隣の女
俺は、黒六白の黒豚だ。
黒い体に、手足の先と鼻先、それにくるっと上に丸まった尻尾の先が、白い毛で覆われている。
だから、黒六白。マニアは、俺たちをバークシャーと呼ぶが。
赤みを帯びたきめ細やかな肉質に、甘い風味の脂肪が絡む。
だから、俺たちの肉は美味い。共喰いになるから、俺は食わないが。
今日も俺は、小さな盆地の片隅にある養豚場近くの低貸しパチ屋で、いつものパチスロを打っていた。
やはり、悪はスロット。俺は煙草を横っ咥えにしながら、二つに割れる蹄の指先にコインをはさみ、スロの投入口にコインを三枚投入する。そしておもむろに、黒いスタートレバーの丸い頭を弾く。
( チャリ、リッ… 、ガコッ、ブーン…)
台枠の窓から覗くスロットの三本のリールが、僅かに小さく上下にぶれて跳ねる。そしてスッと、回転を始める。
〖 ファン〇ー ジャ〇ラー 〗
やっぱり、悪が打つのはジャ〇ラーだ。しかも真っ赤な、赤いG△G△ランプのイカレタ色が、グサッと! 脳みそに突き刺さるファン〇ー、さ!!
俺の周りでも、目つきの悪い不良の年寄りたちが、千円札をじゃぶじゃぶと、コインサンドに突っ込んでいる。
『 ガコッ!』
レバーを押し下げた瞬間、鮮やかな赤色に染まったG△G△ランプの文字が点灯する。
「先ぺカか …」
右リールの上段に、数字の7の赤い残像を狙って、右のストップボタンを右手の人差し指の先で押す。
( ズルッ … 。)
赤い数字の7が、上段に止まらずに、上から滑ってきて下段に止まる。
「ビック、か …」俺は、そう呟く。
そして、左のリールの上段に7を止めると、中リールの中段に回転する赤い7の残像を狙い、真中のストップボタンを押す。
スロットの窓枠の中に赤い7の数字が揃うと、軽快なビッグゲームの軽やかな音楽が鳴り響く。筐体に散りばめられるカラフルな色彩のランプが、台が奏でる音楽に合わせ点滅を繰り返し、台は色鮮やかな七色のレインボーに輝く。
俺はベットボタンを押すと、レバーを叩き、右のリールのストップボタンを押す。そして中リール、左リールと、順にボタンを押しゲームを消化してゆく。
( ジャラ、ジャラ、ジャラッ … )
筐体の下皿に、ボタンを押し終えるたびに銀色のコインが吐き出されていく。
( うーん … )
ビッグゲームを消化し終え、俺は天井に向かって腕を広げ、大きく伸びをする。
白い煙草の箱から一本咥え抜くと、銀のジッポーを擦る。
( カチッ、ジッ シュボッ … )
「ふーっ、…」
「コーヒーでも飲むか … 」
そう呟きながら、台の上の棚から休憩中であることを告げる札を取り、台のスタートレバーに引っ掛けた。
台のベットボタンを押すと、レバーを叩きリールを回転させる。
そしてスロットのリールをから回しにしたまま、俺は休憩コーナーへと、ブラックの缶コーヒーを買いに向かった。
◇◆◇◆◇…
俺の隣の台では、むちむちした身体つきをした、色白の|大ヨークシャー《 Large White 》の若い女がずっと、やはりジャ〇ラーを打っていた。
俺は、再びコインを三枚、コインの投入口に滑り込ませる。そしてレバーの黒い頭を押し下げ、右手の蹄の人差し指の先で、また黙々とストップボタンを押し続ける。
「ん。…? 」
隣に座る女は、俺の穿いている白いスラックスの、俺の足元をちらちらと、チラ見してくる。そして時々、目を透かすようにして俺の横顔を窺っている。
「ん。… 」
視線に気づいて、俺がその女に顔を向けると、女は、慌てて俺から顔を自分のスロットに向け、背ける。
俺は横目で、その女を注視する。自分のスロにコインを投入しながら。
すると、女はまた、俺の足元に向け視線を泳がせる。
「 ? 」
女の顔は、心なし … いや、頬も赤く、かなり上気している様に見える。
それからも女は、俺をチラ見し続けている。
「やっぱり、できる豚はモテるぜ!」
俺は、一人でそう悦に入りながら、スロを打ち続ける。
「 … は? 」
(でも、何か、この人、興奮してねぇ… ゕ?)
俺はやっと、その女の、違和感に気づく。
「 ‼ 股間、か⁈ 」
俺は、自分の白いズボンの股間へと、視線を落とす。
「 へ ! 」
果たして、そこには、ズボンのチャックに挟まれ、飛び出した毛が一本。
白いズボンの色を背景に、黒く、その存在を誇示していた。
俺は、女の顔をまじまじと見つめる。
女は目を丸くして、やはり俺の顔を見つめ返している。上気し切った目つきで。
(気が付かれてしまったか … の、様な顔つきで)
「 … … … 」
しばらく無言で見つめ合った後、
俺は慌ててトイレへと向かった。
( おわり … )




