第4章 記憶の回収
「もう少し、ここにいたいね」
窓の外を見ながら、私はぽつりと呟いた。
東京湾が朝日に照らされて輝いている。昨日と同じ景色。でも、今日で見納めだ。
「…ああ」
リュウも窓の外を見た。
「でも、時間は待ってくれない」
「…そうですね」
もう正午近く。チェックアウトの時間だ。
荷物をまとめていると、リュウが言った。
「着ていけ」
「え?」
リュウはホテルの袋から、深紅のドレスとタキシードを取り出した。
「昨日買った服だ。今日も着ていこう」
「でも…これから遊園地なのに」
「いいじゃないか」
リュウは言った。
「せっかく買ったんだ。たくさん着ておけ」
私は少し躊躇した。
でも、リュウの言う通りだ。
昨日、自分で選んで、自分のお金で買った服。
貯金を全部使い切った。
たくさん着たい。
「…分かりました」
私はドレスを手に取った。
「じゃあ、着替えます」
バスルームで深紅のドレスに着替えた。
鏡に映る自分。
昨日と同じ、特別な自分。
リュウもタキシードに着替えていた。
「…似合ってる」
リュウが言った。
「ありがとうございます」
私の顔が少し熱くなった。
「リュウも、素敵です」
リュウは少し照れたように視線を逸らした。
「…行くぞ」
---
フロントでチェックアウトした。
深紅のドレスとタキシード姿の二人。
フロント係が一瞬、目を丸くした。
「…お客様、本日はありがとうございました」
でも、プロだ。すぐに笑顔に戻った。
「また、お越しくださいませ」
私たちは会釈して、ホテルを出た。
駐車場に向かう。
朝の日差しの中、ドレスが風になびく。
昨日の夜とは違う、昼間のドレス姿。
なんだか、特別な気分だった。
車に乗り込んだ。
「どこに行くんですか?」
「多摩地区だ」
リュウは言った。
「お前のリストにあっただろ。遊園地に行きたいって」
私は頷いた。
やりたいことリスト。
遊園地。
「…ありがとうございます」
「礼はいい」
リュウは車を発進させた。
都心から離れていく。高速道路を降りて、一般道へ。
「途中で昼食を取る」
「はい」
---
午後1時過ぎ、郊外のファミレスに入った。
明るい店内。家族連れで賑わっている。
入口で、店員が固まった。
深紅のドレスとタキシード姿の二人。
「…いらっしゃいませ」
店員は戸惑った顔で席に案内してくれた。
カウンター席に座ると、周囲の客が振り返った。
ママ友らしき女性たちが、小声でひそひそ話している。
子供が「お姫様だ!」と指差した。
母親が慌てて子供の手を下ろす。
「…すみません、浮いてますね」
私が小さく言うと、リュウは平然と答えた。
「気にするな」
「何にする?」
「ハンバーグ定食で」
リュウはサラダとスパゲッティを注文した。
店員が注文を取りながら、チラチラとこちらを見ている。
しばらくして、料理が運ばれてきた。
「…お待たせしました」
店員の声が少し上ずっている。
「いただきます」
久しぶりの「普通の」食事。
ハンバーグは、昨日のホテルの和牛ステーキとは比べ物にならない。
でも。
「…美味しい」
「そうか」
リュウもスパゲッティを食べている。
「昨日の料理もよかったけど…こういうのもいいですね」
「ああ」
リュウは小さく笑った。
「こういう普通の食事が、一番いいのかもな」
私も笑った。
そうだ。
昨日の贅沢も素晴らしかった。
でも、こういう普通の食事も、同じくらい幸せだ。
ドレス姿でファミレスにいる。
変だけど、それもいい。
私たちには、もう時間がないんだから。
---
午後3時半、多摩グリーンランドに到着した。
昭和レトロな看板。色褪せた装飾。
入口の前に車を停めた。
「…寂れてますね」
「ああ」
リュウは周囲を確認した。
