第84話 決壊と罪悪感
「ちょっ!? モロ、どうしたの? 玉ねぎ? 誰か玉ねぎ切ったの!?」
クウネルはボロボロと泣き始めるモロに驚き、意味不明な事を口走る。
「アゥン……何でそうなるのさクウネル。 はははは、そうか……だからあの赤髪のクウネルはあんなに怒って憎んで叫んでいたのか。 やっと合点がいったよ……」
何かを納得したモロは頷き、改めてクウネルに話し掛けた。
「クゥン、クウネル良く聞いて欲しい」
「う、うん。 何?」
「グルル……これは私の推測だが。 今の君の精神状態は異常だ。 それほどの悲劇を、苦しみを、2歳の子供が耐えれる筈が無いんだよ。 理由は、私等では分からないが……赤髪のクウネルを静めた生き物が、クウネルが壊れないように怒りと憎しみを別の存在として閉じ込めたんじゃないだろうか? 普段のクウネルからは、怒りや憎しみの濃い匂いは全くしない。 それがそもそもおかしいのさ。 そして、あの赤髪のクウネルは怒りと憎しみの匂いの塊だったんだよ」
「ふむ? つまり……どゆこと? 今の私がおかしいって話し?」
モロの話しはクウネルにとって理解出来ない内容だった。 しかし、何故か胸の奥が熱く苦しくなるのを感じる。
「クゥン……すまない、私の推測でしかないのさ。 どうすれば良いのか、何をしたげれるかも分からない。 そんな推測を立てれた所で、役に立てない友ですまないね」
謝るモロを見て、クウネルは胸が燃えるように熱くなり嬉しさや悲しみが溢れ出す。
「何でそうなるのさ! 違うよモロ。 私はきっと話しを誰かに聞いて欲しかったけど、すごく怖かったんだ。 でもモロは友達になってくれて、話し聞いてくれて、思った事話してくれた。 ありがとうだよ! 私と友達になってくれて、泣いてくれて、考えてくれて、ありがとう……あれ?」
モロの瞳からはまだポロポロと涙が落ち、クウネルからも大粒の涙が溢れ始めた。
「おかしいなぁ、私も泣いてるみたいだ。 ったく、誰だよ玉ねぎ切ってるのは!」
涙を抑えようとすればする程、不思議な感情が胸から溢れる。 それは熱く、苦しい感情だった。
「もう! 何なのよこれ! 涙止まんないじゃんか!」
「アオン! クウネル、いいんだよ。 泣いていいんだよ。 それだけの事が有ったんだ、それだけの事が有ったのに飛竜に飲まれても生き残ったんだ。 凄いよ、偉いよ、よく頑張ったね」
モロは宙に浮き、クウネルの頬に優しく体を刷り寄せた。 そして、この時クウネルは2歳児らしい小さな子供の様に泣き喚き始める。
瞳の色が薄い赤色に変わり、髪は揺らぎ、少し赤みがかった。
「やめてよ、やめてよモロ。 もう、涙止まんない! うっ……うっ……うわぁぁぁぁぁ! 皆、皆殺されたの! あの時、あの時に私に今の力が有ったら! お祖父ちゃんも! お父さんも! お母さんも! 皆、皆助けれたかも知れないのに、私に力が無かったから、私に! 私に力が! ぁぁぁああああああっ!!」
膝をつき、クウネルは咽び泣く。 そんなクウネルの頬をモロはずっと身体を擦り寄せ、慰め続けた。
「クゥン……よしよし、よく頑張ったね。 クウネルのせいじゃない。 クウネルのせいじゃないよ」
クウネルの中で、何かが決壊した。
どれだけ長く、長く泣いたのかは分からない。
それでも、モロはずっと側に寄り添った。
◆◇◆
暫くし、泣き止んだクウネルの瞳や髪色は戻り何時ものクウネルになっていた。
「ありがとう、モロ。 えへへ……何かすっきりした」
「クフクフ、友の役に立てれて良かったよ。 そうだ、クウネル。 私が知ってる中で、1番知恵の有るお方に会いに行かないか?」
「え? 知恵の有るお方? すごく物知りって事?」
「アオン! そうさ、私に種族名が2つ有る事を教えてくれたお方さ。 そのお方なら、クウネルの状態やどうしたら良いかを助言してくれると思うのさ」
「ん、分かった。 モロがそう言うなら、会ってみる。 何処に居るの?」
「アオーン! よし、じゃあ少し長旅になるから準備しなきゃね。 会う為には、2足型3種族の王達に許可を貰わないといけないのさ」
「なるへそね、じゃあ2足型種のゴブリン、トロール、オークの国を巡らないといけないのか。 ふふ、何か楽しくなってきたぞー! 冒険だぁー!」
クウネルはモロの話しを聞き、ワクワクして立ち上がるが直ぐに腹の虫がなり始めた。
「グギュルルルルー……あ、ごめんモロ。 お腹空いたから、何か食べ物探してくるね」
「アオン、はははは! 勿論良いとも。 此方の準備はしとくよ」
「何でか良く分からんくなったけど、沢山泣いたからお腹空いちゃった。 さぁ、何を狩って食べよっかな~」
クウネルは楽しそうに、気配の反応が有る方向へと走り去った。 そして、残されたモロは走って行った友の背中を見つめながら呟く。
「クゥン……私の友クウネル。 嘘をついた私を、どうか……許しておくれ」
モロの懺悔を聞く者は居なかった。




