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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

[短編] え? まだ現代魔法使ってるの? 古代魔法のほうが最強なんだが? ~魔導アカデミアの落ちこぼれは、禁断の知識で成り上がる~

作者: みんと

長編版を書きました

よろしくお願いします


https://ncode.syosetu.com/n9856kq/


「――次! ロイ・アンデシウス! 前へ!」


 魔導アカデミアの実技試験場。担当のグラン教官の不機嫌そうな声が響き渡る。

 

 僕、ロイ・アンデシウスは、びくりと肩を震わせながら、おずおずと前に進み出た。

 今日の課題は初級攻撃魔法「ファイア・ショット」。

 まあ、僕にとっては初級だろうが上級だろうが、結果はあんまり変わらないんだけど……。


「アンデシウス! 今日こそは的の真ん中に当ててみせろよな! ……いや、せめて的に当たれば褒めてやる!」

 

 クラスメイトの一人が、からかうようにそんな声を投げてくる。周囲からはクスクスと笑い声が漏れた。うぅ……今日も胃が痛い。


「ふ、ふぁいあ……しょ、しょっとぉ……!」

 

 しどろもどろに詠唱を試みる。

 僕の活舌の悪さは、アカデミアでも有名だ。

 ついでに、魔法を発動させるための「イメージ」ってやつも大の苦手。

 頭の中に思い浮かべようとしても、なぜか燃え盛る炎じゃなくて、美しい幾何学模様とか、複雑な数式みたいなものばかりがチラついちゃうんだ。

 現代魔法はなによりもその「イメージ」が大事だっていうのにね……。


 結果は、まあ、お察しの通り。

 僕の手のひらから、パチッ……と小さな、本当に小さな火花が散っただけ。

 それも、的のはるか手前で力なく消えてしまった。


「はぁ……」

 

 グラン教官の深いため息が、やけに大きく聞こえる。

 

「またそれか、アンデシウス! 貴様、本当にやる気はあるのか!?」

「も、申し訳ありません……」

 

「まあまあ先生、アンデシウスの線香花火は名物みたいなもんですから!」

「あれでよくアカデミアにいられるよなー、マジで!」

「アンデシウス家の恥だろ、あれは」

 

 あちこちから容赦ない言葉が飛んでくる。慣れてるけど、やっぱりちょっと……いや、かなりへこむ。


 僕は、悪気はないんだけど、思ったことをつい口にしてしまう癖がある。

 

「あの……先生。そもそも、この『ファイア・ショット』の熱変換効率って、どうなってるんでしょうか? 魔力から熱素への変換プロセスが、あまりにも不明瞭で……もっと直接的で、ロスのない術式があるように思うのですが……」

 

 僕がそう言うと、グラン教官の眉間のシワがさらに深くなった。

 

「貴様、まだそんな戯言を……! 落ちこぼれの分際で、魔法理論にケチをつけるとは何事だ!」

「ひぃっ! す、すみませんっ!」

 

 あーあ、またやっちゃった。

 別にケチをつけてるつもりなんてないんだけどなぁ。

 純粋な疑問なんだけど、どうも伝わらないらしい。


 試験が終わると、案の定グラン教官に呼び出された。

 

「アンデシウス。はっきり言おう。お前のような落ちこぼれは、アカデミアのお荷物だ。次の評価試験で結果が出せなければ……分かるな? 退学も考えてもらうぞ」

「……はい」

 

 重たい言葉が、ずしりと僕の肩にのしかかった。


 

***

 


 放課後。

 僕が唯一心安らげる場所は、アカデミアの広大な図書館の、そのまた片隅。

 

「古代魔法・禁術」なんていう、ちょっと物騒なプレートが掲げられた書架が並ぶエリアだ。

 他の生徒は気味悪がって誰も寄り付かないけど、僕にとっては宝の山。


 埃っぽい革張りの本を開けば、そこには僕を魅了してやまない世界が広がっている。

 複雑怪奇だけど、なぜか吸い込まれるように美しい魔法陣の数々。

 難解な古代文字でびっしりと書かれた、失われた魔法の理論。

 

