コンタクト1-2 最初の仕事
一日が終わり、教室の眩しい陽射しが射す席で積吉は帰る準備をしていた。廊下で親友を待たしていた積吉は急いで教材を全部鞄の中に入れて、急ぐように足早で教室を出た。
廊下の窓際で積吉を待つ彼の名は元村武志
積吉とは幼稚園の頃からの幼馴染であり親友である。成績と運動神経は積吉より少し上である(特に文学系科目は学年一位である)容姿はイケメンで誰に対しても分け隔てなく優しく接することからクラスの女子にかなりの人気をもつ。無類のゲーム好きでゲームの腕前は1コインでアーケードゲームをほぼEDまで行くほどの実力を持つプロである。少々中二病にかかっているのが玉にキズだ。過去に二回ぐらい彼女と付き合った経験があるが厨二病が原因で両方共に振られた経験を持つ。
積吉は廊下の窓際から橙色に染まる美しい夕陽を眺める武志に声を掛けた。
「武志行こうぜ」
「ああ」
合流した二人は仲良く会話をしながら階段を降りた。玄関に近づくと積吉は靴を履き替える少女に目が止まった。
肩まで伸びたロングストレートの黒髪をした少女の名前は田辺美代。
積吉と同じクラスの同級生で成績優秀で真面目で優しくてクラスの男子に密かに人気な美少女である。積吉はそんな彼女に想いを寄せていた。彼女に声を掛けようとするが、緊張のあまり言葉を失くし、ただ茫然と立ち尽くすのが当たり前となっていた。そうしていくうちに彼女は去っていった。
「・・・吉・・・積吉・・」
「!?」
武志の呼びかけでぼんやりとしていた積吉に正気を戻った。
「大丈夫か?お前?」
「えっ、ああ大丈夫!」
二人はいつものように駐輪場に向かい施錠していた自転車の鍵を外して自転車に跨り、学校を出た。
二人は並列して迷路のように複雑で入り組んだ閑静な住宅街を通ると武志は自転車を漕ぎながらチラッと積吉の左手を見て軽い気持ちで尋ねた。
「なあ積吉、今日の朝からずっと気になってたんだけどその左手の落書きは何だ?」
武志の質問に積吉も自転車を漕ぎながらチラッと左手を見た。
「・・・何だこれ?」
初めて見る落書きなのに積吉はとても見慣れた顔で落書きを見つめた。
知ってるけど、描いた覚えも見た覚えもない。デジャヴなのか?
デジャヴとはまた違う不思議な気分だ。
左手の落書きを真剣に見つめる積吉を見た武志は雰囲気を上げようと積吉の落書きを見て厨二 的な発言をした。
「もしかして、これは魔王ザルテクスの契約の紋章。お前、いつ契約を交わしたんだ。やっべぇ、その紋章あるってことは人間界とは別の世界、『魔界』に行き来できんじゃん。『魔界』には・・・・・」
変な落書きを見て熱く語る武志に積吉はちょっと引いた表情で武志を見た。
「ああ・・・うん・・すごいね」
親友が引いていることに気づいた武志は口を動かすのを止めた。雰囲気を盛り上げるつもりが逆に気まずい雰囲気を起こしたことに武志は小さな声でボソッと積吉に場の空気を壊したことを謝罪した。
「・・・・ゴメン」
「 そ、そうだ。俺ちょっとスーパーに用があるからここで別れよう!」
積吉は気まずい空間から逃げるため近くのスーパーで武志と別れた。
積吉はスーパーの男子トイレに入ると鍵をかけ、鞄を入口の端に置き、制服の腕をまくり上げ、洗面台の水を勢いよく流して石鹸で左手の落書きのところを集中的に洗った。積吉は蛇口を止めて視線を左手の方へ向けた。落書きは落ちずそれどころか左手は綺麗になっていた。
積吉は洗面台に溜まった水面に映る自分の顔を見つめていた。蛇口から一滴のしずくがポタリと落ちて水面に波紋を起こし表面に映る自分の顔が崩れた瞬間、積吉は右肩に妙な違和感を感じた。
積吉はゆっくりと顔を上げて静かに鏡に覗きこんだ。
だが、そこには何も映っていなかった。右肩の妙な違和感に積吉は唾液をごくりと飲み恐る恐る視線を右肩の方へ向けた。
積吉の右肩に乗る手のひらサイズの小柄な低身長、背中に生えた4枚の薄く透明な翼、スレンダーな体形、ウェーブのかかったオレンジ色の短髪をした謎の少女トリスだった。
トリスは居心地がよくなかったのか落ちないように慎重に立ち上がり積吉の右肩から洗面台へ大きくジャンプして洗面台の蛇口の隣に着地した。
トリスは背中を鏡の方へ向き、藍色の澄んだ瞳で積吉を見つめた。
トリスのまっすぐで純粋な眼差しは積吉の瞳の奥に眠るあの時の事故の記憶を呼び起こした。
「お前・・。あの時の!?」
積吉はキョトンとした顔でトリスを見た。すると、トリスは口で小さな三日月を作り積吉が思ったことを答えた。
「何でここにいるのかって顔ね。樋坂積吉」
「!?」
驚きのあまり言葉を失った。
あの時、名前を名乗っていないのになぜ知っているんだ?