「パトカーはいない。大丈夫だ」
入園料の看板を見ると、「大人1,500円」と書いてある。
「営業時間は19時までか」
リュウは時計を見た。
「今から入っても、3時間半しかない」
「でも…」
「待つぞ」
リュウは言った。
「18時まで車で待機する。閉園間際に入る」
「…なんでですか?」
「客が少ない方がいい。それに」
リュウは私を見た。
「閉園後も、少し残るつもりだ」
私は息を呑んだ。
「不法侵入…ですか」
「ああ」
リュウは頷いた。
「二人だけの遊園地を、楽しもう」
---
車内で待つこと2時間。
窓の外を見ると、客はまばらだ。閉園時間が近いからだろう。
「そろそろ行くぞ」
午後6時、私たちは車を降りた。
帽子とマスクで顔を隠す。
入口でチケットを買った。
「お二人様ですね。1,500円×2で、3,000円です」
スタッフは笑顔で対応してくれた。
「ありがとうございます。閉園は19時ですので、お気をつけください」
「はい、ありがとうございます」
ゲートをくぐると、そこは昭和の遊園地だった。
レトロな看板、古い遊具。
客は数組しかいない。
「…懐かしい」
私は呟いた。
こういう雰囲気、子供の頃に見た気がする。
「まず、あれだ」
リュウが指差したのは、「なつかし横丁」という看板だった。
駄菓子屋だ。
---
「いらっしゃい」
駄菓子屋の中は、昭和レトロな雰囲気だった。
べっこう飴、ラムネ、きなこ棒、うまい棒。
全部、懐かしいお菓子ばかり。
「…これ、子供の頃、買えなかったんだ」
私がべっこう飴を手に取ると、リュウが聞いた。
「…貧しかったのか?」
「ううん。お金はあった」
私は首を振った。
「でも、親が厳しくて…『お菓子は体に悪い』って」
「…そうか」
「地元の、小さな町でね。父は地元の公務員、母は専業主婦」
私は駄菓子を見つめた。
「『ちゃんとした娘』を期待されてた。でも、私、全然『ちゃんと』じゃなかった」
「…」
「成績も普通、友達も少ない。何も特別じゃない」
私は笑った。
「期待に応えられなくて、東京の大学に逃げるように出てきた」
「それから?」
「連絡が減って…今は、年に1回年賀状だけ」
私はリュウを見た。
「…親は、私の病気を知らないんです」
リュウは何も言わなかった。
ただ、静かに私を見つめていた。
「言えなかった。言ったら、心配かけるから」
「…そうか」
リュウはべっこう飴を手に取った。
「俺も似たようなもんだ」
「え?」
「医者の家系でな。遊ぶ時間なんてなかった」
リュウは駄菓子を見た。
「父は『お前も医者になれ』の一点張り。駄菓子屋?行ったことすらない」
「…じゃあ、今が初めて?」
「ああ」
リュウはべっこう飴を口に入れた。
「…悪くないな」
私は笑った。
初めて駄菓子を食べるリュウ。
なんだか、微笑ましかった。
「これも、これも買いましょう」
私はラムネやきなこ棒も選んだ。
レジで会計を済ませると、店員さんが笑顔で袋に入れてくれた。
「ありがとうございました。ごゆっくりどうぞ」
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駄菓子を食べながら、園内を歩いた。
ラムネの炭酸が喉に染みる。
「…美味しい」
「そうか」
リュウもきなこ棒を食べている。
「これ、初めて食べたけど…なんか懐かしい味だ」
「でしょ?」
私も笑った。
次に向かったのは、「レトロゲームランド」というゲームセンターだった。
クレーンゲーム、UFOキャッチャー、古いアーケードゲーム。
そして、プリクラ機。
「あれ、やりましょうよ」
私がクレーンゲームを指差すと、リュウは頷いた。
「やってみるか」
リュウが100円玉を入れて、レバーを操作する。