 現代魔法は魔法陣を必要としない、イメージと詠唱だけで誰でも手軽に発動できるものだ。

 一方で、失われた古代魔法は、複雑な理論と魔法陣を必要とする。

 今では魔法陣なんて非効率的で、無駄だって言って、誰も古代魔法なんかに興味は持たない。

 けど、僕にとってはこの美しい魔法陣こそが、興味の対象だった。


 まあ、古代魔法はあまりに複雑で難解すぎて、今じゃ誰も本を読んだって理解不能。

 実際に使える人はだれ一人として存在しない。

 僕も試しに独学で発動させようと、魔法陣を描いてみたことがあるけど、もちろんいくらやっても無駄だった……。

 そのくらい、古代魔法は奥が深い。

 

「ああ……この魔法陣の対称性……なんて美しいんだ。線の一本一本、円弧の角度一つ一つに明確な意味があって、寸分の狂いもなく魔力を導くための構造……。現代魔法の曖昧なイメージなんかとは、比べ物にならないくらい合理的だ。これを完成させられたら、きっと、本当に美しい魔法が見られるはずなんだ……」

 

 僕は夢中になって、ノートにその魔法陣を精密に模写していく。

 この時間だけは、自分が落ちこぼれだってことも忘れられる。


「うわ、またアンデシウスが変な本読んでる」

「あんなガラクタ同然の知識、研究して何になるってんだか。だから落ちこぼれなんだよ」


 通りすがりのクラスメイトたちのヒソヒソ声が聞こえてきたけど、今の僕の耳には入らない。

 君たちには分からないだろうけど、この古代魔法の理論こそ、魔法の真理だって僕は信じてるんだから。


 

***


 

 数日後。

 またしても憂鬱な現代魔法の実技訓練の日がやってきた。

 今日の課題は、制御の難しい魔力操作の訓練だという。

 僕にとっては、難易度が上がっただけで、結果は目に見えてるんだけど……。


「アンデシウス! 貴様には特別に基礎中の基礎、魔力安定化の訓練をやってもらう! これすらできんとは言わせんぞ!」

 

 グラン教官の言葉に、僕は必死に魔力を制御しようと試みる。

 でも、やっぱりダメだった。

 僕の身体から溢れ出した魔力は、あっという間にコントロールを失って暴走。

 

 バチバチバチッ!! 

 と激しい火花が僕の足元から散り、訓練場の石畳の床に、広範囲の焦げ跡――まるで、誰かが黒いペンキで落書きしたみたいな、奇妙な幾何学模様の「染み」――を残してしまった。


「も、もういい! アンデシウス! お前は訓練場の隅で反省していろ! 他の者の迷惑だ!」

 

 グラン教官の怒声が響き渡る。

 クラスメイトたちの嘲笑が、いつもより大きく聞こえる気がした。

 僕はトボトボと訓練場の隅へ移動する。

 でも、なぜか僕の視線は、床に残された焦げ跡の「模様」に釘付けになっていた。


 

***

 


 訓練が終わり、騒がしかった実技場も、今はシンと静まり返っている。

 僕は一人残り、さっき自分が作ってしまった床の「染み」を、食い入るように見つめていた。

 ただの失敗の痕跡。

 他の誰が見てもそう思うだろう。

 でも、僕には……何かが引っかかる。


「この形……一見、無秩序に見えるけど……でも、よく見ると力の流れには一定の方向性があるような……? 特にこの中心から放射状に広がる線の配置……どこかで見たことがある気がする……。そうだ! 古代魔法の文献にあった、『魔力安定化の基礎紋様』の構造に……似ている……!?」

 

 でも、なぜこんな形になったんだろう? 

 現代魔法の、制御を失ったエネルギーが、本来の“流れ”から逸脱して、無理やり別の出口を探した結果……?