なぜ俺が考えていることがわかったんだ?
積吉はこの二つの謎に底知れない恐怖と不安を感じた。積吉の額から汗が染み出ていた。
積吉を見てまだ状況を理解してないと思ったトリスは小さな口を静かに開き、ゆっくりと説明した。
「あなたとあたしは《契約》したの。あなたの左手に描かれた紋章はあたしと《契約》を交わした証だから消すことが不可能なの。契約の紋章を持った者の心の中と個人情報が契約を交わした妖精にそのまま伝わることになっている」
そこそこ状況を理解した積吉は復唱するかのように呟く。
「・・・・心の中と個人情報が妖精に伝わる・・・・ってことは、俺の恥ずかしい秘密や考えていることが全てお見通しことかよ!」
「ええ、そんな感じね。例えば、同じクラスの田辺美代のことが好きだったり、小学校3年生の時好きな子にキザな台詞で口説いて振られたことや中学2年の時トイレに間に合わずそのままトイレの前でウ●コ漏らしたり、あとーーー」
「もうやめてええええええええええ!!!!!!!」
秘密を暴露し続けるトリスに積吉は耳を塞ぎながら大声で言葉を遮った。
誰も知らない自分の恥ずかしい秘密を妖精であるトリスに知られたことに積吉の顔は赤面になった。積吉は真っ赤な顔を両手で隠す傍ら指と指の間からチラッとトリスの様子を窺った。積吉の瞳に映ったのは、生き生きとした表情で弱者である自分を虐めるのをトリスは楽しんでいた。
(妖精と言うより悪魔だろこれ!)
と思わず口からこぼれそうになったが、空気と一緒に飲み込んだ。
充分楽しんだトリスは腰につけている小さなポーチを漁る。すると、某猫型ロボットを彷彿させる口調でポーチに入りきれない分厚い辞書を取り出した。
「《契約》についての説明書(ドラ〇もん口調)」
「ドラ〇もんか!!!つーか、何で分厚い本が小さなポーチがはいれるんだよ!」
トリスのボケに積吉はつい反射的に突っ込んだ。トリスはドラ〇もん口調のままさらにボケを続けた。
「何を言っているんだい?の太君。これはね、ジ〇イアンとス〇夫を殺す方法が数万通りも書かれているんだよ!まあ、最後の手段として、この本の角で撲殺という手もあるけど(ドラ〇もん口調)」
「誰がの〇太だ!!ってか、小学生になに恐ろしいことをさせようとしてんだよ!しかも本の使い方間違ってるし!」
彼女のボケをテンポよくツッコむ積吉。トリスはドラ●もん口調でボケた後、軽く咳をして気分を変えた。重く閉ざされた分厚い本を静かに開けた瞬間強い頭痛が積吉を襲い、頭を抱え地面に跪いた。強い頭痛と共に頭の中から映像が流れた。
ーーー我々妖精は人間界に存在するある資源を求めてここにやって来た。その資源とは人間達が経験する不幸、災いそれらから起きるマイナスエネルギー《業》である。我々はその《業》を回収しながら生活している。
しかし、我々だけで《業》を回収するのは非常に困難である。
何故なら、我々の存在は幽霊と同等であるため、人間に触れることはもちろん視聴することが出来ない。
そこで我々は人間の力を借りるため、人間と《契約》を交わした。《契約》を交わした人間は《 契約者 》となり、我々妖精は《契約者》と共に行動する《パートナー》となる。
契約の証として《契約者》の身体に契約の紋章が印される。
紋章が印される部分はそれぞれ異なっている。
契約の紋章を印すことで、パートナーは紋章を通して《契約者》の個人情報を読み取ることができる。(逆に《契約者》はパートナーの個人情報を読み取ることはできない)
契約条件はお互いの欲望をお互いで一つだけ叶えること。
契約期間中は以下のルールを守らなきゃならない。
・多重契約するべからず・・・契約しているパートナーとは別に他の妖精と契約を交わしてしまうと契約者の精神に支障を及ぼしてしまう。(ただし、強い精神力を持つ者やお互いの任意で一時的に別のパートナー又は契約者と契約できる特殊な臨時契約は除く)
