第40話 濡れ衣にも程がある
(え? 何て? 私が魔王になる? お祖父ちゃんが大罪人? 何を言ってるの、この偉そうな毛むくらじゃな獣人は。 もしかして、獅子の獣人なのかな?)
周りを囲む兵士達の中でも獣人達が、「そうだ! 裏切り者を殺せ!」 と声を張ったり、同意する様に頷いている。 他の亜人達は獣人達と同じ様に声を上げたりはしていないが、それでも敵である事には変わらなそうだ。
(何なの、私が何かした?)
クウネルがこの状況を理解出来ずに狼狽えていると、頭上のトールが怒声を上げた。
「いったい何の話じゃ! 獣王国第2王子ウンポ!」
「しらばっくれるな! 私は知っているぞ、大昔の大戦は貴様が魔王の命令で亜人を巻き込んだと! そして、魔王の生まれ変わりの娘を匿い、また戦争を起こそうとしてる事もな!」
クウネルは勿論、トールや村の巨人達も獣人の王子が何を言ってるのかまだ理解出来ない。
(この人……頭のネジが飛んでるのかな? それにウンポって……ウンポって!! 名前が酷くて頭のネジが飛んだの? それなら、親御さんをこの大軍で襲い掛かりなよ)
「貴様等、何を考えているのだ! 魔族や亜人達の恩人であるトール殿を大罪人だと!? 魔王様が戦争を起こしただと!? あの戦争が有った時代に産まれても居なかったお前達が何を抜かす!」
魔族のベータが怒り狂い、雷で全身を纏ったベータの身体はバチバチと音を立て始めた。
(おー、魔族のベータさんがぶちギレてますがなって、いたぁっ!? ちょっと静電気が凄いから離れておこう)
クウネルはいそいそとトールの後ろに下がる。
「親父! 待たせた、受け取れ!」
トールの両手斧を引きずったロスが戻り、トールに向かって両手斧を投げる。 トールはそれを掴み、兵士達に向けて構えた。
「ロス! 貴方の武器よ、ごめんなさい鎧は間に合わなかった」
「いい、どうせ着てる時間も無さそうだ。 親父、これはどういう状況なんだ?」
「儂にもわからん。 何やら儂を殺して、クウネルも殺害しようと村を囲っとるらしいわい」
トールの言葉に、両親の動きが止まる。
「……はぁ?」「……あぁ?」
瞬時にロスとエルザから殺気が漏れ、村を囲んでる兵士達が怯み少し後退した。
(この大軍の兵士達がビビるって、どんだけキレてるの!?)
「族長……殺ってええんか?」 「うちの可愛いクウネルちゃんを殺すって……やだわ~おばちゃん耳が遠くなっちゃった」
村の巨人達も武器を構えて、戦闘態勢に入る。
(おじちゃん、おばちゃん達も殺る気満々だー!)
「えぇい、待てぃ! 今、儂等亜人が殺し合い戦力を減らす訳にはいかんのじゃ!」
「はぁ!? 何言ってんだよ! 親父はまだしも、クウネルを殺そうとしてる奴等だぞ?!」
(お父さんありがとう、でも何気にひどい)
「お義父さん、もうそんな悠長な事を言ってる暇は無さそうですよ!」
エルザが槍を構えながら殺気を飛ばす先には此方に向かってくる兵士達の姿があった。
「さぁ、同胞達よ!! 今こそ大罪人トールを倒し、新たな災厄をもたらす魔王を殺すのだ! 正義は我等に有り、突撃ーー!」
(てめ、このやろう! ウンポのくせに!)
ウンポの号令で、大軍か一斉に動き出した。
エルフの矢が降り注ぎ、妖精達の元素魔法がクウネル達を襲う。
「ぬうぅぅぅ! りゃあぁぁぁっ!」
トールが両手斧を回転させ、矢や魔法の雨を散らす。
「えぇい、まさか此処まで亜人達が阿呆とは思わなんだわぃっ! ロス、エルザ! クウネルを連れて逃げぃっ! 村の者は家を盾にして守備に徹しろぉっ!」
「「「おうっ!」」」
「でも、親父はどうするんだよ!」
「儂は殿を受け持つ、逃げ道は魔の森だけじゃっ! 魔の森に逃げ延びたら何とか迂回してジンネル王国に行けぃ! あの国なら、儂等を悪いようにはせんっ!」
「くそっ! わかった、エルザ! クウネル! 逃げるぞ! あいつ等は数が多すぎる。 殺り合えばいつかは此方が先に死ぬ事になるぞ!」
「はい! お義父さん、御武運を! ほら、クウネル! 逃げるわよ!!」
「お祖父ちゃんっ!? やだよっ! 一緒に逃げようよ!」
既にトールの目前には、亜人の兵士達が大挙して押し寄せている。
ドワーフの鎚を、鬼人の蹴りを、竜人の槍を両手斧や巨大な身体で受け止めて足止めをしていた。
その間にも、エルフの矢や妖精達の魔法がトールへと雨のように降り注いでいる。
「クウネルっ! 生きよ! こんな阿呆共の事は忘れて、どこかで生き延びよ! 行けえぇぇぇい!」
残りの巨人や獣人達は、逃げるクウネル達を目掛けて迫って来ている。
「ほらクウネルっ! 行くぞ!」
嫌がるクウネルをロスは担ぎ、魔の森へと走り出す。
「やだっ! やだやだやだやだっ! お祖父ちゃぁぁぁぁんっ!」
クウネルの目からはポロポロと涙が溢れ、襲われている祖父を見つめ続ける。 だんだんと、遠くなるトールの巨体が魔法や矢でボロボロになっていくのが見える。
魔族のベータも、空中で雷を兵士達に落として戦っているのが見えた。
逃げるつもりは毛頭無いのだろう、矢が身体に刺さっても問答無用で魔法を連射していた。
(どうして? 何でこんな酷い事するの!? 私が何をした? 将来何かするかもって事? だから殺すの? 魔王になるって何なのよ! そんな予定はこっちには無いよ!)
「お祖父ちゃん! お祖父ちゃぁぁぁぁぁん!」
クウネルの大好きな家族が、村が、全て壊れ始めた。