 僕は急いで図書館へ走った。

 記憶を頼りに、以前読んだ古代魔法の分厚い文献を引っ張り出す。

 そして、そこに描かれていた魔法陣の図解と、記憶の中の焦げ跡の模様を、必死に照らし合わせる。


「……もしかして……現代魔法は、魔力の発現プロセスを、個人の曖昧な“イメージ”っていうものに依存しすぎているんじゃないか……? だから僕みたいにイメージが苦手で曖昧だと、不安定で、すぐに暴走してしまう……。それに対して、古代魔法のあの複雑な魔法陣は……一見すると非効率に見えても、実は魔力の流れを精密に制御して、現象を確実に発現させるための“完璧な設計図”であり、“揺るぎない器”なんじゃないだろうか……!」

 

 だとしたら、あの床の染みは……!

 

「いわば、“設計図”も“器”もなしに、無理やり力を流そうとした結果、そこかしこからエネルギーが漏れ出してしまった……その痕跡……不完全な“設計図”の断片、みたいなもの……!」


 僕の脳裏に、ひとつの仮説が、まるで稲妻みたいに閃いた。

 もし、この“道”を……魔力が通るべき正しい“道”を、僕が用意してやることができたなら……!


 

***

 


 アカデミアの裏手にある、今はもう使われていない古い倉庫。

 ここなら誰にも見つからないはずだ。

 僕は床に、持っていたチョークで、古代魔法の文献にあった最も基本的な「集光の魔法陣」を、少し震える手で、だけど線の一本一本を丁寧に、正確に描き上げていく。


 描き終わった魔法陣の前に座り、僕は深呼吸を一つ。

 現代魔法の詠唱じゃない。

 イメージでもない。

 

 ただ、目の前にある魔法陣の、その線と構造に、意識を全集中させる。

 そして、自分の魔力を、その魔法陣が示す「道筋」に沿って、そっと、ゆっくりと流し込んでいく……。

 まるで、乾いた水路に清らかな水を導くように……。


 緊張で、心臓がドキドキと早鐘を打つ。

 頼む……動いてくれ……!


 すると――。

 魔法陣の中心が、微かに、だけど確実に光り始めた。

 それは、僕が今まで見たどんな現代魔法の灯火なんかよりも、ずっとずっと安定していて、どこまでも純粋で……そして、何よりも……。


「……あ……ああ…………!」


 言葉にならない声が漏れる。

 魔法陣から放たれる光は、決して強くはない。

 でも、その光は、まるで小さな星みたいに静謐な輝きをたたえていて、僕の心を鷲掴みにした。


「……う、美しい…………!」


 できた……! 

 本当に……古代魔法が、僕の目の前で……!

 これが……僕がずっと追い求めていた、美しい、本物の(・・・)魔法……!

 現代魔法の先生たちが言う「常識」なんかじゃない……これこそが……!


 僕は、その小さな、だけど確かな光を見つめ、生まれて初めて心の底から震えるような感動を覚えていた。


 その時だった。


 ギィ……。


 古い倉庫の扉が、不意に軋む音を立てて開いた。

 そこに立っていたのは――。


「……そこで何をしている、アンデシウス……?」


 静かで、それでいて有無を言わせぬような、誰かの声。

 僕は驚いて振り返る。手の中にはまだ、古代魔法の“本物の”光が、確かに灯っている。


 ――しまった!







 古い倉庫。

 古代魔法の光に感動する僕、ロイ・アンデシウス。

 その背後から、静かな声が響いた。


「……そこで何をしている、アンデシウス……?」


 僕は驚いて振り返る。

 手の中にはまだ、古代魔法が生み出した“本物の”光が、確かに灯っている。

 そこに立っていたのは――。


「うふふ、びっくりした? 今の声、グラン教官にそっくりだったでしょ?」

 

 いたずらっぽく笑う少女。

 僕の幼馴染の、ニコだった。

 彼女は魔法薬学の授業で習ったという変声魔法を使って、僕をからかったらしい。


「も、もう……ニコかぁ……! 本当に心臓が止まるかと思ったよ……!」

 

 僕は安堵のため息をつきつつ、ちょっと呆れた表情をニコに向ける。


「ごめんごめん。でもロイったら、最近ずっと何か隠してるみたいだったし、ここに入っていくの見ちゃったから。気になっちゃって」

 