・パートナーから半径15km圏内いないといけない・・・妖精本来の仕事である《業》の回収はいつでも起きていいように常に一緒に行動せねばならない。(トイレや入浴時間は除く)離れすぎたら、ペナルティとして契約者の願いが無効になる(あくまでもペナルティなので解約ではない)
頭の中に流れる声は静かに消え、強い頭痛はゆっくりと治まった。積吉は洗面台にゆっくりと左手を置き、大きく膝を伸ばし立ち上がると膝についた埃両手でパンパンと軽く払った。埃を落とした積吉はトリスへ視線を戻した。
トリスは分厚い辞書を開いて、細く滑らかな曲線の脚に乗せて読んでいた。意識が戻り、こちらを見つめる積吉の視線を感じたトリスは静かに顔を上げて、重く開いた分厚い辞書を閉じた。
トリスは大きく背伸びして背中の細く長い翼を伸ばした。翼を小刻みに羽ばたき積吉の顔まで近付いた。
「どうやら説明は終わった様ね?」
「説明?あの変なものか?」
「ええ。まあ、そういうわけだから頑張りましょう」
「いや、いいです」
トリスは右手を積吉に差し出すが、積吉はとても嫌な顔でトリスとの握手を拒んだ。
「えッなんで?どうして?」
トリスは契約を拒絶されたことに驚くと同時に何故積吉が契約を拒むのか理由を求めた。
「いや、どうせプ〇キュアとか魔法少女に変身して悪の組織を滅ぼすみたいな感じの展開だろ。まず一言言わせてもらえば、男を選んでる時点で既におかしい。ふつう魔法少女は中学生から小学生までの少女が選ばれるのに、高校生でそれも男性ってキャスティングがもうグダグダなんだよ」
まるで新人作家の作った原稿をダメだしする担当みたいにうるさく語る積吉にトリスは突っ込んだ。
「しつけえよそのネタ!!大体、魔法少女に変身して悪の組織とか悪の存在と戦う物語じゃないからコレ!!!!」
積吉の理由にイラっとしたトリスは強く握りしめていた拳を開き、目をゆっくりと瞑り深く深呼吸をして心を落ち着かせた。
「言っとくけど、あんたに拒否権はないわ。あたしから離れたら、あんたの願いである『強く生きる』が無効になる。つまり、あんたは死ぬことになる。ま、嫌なら嫌で別にあたしにはどうでもいいことだし」
「嘘だ!俺は信じないぞ!こんなの夢に決まっている!」
積吉は深く目を瞑り両手で柔らかい頬を強く捻った。強く捻れば捻るほど頬の痛みが強くなっていく。頬は痛みと共に赤く腫れ上がった。
(夢じゃない!?・・・)
信じられない事実に積吉は強く捻っていた両手を静かに離した。積吉はふと目を大きく見開き、頭の中であることを思い浮かんだ。
もしかして、俺は《厨二病》に罹ってしまったのか!いつから病んでたんだ?
自分も厨二病に罹っていることを促した積吉は大きな不快感を感じた。積吉はトリスの方を向きこれは幻だと自分に強く自己暗示をかけて瞼を閉じた。30秒が経ってもトリスは消えなかった。
激しく動揺する積吉はトリスから逃げるようにトイレの外に出た。
トイレから出ると店内は異様な静けさに包まれていた。
・・・何かがおかしい。
一歩前に進もうとした時、後ろから黒のマスクを被った男がアサルトライフルを手に積吉の後頭部を突き付けた。
「手を挙げろ!!!」
積吉は男の指示に従い両腕を高く上げて、男と一緒に店内の中心へ連れて行かれた。
店内の中心には人質である従業員と買い物に来た一般客がおしくらまんじゅうのように一ヶ所にかたまり、両腕で後頭部を支えた状態で腰を低く落としていた。積吉の後ろに立つ男の他にも2人の男たちが同じ黒のマスクを被り、その回りを綺麗に取り囲んでいた。
どう考えてもこれは強盗だ。しかし、なぜ銀行ではなくただのスーパーなのか?