ゆっくりと、慎重に。
アームが下りて、ぬいぐるみを掴んだ。
そのまま持ち上げて——
ポトン。
取り口に落ちた。
「…取れた」
私は驚いた。
「すごい!一発で!」
「まあな」
リュウは少し得意げだった。
「さすが、元外科医ですね」
私が笑うと、リュウも小さく笑った。
「手先は器用だからな」
取れたのは、小さなクマのぬいぐるみ。
「これ、私がもらってもいいですか?」
「ああ」
リュウはぬいぐるみを渡してくれた。
私はそれを抱きしめた。
温かい。
---
「プリクラ、撮りましょうよ」
私がプリクラ機を指差すと、リュウは少し躊躇した。
「…指名手配犯が写真撮ってどうする」
「遺影にしましょうよ」
私は笑いながら言った。
「…馬鹿なこと言うな」
「本気だよ。…お願い」
リュウはしばらく考えて、頷いた。
「…分かった」
私たちはプリクラ機のブースに入った。
狭い空間。二人で並んで座る。
「じゃあ、撮りますよ」
画面の指示に従って、ポーズを取る。
「笑って」
私は笑顔でピースサイン。
リュウも、少しだけ笑った。
パシャ。
何枚か撮影した後、落書き画面になった。
「何か書きましょう」
私はペンを取った。
そして、画面に書き込んだ。
『#トーキョー・デッドエンド・ラン』
「…なんだ、それ」
「ハッシュタグ」
私は言った。
「私たちの逃避行、こういう名前にしようと思って」
「デッドエンド・ラン…」
リュウは呟いた。
「行き先はデッドエンド(行き止まり)。でも、走り続ける」
「…そうだな」
リュウは小さく頷いた。
「いい名前だ」
プリクラが出てきた。2枚。
1枚ずつ持つ。
私の手には、笑顔の私とリュウが映ったプリクラ。
こんな写真、初めて撮った。
「スマホで撮影しておきますね」
私はプリクラをスマホで撮影した。
これも、大切な記憶。
---
「本日の営業は終了しました。お帰りの際はお気をつけてお帰りください」
午後7時、閉園のアナウンスが流れた。
「トイレに隠れるぞ」
リュウが言った。
私たちは急いでトイレに向かった。
「こっちだ」
リュウが男子トイレへ手を引いた。
「え…でも」
「一緒の方が安全だ。何かあったらすぐに対応できる」
私は少し躊躇したけれど、頷いた。
「…分かりました」
男子トイレの個室。
狭い空間に、二人で入った。
ドアを閉めて、じっと待つ。
リュウが私の隣に立っている。
近い。
すごく、近い。
タキシード姿のリュウと、ドレス姿の私。
こんな状況、変すぎる。
「…私、男子トイレ初めて入りました」
私は小さく呟いた。
「こうなってるんですね」
「…今、そういう話するのか」
リュウが少し苦笑した。
「だって…緊張するから」
「そうか」
リュウも小さく笑った。
「でも、静かにしろ」
私は頷いた。
心臓がドキドキしている。
怖いからなのか、それとも——
しばらくして、スタッフの足音が聞こえた。
「…誰もいないですね」
「よし、戸締まりして帰ろう」
スタッフの声が近づいてくる。
トイレの中も確認しているようだ。
私は思わずリュウの腕を掴んだ。
リュウも、じっと動かない。
二人で息を潜めた。
足音が遠ざかっていく。
私はそっと息を吐いた。
リュウを見ると、リュウも私を見ていた。
暗闇の中、二人の目が合う。
「…大丈夫か」
リュウが小さく聞いた。
「…はい」
私は頷いた。
心臓がまだドキドキしている。
でも、怖くはなかった。
リュウがいてくれるから。
---
午後7時45分、完全に静かになった。
そっと個室から出て、トイレの外を確認する。
園内は真っ暗だった。
街灯だけが、ぼんやりと照らしている。
「…誰もいないな」
「はい」
私たちは園内を歩いた。
客も、スタッフもいない。
二人だけの遊園地。
