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コンタクト2-1 純粋に妖精を信じるもの

ピピピピッピピピッ

決められた時刻に携帯のアラームが鳴り始める。暖かい羽毛布団で体を覆っていた積吉は無意識に腕をグイッと伸ばして、携帯のアラームを止める。積吉はそのまま腕を布団の中に引っ込めようとした瞬間、

「おっきろーー!」

声と共に何かが積吉の身体の上に重く伸し掛かる。

(・・・なんか重い)

違和感を感じた積吉は重く閉ざされている瞼を静かに開くと、幼い少女が乗っていた。


彼女の名は樋坂由井≪ヒサカユイ≫積吉の実の妹で子猫のような愛らしい黒の瞳が特徴的な小学4年生。この5年間、積吉と二人で生活してきたため兄積吉を深く慕う。家事全般は積吉が担当し、料理は交代で行っている。性格はとても明るく純粋で少々ブラコンである。彼女の起こし方は積吉にとって日常茶飯事である。

積吉はいつものように起き上がり不満な顔で溜め息をついた。

「なあ、由井。いつも言っているんだが、その起こし方どうにかできないのか?これを読んでる読者から『これもしかして官能小説じゃね』て思われるから、やめろ!!」

「ハァイ!」

元気な声で積吉の身体から降りてリビングに向かう由井。そんな由井の背中を見た積吉は呆れてまた溜め息をした。


積吉はベッドから降りてハンガーに掛けてあった制服を手に取る。制服に着替えた積吉は鞄を持って食卓へ向かった。暖かい味噌汁の香りと焼きたての食パンの匂いを嗅ぎながら由井と向い会うように腰を下ろした。積吉が箸を取ろうとした瞬間、ふと思った。

(・・あれ、俺ら二人暮らしなんだよな?なんで三人分なんだ?)

テーブルにはお茶碗と箸が寂しくポツンと置かれてた。

 妹と二人で生活しているから、どう考えても二人分になる。ましては、父親が何の連絡もなしに勝手に帰ってくるのもとてもありえない。

昨日の出来事、そしてトリスの存在が積吉の頭の中を過ぎった。

考えれば考えるほど昨日の出来事が鮮明に頭の中に想い浮かんでしまう。

(まさかな・・・)

「・・・誰かお友達が泊まっているのか?」

「うん今、妖精さんが家に遊びに来てるんだよ」

由井は笑顔で正直に答えた。

由井の一言に積吉は激しく動揺する。


 由井は純粋で正直な性格だから平気で嘘をつくようなそんな汚れた娘じゃない。でも正直、嘘であってほしい。

 これは彼女の考えた遊びであってほしい。そしたら、昨日の出来事が夢だったと証明できる。

そんな積吉の願いとは裏腹にドアがガチャっと開き、トリスが入ってきた。

「おはようトリスお姉ちゃん!」

トリスに気づいた由井は明るい笑顔で手を振り挨拶する。

トリスも由井の挨拶に気付き笑顔で返す。

 二人のやり取りはとても不思議な光景だった。

 なぜ由井はトリスが見えるのか。

 なぜこうも簡単に打ち解けてるのか。

 いろんな言葉が頭に浮かぶが、真っ先に彼女に言いたいのはただ一つ。

「何でいるの?」

「そりゃあ、あんたと契約したからに決まってるでしょ」

トリスはきっぱりと答えた。

 せめてこの契約の紋章だけでも夢であってほしい・・・。トリスはともかくこの紋章さえなければまだ夢だと否定できる。

普段は神頼みをしない積吉だが、この時だけは心の中で強く祈った。だが現実はそれほど甘くはなかった。契約の紋章は左手にくっきりと印されていた。

「あれは夢じゃなかったのかよ!」

積吉の言葉にトリスはコクリと頷く。

妖精の存在というありえない現実から目を背けることができない。逃げることはできない。そう感じた積吉は深く溜め息をした。

「んで、契約者でもないうちの妹が何でおまえが見えるんだ?一応、幽霊なんだろ?」

「確かに妖精は契約者にしか見えないけど、見えるのは契約者だけではないわ。契約者以外で妖精と接触コンタクトできる人間は二通りある。まず霊感が強い者、純粋に妖精を信じる心を持つ者。あんたの妹は後者に当てはまるわね」