 ニコはぺろっと舌を出して謝る。

 そして、僕の手元にまだ微かに残る古代魔法の光を見つけると、目をキラキラと輝かせた。


「で、さっきのあの光は何? すっごく綺麗だったんだけど!」


 僕は少し戸惑いながらも、ニコに正直に打ち明けることにした。

 彼女は、僕の数少ない……ううん、たった一人の理解者だから。


「こ、これは……その……古代魔法、なんだ」

「古代魔法!? わぁ、すごーい! やっぱりロイは天才だよ!」

 

 ニコは満面の笑みで、僕の手を掴まんばかりの勢いで褒めちぎる。


「ほら、私がずーっと言ってた通りでしょ? ロイならいつか絶対に何かとんでもないことするって、私、信じてたんだから!」

「え、あ、ありがとう……。でも、まだほんの初歩の初歩で、偶然成功しただけかもしれないし……」

 

 僕が照れながらそう言うと、ニコはぷくっと頬を膨らませた。


「ううん、そんなことないって! だって、今まで誰もできなかった古代魔法を、ロイが一人で使えるようにしたんでしょ? それって物凄いことだよ!」

 

 僕たちは二人で、僕が灯した古代魔法の小さな光を改めて見つめた。

 それは現代魔法の光とは明らかに違う、静かで、どこまでも純粋な輝きだった。


「……本当に、綺麗だね」

「うん……」

 

 少し甘酸っぱいような、ほのぼのとした空気が、古い倉庫の中に満ちていく。


 思えば、子供の頃からそうだった。

 僕が周りの子たちから「変わり者」とか「何を考えているか分からない」って敬遠されて、いつも一人で本を読んでいた時も。

 

 ニコだけは、僕のそばに来て、「ロイの見てる世界は、きっと他の人には見えないくらい面白いんだよ!」って言ってくれたっけ。

 

 僕が何かに夢中になって、周りの声が聞こえなくなっちゃう時も。

 ニコは「すごい集中力! それって立派な才能だよ! ロイはみんなと違うけど、それは天才だからなの。いつか世界がロイのすごさに気づく日が来るって!」って、ずっと僕を励まし続けてくれたんだ。


「ニコは昔からいつもそう言ってくれるけど、僕自身はそんなこと、全然……」

 

 僕が自信なさげに言うと、ニコは得意げに胸を張って笑った。


「もー、まだそんなこと言ってるの? ほら、私の言った通りだったでしょ? ロイはやっぱり天才だったんだって! 私の目に狂いはなかったんだから!」

「……う、うん。ありがとう、ニコ」

 

 ニコの屈託のない笑顔と、僕への絶対的な信頼。

 それが、じんわりと僕の心に温かいものを広げていくのを感じた。

 僕にも、何かできるかもしれないって、少しだけ思えたんだ。


 

***


 

 ニコに認められたことで、僕は古代魔法の可能性を、前よりももっと強く確信するようになっていた。


「それで、そのすごい古代魔法で、これからどうするの? アカデミアのみんなをあっと言わせちゃったりする?」

 

 帰り道、ニコが期待に満ちた目で聞いてくる。


「うーん、まだそこまでは考えてないけど……。でも、この魔法が本物だってことは分かったんだ。現代魔法よりもずっと合理的で、ずっと美しい。だから、もっと深く知りたいし、もっと色々な古代魔法を使ってみたいと思ってる」

 

 僕の目には、新しい決意と、純粋な探求心が宿っていた。

 ニコは、そんな僕の表情を嬉しそうに見守ってくれている。


「そういえばね、ニコ。あの時、実技場で大失敗して床に焦げ跡を作っちゃったでしょ? あの模様から、すごいヒントを見つけたんだ。力の流れを最適化する方法とか、魔法陣の新しい構造とか……。無駄なことなんて何一つなかったんだよ」

 