星空が、美しかった。
「…綺麗」
「ああ」
リュウも空を見上げた。
都心では見られない、満天の星。
「メリーゴーラウンドに行くぞ」
リュウが言った。
「電源、入れられるんですか?」
「やってみる」
リュウはメリーゴーラウンドの制御盤を探した。
建物の裏側に、小さな扉があった。
「ここか」
リュウが扉を開けると、中には配電盤があった。
「…動かし方分かるんですか?」
「少し、かじった」
リュウは配電盤を操作した。
数秒後——
ウィーンという音と共に、メリーゴーラウンドが動き始めた。
オルゴール調の音楽が流れる。
色とりどりの木馬が、ゆっくりと回転している。
「…すごい」
「医者じゃなくて、電気技師だった?」
私が冗談を言うと、リュウは少し笑った。
「色々やったからな」
---
メリーゴーラウンドに乗った。
私は白い木馬に、リュウは黒い木馬に。
ゆっくりと回転する。
音楽が流れて、星空が見える。
「…こんなの、子供の頃以来」
私が言うと、リュウが答えた。
「俺は初めてだ」
「え、本当?」
「医者の家系でな。遊園地なんて行く暇もなかった」
リュウは遠くを見つめた。
「いつも勉強ばかりだった」
「…そうなんですね」
私は木馬に揺られながら、リュウを見た。
「でも…悪くないな」
リュウが小さく言った。
「メリーゴーラウンド、悪くない」
私は笑った。
「うん。…楽しいね」
回転する木馬。
流れる音楽。
星空。
全てが、夢みたいだった。
「…なあ、アミ」
リュウが言った。
私は驚いて、リュウを見た。
「アミ」と呼んだ。
今まで「お前」だったのに。
「…なんですか?」
「いや」
リュウは少し照れたように視線を逸らした。
「…別に」
私の胸が温かくなった。
「アミ」。
リュウが、私の名前を呼んでくれた。
それだけで、嬉しかった。
---
メリーゴーラウンドから降りて、次は観覧車に向かった。
「これも動かせるんですか?」
「やってみる」
リュウは観覧車の制御盤も見つけた。
同じように操作すると、観覧車が動き始めた。
「乗るぞ」
私たちはゴンドラに乗り込んだ。
扉が閉まり、ゆっくりと上昇していく。
地上が遠ざかって、視界が広がる。
遊園地全体が見える。
そして、遠くには東京方面の夜景が見えた。
「…綺麗だね」
「ああ」
リュウも窓の外を見た。
ゴンドラは頂上で止まった。
静かな時間。
二人だけの空間。
「…アミ」
リュウが言った。
また、名前で呼んでくれた。
「はい」
「お前と…いや、アミと出会えてよかった」
リュウは私を見た。
「この3日間、楽しかった」
私の目が熱くなった。
「…私もです」
「これからも、一緒に行こう」
「はい」
私は頷いた。
「一緒に」
リュウは小さく笑った。
「行き先はデッドエンドだけどな」
「それでもいいです」
私は言った。
「リュウと一緒なら」
---
観覧車から降りて、私たちは園内を歩いた。
「次は何に乗りますか?」
「…いや、そろそろ——」
リュウが言いかけた時だった。
「おい!誰かいるのか!」
遠くから声がした。
懐中電灯の光が、こちらに向かってくる。
「警備員か」
リュウが呟いた。
「流石に観覧車の光に気づいたな」
「どうしましょう…!」
「逃げるぞ」
リュウが私の手を掴んだ。
「こっちだ!」
私たちは走り出した。
深紅のドレスと、タキシード。
こんな格好で遊園地を全力疾走。
馬鹿みたいだ。
でも——
「あはは!」
私は笑ってしまった。
「何笑ってるんだ」
「だって…変じゃないですか」
リュウも笑った。
「確かにな」
後ろから懐中電灯の光が追いかけてくる。
「待て!」
警備員の声。
でも、私たちは走り続けた。
メリーゴーラウンドを通り過ぎて、駄菓子屋の横を抜けて。