積吉はキョトンとした顔で首を傾けた。
男は銃口で積吉の背中を軽く押して腰を低く落とすよう強要した。
回りを取り囲う黒マスクの男達の中に一人だけ可愛いウサギのマスクを被った男が一際目立っていた。ウサギマスクの男は彼ら黒マスクのリーダーである。
ウサギマスクの男はとても可愛いウサギとは思わない濁った声で黒マスクの男たちを的確に指示する。
ウサギマスクの男は閉めきったブラインドを人差し指で小さな穴を作り、外を覗き込んだ。
外には橙色に溶け込んだ駐車場に7台のパトカーが店を包囲していた。
警官の一人がメガホンを手に取り、犯人の説得を試みた。
「君たちは既に包囲している。銃を捨ておとなしく投降しなさい!」
30人以上の警察官が銃を構えて警戒していた。
「うるせえ!!一歩でも近づくと人質の命はねえぞ!!」
興奮した黒マスクの一人が窓を破り、威嚇射撃でメガホンを持った警官を黙らした。
「兄貴、どうしましょう?」
「逃走用の車を今すぐに持ってくるように要求しろ!急げ!」
「は、はい」
ウサギマスクは濁った声で近くにいた仲間に命令する。
近くにいた仲間は警察官全員に聞こえるくらいの大きな声で逃走用の車を要求した。
「逃走用の車を今すぐ持って来い!さもないと人質を一人ずつ殺すからな!」
「分かった。条件として車と人質を交換だ!」
よくある刑事ドラマのようなやり取りをしている中、静かに肩をトントンとたたかれた積吉は犯人に見つからないようにゆっくりと後ろへ振り返るとトリスが小さな羽で羽ばたいていた。
トリスは幽霊と同じ存在であるため、契約者である積吉以外の人間はトリスの存在に気づいていない。
積吉は周りに気づかれないように低く声を潜めた。
「何しに来たんだよ」
「当然仕事よ!上を見なさい。業≪カルマ≫が発生しているわ」
言われるがままに積吉は天井を見上げた。そこには禍々しい黒い雲が天井一帯を覆い尽くしてた。
「あれが業≪カルマ≫!?」
「ええ。これが見えるのはあたし達だけよ」
「どうすればいいんだ?」
「災いの元となるものを止めればいいだけよ。積吉があそこの強盗を懲らしめて退治する。んで、あたしはカルマを回収するだけ簡単でしょ」
トリスは積吉の耳元に近寄り、小さな指で耳を引っ張り低く小さな声を大きな風穴に吹き込んだ。
積吉は犯人に気づかれないようにボソッと声を潜めた。
「どこが簡単だよ。俺だけ難易度高ェんだけど」
「何事にも成せば成るわよ」
親指を立てるトリスに積吉は(この野郎・・・)と怒りを感じた。
その時だった。「母親と一緒に買い物に来た同じ人質の一人である幼い少女が、恐怖に耐えきれず泣き出してしまう。傍にいた母親は娘を強く抱きしめた。
「静かにしろ!死にたいのかてめえは!」
少女の泣き声に黒マスクの一人が逆上し、母子に銃を突き付けた。母子の姿を見た積吉の脳裏に母・美鶴の死がフラッシュバックする。
あの少女に俺と同じ辛い目に遭わせたくない・・・そんな強い思いに積吉はおもむろに立ち上がり母子の前に立ちふさがる。
「やめろおおおおお!!!」
しかし、黒マスクは何の躊躇いもなく引き金を引く。そして、一発の銃弾は積吉の頭に直撃した。彼の周囲にいた人質、外で待機していた警察官全員が思わない事態に息を呑んだ。
薬莢はウサギマスクの足元に転がり、銃口と積吉の頭から出た煙は静かに昇天していく。
積吉の意識は天井を見上げている身体からゆっくりと離れていく。
ああ、これが死ってやつなのか…。どうせ死ぬなら、田辺さんに告ればよかった。自分が死んだら周りの皆どうなるんだろう。誰が妹の世話をするんだろう。
積吉の頭の中は後悔と不安で一杯だった。。
離れゆく自分の身体を見て積吉はふとあることに気づいた。
