第56話 大きなお口
「ヘッヘッヘ、さっきの焼死体を気にしてたのを見る限り、このウルフクイーンは群れを大事にしてるのはお見通しさ!」
クウネルは狼質をウルフクイーンに見せつけながら、ジリジリと巨木の森側へと下がる。
ウルフクイーンは唸りながら、ゆっくりとクウネルの後を追った。
すると、クウネルが巨木の森へと下がっている途中、スライムが足下に近付いて来た。 不思議な程に警戒心の無い魔物である。
「ぷるぷる。 ぷる? ぴぎー!」
「ありがたやー! あむ! あむあむあむ、おいしぃー!」
空いてる右手で素早く捕獲し、躊躇う事無く口に放り込んだ。
クウネルが満面の笑みを浮かべてスライムを咀嚼するのを、ウルフ達は吐きそうな顔で見つめる。
「ほんと、何なの? 乙女に対して、失礼過ぎじゃない?
あれか! ウルフ達はスライム君が嫌いなのか! うわー、野生の魔物が好き嫌いとかどうなの? 嫌いなら食べなくていいです! スライム君は先生が食べます! ……って、先生って誰だよ!」
そんな馬鹿な事を呟きながら下がり続けていると、ようやく背の低い森から脱出し巨木の森まで辿り着いた。
「よし、後はマンドラゴラを探すだけだ! おい、其処のウルフ! 今ちょっと早く動いたろ! 良いのか? 仲間の命が惜しいなら早く動くな! びっくりするでしょうが!」
◆◇◆
「グルルルル……」
巨木の森に入ってからもウルフクイーン達は、クウネルから付かず離れずの距離で付いてきている。
「どこ?! 薄い気配、薄い気配! ちくせう! 私がこの辺のマンドラゴラ食べ尽くしたから全然生えてないじゃん!」
スライムを食べた事で体力と傷は全回復しているが、次にウルフクイーンと戦闘になれば今度こそクウネルは殺されるだろう。
巨木の森を狼質を取ったまま、奥へと下がる。 低く唸るウルフクイーンが同じ歩幅で近付いてくるのが堪らなく恐ろしい。
「怖い怖い怖い! 死にたくない、死にたくないぞー!」
恐怖を紛らわす為に大声で独り言を叫んていると、ようやく目当ての気配を察知した。
「あ! あった! 薄い気配有ったよ!」
気配察知に反応が有った方角へとゆっくり下がる。
そして横目で確認すると、巨木の根元近くにマンドラゴラが頭の葉っぱを出しているのが見えた。
「へっへっへ、もう少し大人しくしてなよ! ……今の私、映画で言ったら序盤で直ぐに死ぬ雑魚な悪人みたいだね。 縁起でも無いけど、残念でした! 私には即死耐性LvMaxが有るのだよ! はっはっはっー!」
遂にクウネルはマンドラゴラの生えてる巨木まで来れた。 後は、マンドラゴラを思いっきり引っこ抜くだけで即死耐性の無いウルフクイーン達は即死するだろう。
勝ちを確信したクウネルは笑う。
「ふっふっふ、今回は本当に危なかったね。 辺りも薄暗いし、早く安全な寝床を……ん? 薄暗い? 待って、他の巨木の周りは明るいよ?」
周囲を確認すると、離れた所は明るく日が差しているのが見えた。 嫌な予感に硬直していると、何かがボタボタとクウネルの肩に垂れる。
「え? 怖い怖い! 上見るのが怖い!」
ウルフクイーンやフォレストウルフ達を見ると、怒りや怯えの表情を浮かべながらクウネルの上を見ている。 何かが頭上に居るのは確定の様だ。
覚悟を決めて、クウネルも恐る恐る上を見た。
「クルルルルル……ガアアァァァァァッ!!」
巨木の木々から顔を出して、大口を空けた巨大な飛竜がクウネルに向かって突っ込んで来た。 涎をボタボタと落とし、巨体を木々に捩じ込む。
「ぎぃぃやあぁぁぁぁぁっ!? 嘘でしょ!? 避けっ! 無……間に合っ!」
バッッックゥゥゥゥン!! と凄まじい音と衝撃波が巨木の森に響き渡った。