 僕が少し興奮気味に話すと、ニコはうんうんと頷いてくれた。


「それなら、次の実技授業で早速みんなに見せちゃえばいいじゃん! グラン教官とか、腰抜かすかもよ? それに、ロイがすごいってこと、みんなに分からせてやろうよ!」

「ええっ!? そ、そんな急に……。それに、もしまた失敗したら、今度こそ本当に退学になっちゃうかも……」

 

 僕は思わず尻込みしてしまう。

 だけどニコは、力強く僕の背中をポンと叩いた。


「大丈夫! ロイなら絶対できるって! 私がちゃーんと見ててあげるから、自信持って!」

 

 ニコの無邪気な応援に、僕の心の中にあった不安が、少しだけ軽くなった気がした。

 よし……やってみようか。


 

***


 

 数日後。

 またあの憂鬱な、現代魔法の実技授業の日がやってきた。

 グラン教官が今日の課題を発表する。

 それは、僕がこの前、床に盛大な「焦げ染み」を作ってしまった、あの「ファイア・ショット」だった。


「いいか、今日の課題は『ファイア・ショット』だ。威力よりも制御と正確性を重視する。……アンデシウス、貴様はあまり期待はせんが、せめて火花くらいはマトモに出せるようになれ」

 

 グラン教官の言葉に、クラスメイトたちからは「どうせまた線香花火だろ」「もう見飽きたってーの」なんていう声が漏れる。

 

 僕の番が来た。

 緊張で心臓がバクバクしてるけど、ニコが遠くから「大丈夫!」って感じで小さくガッツポーズしてくれてるのが見えた。

 

 僕は覚悟を決めた表情で、おもむろに自分の魔法の杖を取り出す。

 そして、詠唱を始める代わりに、杖の先を足元の地面に向けた。


 杖の先から、僕が練り上げた魔力が、青白い光のインクみたいに流れ出す。

 僕はそれを使って、複雑な魔法陣を地面に描き始めた。

 線が描かれるそばから、魔法陣が淡い光を帯びていく。


 周囲が一瞬、シンと静まり返った。

 そしてすぐに、ざわざわとした騒めきが広がった。


「な、何だあれ?」

「地面に落書きか?」

「アンデシウス、ついに頭がおかしくなったんじゃ……」


 グラン教官の顔が、みるみるうちに険しくなっていく。

 

「アンデシウス! 貴様、一体何をしている! 課題を無視する気か! ふざけるのも大概にしろ! 魔法をさっさと詠唱せんか!」

 

 怒声が飛んでくる。

 でも僕は、魔法陣を描く手を止めずに、淡々と答えた。


「いえ……。これは、魔法を発動させるための準備です」

「準備だと? そんなものは現代魔法には必要ない! その紋様……それは……まさか……!」

 

 グラン教官の声が、驚きに震えている。

 僕は、きっぱりと言い放った。

 悪びれる様子なんて、これっぽっちもない。


「はい。古代魔法です」


 

***


 

「はぁぁ!? こ、古代魔法だと!?」

 

 グラン教官の顔が真っ赤に染まる。

 その怒りは、驚きを通り越して、もはや呆れに近いものだったかもしれない。


「馬鹿も休み休み言え! そんな時代遅れの、何の役にも立たんゴミ知識を持ち出して何をするつもりだ!」

 

 他の教師たちも、もしこの場にいたなら同じように言っただろう。

 

「古代魔法など、とっくに陳腐化したただの伝説だ」

「発動するわけがないだろう、時間の無駄だ」

「落ちこぼれが最後に悪あがきか、みっともない」

 

 そんな言葉が、僕の耳にも聞こえてくる。


 クラスメイトたちからは、もっと直接的な野次が飛んできた。

 

「やっぱりアンデシウスは変わり者だな!」

「どうせ何も起きないに決まってるぜ!」

「さっさと諦めて退学しろよ!」


 ニコだけが、少し離れた場所から心配そうに、でも固く拳を握りしめて僕を見つめている。

 その瞳には、僕への絶対的な信頼の色が宿っていた。

 

 僕は、周囲の罵詈雑言に一瞬顔をこわばらせた。

 でも、足元で完成しつつある魔法陣から感じる、確かな手応え。

 そして、ニコの信じる視線。

 それが僕の心の支えになって、僕は最後の仕上げに取り掛かった。


 

