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斜陰  作者:
1/7

帰ってきたんです

 先日、1年ぶりにオーストラリアから日本に帰ってきた。

 思い返せば大変な旅だった。初日から最終日まで、よくもあんな生活をしていたなと思う。最初の職場を1週間でクビになり、2か月仕事が決まらず、その間住んだ家を出ていくときに家主と揉め、新たにたどり着いた場所でもすぐにクビの危機になり――もう一度過去に戻ってオーストラリアの旅をやり直したいかと問われれば、確実にNOと言うだろう。時には死ぬかと思ったし、絶望して人を恨んだこともあった。

 でも思い出すのは楽しいことばかりだ。矛盾しているようだが、楽しかったかと問われれば俺はYESと答えるのだ。


 この旅で何を得たのだろうか。英語力は思ったよりも全然上達しなかったし、現地人と大して知り合わなかったし、仲良くなったのは一部の日本人と韓国人だけだった。

 オーストラリアに俺のような日本人はひとりもいなかった。その多くは、行動力があり、コミュニケーション能力が高く、他人との交流を楽しむ人々だった。彼らは交流の中で周囲の人々から仕事や生活に関する情報をたくさん得て、ついでに語学も上達するのである。

 外国で生活をしたいのならば、会話が好きであることは必須だと感じた。考えてみれば当然なのだが、現地で情報を得るならば現地人とコミュニケーションを取ることが必要だ。コミュニケーションは、語学がそれほど達者でなくとも翻訳アプリや身振り手振りで何とかなることが多い。だが俺にとってはそういった類の努力が非常に面倒に感じられるのだった。

 というのも、そもそも俺は多くの身近な人間に対してほとんど興味を持たない人間だからだ。その人が何が好きで、どんな音楽を聴いていて……とかに興味を持てない。断片的な情報を知るのみで、人を深堀りしない。異文化交流において致命的とも言える欠点である。

 そんなんだから、いろいろと厄介な事態も起きた。相互理解の不足で苦労したこともあったし、損をしたこともあった。伸ばそうと思っていた英語力も伸びなかった。そして強く感じた。俺は人と違う、ダメなほうに。


 ところが、冒頭で述べたようにこの旅は楽しかったのである。それは出会った友人たちのおかげであると断言できる。

 その友人たちに言われた言葉でありがたかったのは、「あなたはあなたのままでいい」ということだ。

 人として決定的な欠陥を持つ人間に対し、そんな言葉をかけられる優しさ。他人を受容できる人間こそ、尊敬すべきである。


 他人にあーだこーだ言われるとすぐにイライラするし、放置されると拗ねる。我ながらなんて手のかかる生き物なんだろうかと思う。しかしそれでいいと言われたのでそうやって生きていこう。どんなにダメでも、開き直って図太く生きてきたのが俺なのだ。

 他人の優しさの陰にいよう。斜に構えていよう。

 そうして、俺はいつまでも俺のままだ。

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