ドレスが風になびく。
リュウの手が、私の手を強く握っている。
心臓がドキドキする。
怖いのか、それとも——
楽しい。
こんなに、楽しい。
「フェンスだ!」
リュウが指差した。
園の端のフェンス。
高さ2メートルくらい。
「登れるか」
「やってみます!」
リュウが先に登った。
それから、私に手を差し伸べてくれた。
「手を掴め」
私はリュウの手を掴んで、フェンスを登った。
ドレスが引っかかりそうになったけど、なんとか乗り越えた。
駐車場側に着地。
「待てーっ!」
警備員がフェンスの向こうで叫んでいる。
でも、もう追いつけない。
私たちは車に駆け込んだ。
「はあ、はあ…」
息が切れる。
リュウも息を荒げている。
でも、二人とも笑っていた。
「…逃げ切りましたね」
「ああ」
リュウはエンジンをかけた。
「行くぞ」
車が発進する。
バックミラーに、懐中電灯の光が小さくなっていく。
私は振り返った。
遊園地が、遠ざかっていく。
二人だけの、特別な場所。
忘れない。
絶対に、忘れない。
---
車で10分ほど走ると、安モーテルがあった。
「ドライブイン多摩」という看板。
リュウは偽名でチェックインした。
部屋に入ると、シンプルなベッドと小さなテレビがあった。
昨日のホテルとは大違いだ。
でも、それでいい。
「疲れたか?」
「少し」
私はベッドに座った。
リュウも隣に座る。
「…リュウは、どうして医者になったんですか?」
私が聞くと、リュウは少し考えた。
「…家系だからな。選択肢はなかった」
「でも、患者を救いたかったんでしょ?」
「…ああ。最初はな」
リュウは遠くを見つめた。
「でも、システムの壁にぶつかった。金がなければ、救えない命がある」
「…」
「自分が病気になって、分かった。俺も、救えない側だ」
リュウは自嘲するように笑った。
「だから、奪った」
私は何も言わなかった。
ただ、リュウの手を握った。
リュウは驚いたように私を見た。
「…アミ」
「大丈夫です」
私は言った。
「私、リュウのこと、悪い人だと思ってません」
リュウは何も言わなかった。
ただ、私の手を握り返してくれた。
---
深夜1時。
私は突然、激しい痛みに襲われた。
「っ…!」
お腹が、焼けるように痛い。
「アミ!」
リュウが駆け寄った。
「…っ、痛い…」
私はうずくまった。
冷や汗が流れる。
声も出ないほどの痛み。
「少し我慢しろ。今、痛み止めを打つ」
リュウはスポーツバッグから注射器を取り出した。
手際よく痛み止めを準備して、私の腕に注射した。
「っ…」
針が刺さる痛みも感じない。
それくらい、お腹の痛みが強い。
「深呼吸しろ。ゆっくりと」
リュウが背中をさすってくれた。
少しずつ、痛みが和らいでいく。
薬が効いてきた。
「…はあ、はあ…」
「大丈夫か」
「…はい」
私はゆっくりと呼吸を整えた。
「…ごめんなさい」
「謝るな」
リュウは優しく言った。
「俺たちは、同じだ」
私はリュウを見た。
黄疸で黄色がかった顔。
痩せ細った身体。
リュウも、同じように苦しんでいる。
「…もう、長くないですね」
「ああ」
リュウは頷いた。
「でも、今日も楽しかった」
「…はい」
私も頷いた。
「楽しかったです」
リュウは私をベッドに寝かせてくれた。
「休め。明日、また出発する」
「…どこに行くんですか?」
「山梨だ」
リュウは言った。
「山の空気を吸いに行こう」
私は目を閉じた。
痛みは、まだ少し残っている。
でも、薬のおかげで耐えられる。
「おやすみなさい、リュウ」
「ああ。おやすみ、アミ」
リュウの声が、優しかった。
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