(おかしい…。いくら待っても、全然身体が倒れない)
普通は頭を撃たれたら大量の血が噴き出して倒れて即死なのに、倒れるどころか大量の血が噴き出していない。
(意識も身体からから離れているのにどうなっているんだ)
すると、積吉の身体は静かに動き天井を見上げていた顔を下した。そして、口の中に入っている異物を地面に向かって吐きだした。
吐き出されたのはさっきの銃弾を見てウサギマスクは驚愕した。
「!?ちゃんと命中したのにどうなっているんだ?」
積吉の身体は髪をかきながら女性口調で喋った。
「危ないわね!!あんた何考えてんのよ?歯が欠けちゃったじゃない!」
それは紛れもなくトリスだった。
トリスは幽霊と同じ存在であるため、憑依などの特殊能力が使える。
積吉が撃たれる直前に積吉の魂を無理やり幽体離脱させ、空っぽになった肉体に憑依し、驚異の反射神経で銃弾を口でキャッチするという神業で大事にならずに済んだ。
「この化け物め!」
ウサギマスクは仲間と共に積吉に一斉に射撃した。しかし、積吉に憑依したトリスは片手で傷を負わない様に銃弾をすべてキャッチする。握っていた掌をゆっくりと開きすべてキャッチした銃弾を静かに床へと落としていく。トリスはニコッと微笑んだ。
「次はあたしの番よ」
トリスは疾風の如く黒マスクの一人に近付き、強烈な回し蹴りで浴びせる。回し蹴りを喰らった黒マスクの一人は白目をむいたままゆっくりと倒れた。傍にいた仲間の一人が銃を捨て、拳を握りトリスに殴りかかるが、トリスはそれを紙一重でかわし細見の腕で相手の腹部に強力なボディブロウを決める。
次々と倒れる仲間の姿を見て腰を抜かすウサギマスクのそばにいた。一歩また一歩とトリスは笑顔でポキポキと指の関節を鳴らしてじわりと近付く。
「歯ぁくいしばれええええええええええええ」
「ひいいいいいいいいいいいいいい」
重たい拳がウサギマスクの顔面に当たり、その衝撃でウサギマスクは窓ガラスを突き破り外へと吹き飛んだ。
ウサギマスクを殴り飛ばした後トリスはヒョイと積吉の身体から離れると、積吉の魂は静かに自分の体に入った。
「犯人確保!」
警察官数人で気を失ったウサギマスクを取り押さえた。
警察官と一緒にいた機動隊はすぐさま店内に押し寄せた。機動隊は仲間である黒マスク二人を取り押さえ、事態は収束していった。
事件が無事に終わり、積吉は自転車を押しながら一人寂しく住宅街を通っていた。陽は沈み、辺り一面は薄暗い闇へと変わっていた。ポツンと点く街灯に積吉は止まり深く溜め息をする。
「ハア・・・なんか、凄い一日だったな。事故に遭うわ、妖精に会うわ、強盗に会うわ・・・最悪な一日じゃん」
トリスは積吉の左肩からヒョイと顔を出す。
「まあそのおかげで、業≪カルマ≫を回収できたんだからいいじゃん!」
トリスは蒼い液体が入った大きな瓶を両腕で抱えていた。
「仕事片付いたんだろ!そろそろ妖精界に帰れよ!」
「はあ、何言ってんの?仕事はまだまだこれからよ。左手の紋章を見なさい」
積吉はトリスから自分の左手の方へ視線を動かした。黒く描かれた紋章の下端に赤い点のようなものが塗られてた。
「!?なんだこりゃ!」
「業≪カルマ≫を集めると契約の紋章は赤くなり、最終的に紋章は真っ赤に染まって契約から解放される」
「何その怖い設定は!!ってか、こんな危ない事をあと何十回、何百回やらないといけないわけ?」
積吉の問いかけにトリスはゆっくりと頷く。
この時積吉はトリスと契約を交わしたことを深く後悔した。
積吉は煌めく夜空の方へ見上げ、すう~っと息を大きく吸い込み、吸い込んだ分の息を吐き出すと同時に大声で叫んだ。
「なんだそりゃああああああああああああああああああ」
悲痛な叫びともに夜は更けていく。




