第90話 旅は道連れじゃないの?!
「私が背負える大きさの袋に、こんな小さな残骸だけ入れるの!? いや……待てよ。 Hey鑑定さん、治癒の葉とマンドラゴラを合わせて作る薬ってさ、長持ちしないんだよね?」
«――解、錬金後は数刻程で効果ハ失わレまス»
「ふむふむ、じゃあ治癒の葉とマンドラゴラを混ぜずに保管は可能?」
«――解、可能でス»
鑑定の返事を聞き、クウネルはガッツポーズで喜んだ。
「よっしゃー! あぁ、私は別に良いのよ? 何か魔物でも適当に食い殺せば回復するんだから。 でも、モロやその群れ達は怪我をすれば死んじゃうじゃん? 大切な友達を失うのも、友達の家族を失うのも絶対に嫌だ」
クウネルは友だけでは無く、モロの家族すら大切な存在へとなっていた。 それだけモロという存在がクウネルの中で、更に大きくなったのだ。
「瀕死だったモロを回復させて欠損していた四肢すら再生させた薬を何時でも作れたら、何かあっても即死じゃなければ何とかなる筈だもんね。 よし! 鑑定さん、治癒の葉が有る方角教えて」
«――了。 検索中デす――解、向かって右方向です»
「了解でーす! この大きな袋がパンパンになるぐらい治癒の葉とマンドラゴラ集めとこっと。 友の為だ! やるぞー! おー!」
クウネルは鑑定に教えられた方角へと走り出した。
「何か今日の私走ってばっかりだね。 いや、何時もの事かな?」
◆◇◆
数時間後。
「ふー! いやぁー、採った採った!」
辺りは既に薄暗いが、クウネルは無事袋一杯に治癒の葉とマンドラゴラを集める事が出来ていた。
治癒の葉は生えてる木から採るだけだったが、気配の薄いマンドラゴラ採取にかなりの時間を要してしまったのだ。
「いや~大変だったな~。 ほら、頑張って走り回って探すじゃない? 見つけるじゃない? 抜くじゃない? 袋に入れていくじゃない? ふと、お腹が空くじゃない? お! 袋の中に美味しそうなマンドラゴラが……の繰り返しだったのよ!」
クウネルは誰に弁明するでも無く、独り言で勝手に言い訳を始める。
「おっと、私だけか。 ふ~……危ない危ない。 危うく孔明の罠に掛かる所だったよ。 ぼりぼりぼりぼり……ごくんっ!」
クウネルは袋に入れずに摘んでいたマンドラゴラを口に放り込み、噛み砕く。
「美味い。 さて、旅の準備も出来たしモロの所に戻ろう。 遅くなったから心配掛けてるかな~? あ! 忘れてた、何か手土産に出来る物は~……お、スライム君発見!」
クウネルは歩く先にポヨンポヨンと跳ねるスライムを見つけ、凄まじい速度で捕獲した。
「プルプル……ピギュー!」
スライムが反応した時には既にクウネルの口の中であり、時既に遅しである。
「はむはむ むにむに ごくんっ! あ、食べちゃった。 いかんいかん、お土産が……。 他に気配察知に反応は無いかな?」
クウネルは周囲の気配を探るが、残念ながら範囲内には何もいない様だ。
「やばいな、本当に反応無いぞ。 この巨木の森、スライム君の森に改名した方がい良くね? まぁ、私には天国だけど肉が食べれないのがなー」
口の中に残るスライムの後味を楽しみながら、帰路に着く。
空は暗闇となり、流石に遅くなり過ぎたクウネルは速度を上げた。
「よし! ここからは、走って帰るか。 Hey鑑定さん! 洞窟への帰り道はあってる?」
«――有。 正解デす、シカし気配察知内にモロ達の反応ガ有りマセン»
鑑定の答えに、クウネルは固まった。
「……え? まさか、何か有ったの!?」
クウネルは全速力でモロ達が居る筈の洞窟へ向かう。
石や土を踏み込んだ衝撃で吹き飛ばし、音を置き去りにし、身体に当たる木々等お構い無しに走り抜ける。
そして砂埃を猛烈に立てながら到着したクウネルは洞窟へと屈み込み、声を張った。
「着いた、モロっ! モロ、居ないの!?」
声を掛けるも、洞窟からは返事は返って来ない。
鑑定の言う通り、クウネルの気配察知にも反応は無かった。
「そんな! あれ? あれだけ離れた距離から気配察知出来る鑑定さんって、何者? いやいや、今はそんな事はどうでもいい! Hey鑑定さん! モロ達に何か有ったか分かる? お願い! 教えて!」
«――了。 検索中デす――――検索中デす。 申し訳アリまセんクウネル。 検索範囲外に居ル為、確認出来まセン»
「鑑定さんでもダメなの!? どうして……? 何が有った?」
呼吸が荒くなり、冷静でない自分に気付いたクウネルは深呼吸をする。
「すー、はー、落ち着け、落ち着け私! こういう時は、周囲の確認からだ」
手掛かりが残されていないかと、洞窟の周囲を探す。
薄暗く視界も悪い為、掘っ立て小屋の残骸に火を付けて松明代わりにして見渡すとソレは有った。
洞窟の入り口近くに、何かの毛皮が突き刺してあったのだ。
クウネルは心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、指先で突き刺さる石を抜いた。
「怖い、見るのが怖いよ……」
恐る恐るその毛皮を手に取り、松明の灯りで照らす。
すると、其処には日本語でこう書いてあった。
『クウネルへ。 待っていたけど、全然帰って来ないから先に出発するね。 置いて行ってすまない、群れの皆が腹を空かせててね。 獲物が居ないこの森から出て何か食料を探さないと飢えて死んでしまうから。 向かう2足型種の王国への方角は、この毛皮を突き刺した方角で大丈夫さ。 あ、くれぐれも走って来ないでね。 クウネル程の強さの生き物がとてつもない速度で走ると生態系が滅茶苦茶になるから。 ゆっくりと追い付いて来るといいさ。 こんなに長々と書いてるのに帰って来ないって、本当に何処まで朝食を食べに向かったんだい? おっと、妻達が呼んでる。 これぐらいにしとこう。 また会おう、友よ。 君の友、モロより』
「モォォォロォォォーーーー!? 旅は道連れじゃないのー!? うわーーーん! 置いてかれたー!」
叫ぶクウネルの大声は誰も居ない洞窟に響き渡った。