トリスの説明を聞いて積吉は納得する。

由井はタイミングを見計らい天使のような眼差しで何かを訴えるかのように積吉を見据える。

「ねえお願い。トリス姉ちゃんを家に入れようよ!ねえいいでしょ!」

まるで捨てられたかわいい子犬を家に入れたがる子供のように由井は駄々をこねた。

「お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願い」

 可愛い顔で必死に頼まれると「ダメだ!」の一言がとても言えない。断ったら由井はきっと傷付くだろう。それに、トリスと契約した以上彼女から離れることは不可能だ。

「分かった分かった。分かったから静かにしろ!」

由井の懇願に積吉は観念してトリスを家に引き取ることにした。積吉の返事に由井とトリスは無邪気に喜んだ。


いつものようにマンションのエレベーターに降りた積吉はいつものように駐輪場へ行くと、マンションの管理人が駐輪場を掃除していた。

「おはよう。おばちゃん」

「あら、つよっちゃんおはよう。今日は少し早いのね」

「ああ」

当然、積吉の頭に乗るトリスの姿は管理人には見えていない。

「あ、そうそう今日からつよっちゃんの隣に新しい住人が入ることになったから帰ったらちゃんとごあいさつしとくのよ!」

「分かった」

そう言って積吉は自転車に跨り(またがり)、マンションを出る。

積吉は自転車を漕ぎながら低い声で自転車のかごに乗るトリスに話しかける。

「お、おい、お前マジで学校に来るのかよ?」

「当たり前じゃない!それに何かおもしろそうじゃない。あんたの学校・・

 後ろに振り向きニコッと積吉に微笑むトリスを見てなぜか底知れぬ恐怖を感じた。・・・・ああ、この女絶対何かやらかす気だな。

トリスの真意を察した積吉は本当に問題を起こさないように釘を刺した。

「頼むからマジでトラブル起こすなよ!起こしたらぶっ飛ばすから!」

問題を起こさないように釘を刺す積吉をトリスは嘲笑する。

「フフフ、冗談よ冗談よ!あたしがそんなことするわけないでしょ。ま、トラブルはトラブルでもこっちのToLOVEるならやるわよ」

「そっちのToLOVEるもダメだから!色々な意味で!」

トリスとそんなやり取りをしてる中、後ろから積吉を呼ぶ声が聞こえ積吉は声がする方へ顔を向けると、武志が自転車を漕いでこっちに来ていた。

「積吉!!」

「武志!」

軽く息を切らした状態で積吉に近づく武志を見て積吉は様子を伺う。

「大丈夫かよ?そんなに息切らして」

「ハアハア、大丈夫だ。闇の力を少し使いすぎただけだ」

積吉の心配を余所に武志は中二病という残念なスキルを発動する。

その威力はカゴの中からこっそりと様子を見ていたトリスでさえもドン引きをするほどの破壊力と場の空気を壊す危険なスキル。

そんな残念なスキルを持つ彼を見て彼女は思った。

 なんで、積吉はこんな痛い奴と友達になったのかしら?顔立ちはすごくいいのに何で性格はこんなに残念なんだろう?もしあたしが人間だったら絶対付き合いたくないな・・・。彼があたしの姿を見えてないのが唯一の救いだ。

トリスは再びカゴの中に入ろうとしたその時、

「お、ナニコレ?新しいフィギュアか?」

『!?』

トリスの姿が武志にも見える事に二人は驚愕した。

武志はトリスの存在に気付き、カゴの中からそっと手をさし伸ばし翼を掴もうとするが寸前でトリスは緊急回避して、すぐさま積吉の首元に隠れる。積吉は武志に気付かないように低い声でトリスに話しかける。

「おい・・・いったい何がどうなってるんだ?何であいつもお前の姿が見えるんだ?」

トリスは積吉の耳元に近づき低い声で答える。

「もしかしたら、彼も由井と同じように純粋に妖精を信じてるんじゃないかしら。だって彼、中二病なんでしょ?」

「それはそうだけど、中二病と一体どう関係してくるんだ?」

「そんなの簡単じゃない。中二病にありがちな妄想が大きくなって最終的に彼の頭の中は二次元=現実

だと思い込んでるのよ」

「つまり、武志の強い妄想で妖精が見えるようになったってことなのか?」

「ええ」

小さく頷くトリスを見た積吉は皮肉交じりに「最高です」とボソッと呟いた。

何も知らない武志は積吉に近づく。

「話はもう終わったか?」

武志の質問に小さく頷くと同時にある決心をする。

(こいつにはすべて話した方がいいかもな)

「全て話すよ。何もかも。これから話すことはすべて事実だから・・・」

積吉は親友である武志に自分の周りに起きた出来事を全て話した――――。


 自分が交通事故に遭ったこと、そしてトリスとの契約、強盗事件―――。

自転車を動かしながら赤裸々に事実を語る積吉に武志は嫌な顔一つもせずに真剣な表情で聞き取る。

学校の駐輪場まで来た時には話は終わっていた。

話をすべて聞き終えた武志は中二発言を交えながら話を復唱した。

「なるほど、つまりこういうことか。パンを咥えて自転車で走行してたら、曲がり角でトラックとぶつかって瀕死の重傷を負っている所を聖天使アルテミスの使いであるトリスに命を救われたてそれから―――」

「もういいわ!!!」

武志の話に積吉は横から割り込んだ。

「俺の話聞いてた?パンを咥えて曲がり角でぶつかるって、どこのラブコメだよ!!トラックとトリスしかあってねえーよ!」

「そういう物語だろこれ?」

「ちげえよ!」

いつものように仲よく教室に向かう二人。

トリスはそんな二人の後をついて行こうとした瞬間、何かに気付いたトリスはサッと後ろを振り向き辺りを見渡すが何もない。

トリスは口の先端鋭く尖らせ笑みを浮かばせる。

「カルマ・・・いや違う、これは妖精?フフッなんだかおもしろそうな予感がするわ」


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