***

 


 僕が描き上げた魔法陣は、古代魔法の文献にあった「熱量変換」と「集光」の基本魔法陣を組み合わせたもの。

 

 だけど、それだけじゃない。

 この前の「床の染み」から得た、「力の流れを最適化する独自の幾何学パターン」を、大胆に組み込んであった。

 

 僕だけの、オリジナルの改良型魔法陣だ。

 魔法陣全体が、まるで呼吸するかのように、青白い光を明滅させている。


 僕は魔法陣の中央に静かに立ち、深く息を吸い込んだ。

 両手を魔法陣にかざすようにして集中し、魔力を流し込む。

 詠唱はない。

 ただ、魔法陣が、眩いばかりの光を放ち始めた。


 固唾を飲んで見守る者。

 まだ嘲笑を浮かべている者。

 グラン教官は、苦虫を噛み潰したような顔で僕を睨んでいる。


(僕の考えた、最高の魔法陣……。古代魔法の理論は、間違ってなんかいなかった……!)


「古代魔法式ファイア・ショット……発動!」


 次の瞬間。

 僕の足元の魔法陣から轟音と共に放たれたのは、クラスメイトたちが放つ貧弱な火の玉なんかとは、比較にすらならない代物だった。


 巨大な――人の頭5つ分ほどの大きさはあろうかという――灼熱の火球。

 それはまるで小型の太陽のように周囲を強烈な光と熱で照らし、空間を歪ませるほどの熱波を放ちながら、訓練場の頑丈な的に向かって、恐ろしい速度で突き進んでいく。


 ドゴォォォォォン!!!


 凄まじい爆音。

 火球が着弾した的は、一瞬にして蒸発した。

 いや、それだけじゃない。

 的の背後にあったはずの分厚い防護壁すらも、黒焦げにし、その一部をドロドロに溶解させてしまっている。

 

 圧倒的な破壊力だった。


 

***

 


 灼熱の余波と爆風が収まった後。

 実技場は、まるで水を打ったように静まり返っていた。

 生徒たちは皆、口をあんぐりと開けたまま、目の前で起きた現象が信じられないという表情で固まっている。

 

 グラン教官も、他の教師たちも、そのあまりの威力に言葉を失い、ただ黒焦げになった的の残骸と、魔法陣の中心に立つ僕を、交互に見つめるだけだった。


 ニコだけが、小さく「やった……! すごい、ロイ……!」と呟き、感動と興奮で目を潤ませていた。

 僕自身も、予想を遥かに超えた威力に、少し驚いていた。


「あれ……? ちょっと……威力を上げすぎちゃった、かも……? 計算よりエネルギー変換率が高すぎたかな……?」

 

 魔法陣は、まだ淡い輝きを放ち続けている。

 僕の周囲には、制御された魔力の残滓が、陽炎のように揺らめいていた。


(大成功だ……! やっぱり、古代魔法の理論は正しかったんだ……! あの床の染みのパターンを応用した改良も、間違ってなかった……!)


 僕がふと周囲を見回すと、皆の唖然とした表情が目に飛び込んできた。

 そこでようやく、自分がとんでもないことをしでかしたことに気づいた。

 僕は困ったように、少し青ざめた顔で頬をかいた。


「えっと……あの……。もしかして、やりすぎちゃいました……かね?」

 

 その言葉に、誰も答えることができない。

 ただ、僕と、彼が生み出した規格外の魔法の痕跡だけが、その場の全てを支配しているかのように、静寂の中に存在しているのだった。






まずは読んでくださりありがとうございます!

読者の皆様に、大切なお願いがあります。


もしすこしでも、

「面白そう!」

「続きがきになる!」

「期待できそう!」


そう思っていただけましたら、

ブクマと★星を入れていただけますと嬉しいです!


★ひとつでも、★★★★★いつつでも、

正直に、思った評価で結構です!


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何卒宜しくお願い致します。


もし好評であれば、長編版を書くかもしれません。

お楽しみにしてください!


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