
すると、正面から何人かの園児がこちらに向かって走ってきた。このコンクリイトに覆われた都会で、園児たちは虫取り網と虫かごを引っ提げていた。何が採れるというのだろうか。蟻さえいるのかも疑わしかった。
右に曲がった。
今度は小学生たちが、退屈そうに背中を向けて歩いていた。夕陽が彼等の背中を焦がそうとしていた。Aは彼等を追い抜いた。
左に曲がった。
背中が痛くなるほどの重みだった。後ろから微かに声が聞こえた気がしたが、言葉としては聞き取れなかった。
右に曲がった。
真っ赤な自動車がこちらに来ているところだった。
ブレーキの効きが悪かった。