第38話 一人目の使者来訪
自室から居間に出ると、クウネルの両親が待っていた。 そして、父ロスの手には一本の武器が握られている。
「あら! クウネル良く似合ってるじゃない。お祖父ちゃんにお礼を言うのよ?」
「はい、クウネル。 2歳の誕生日おめでとう! これは、お父さんとお母さんからのプレゼントだよ」
そう言って手渡されたのは、ハルバートだ。 持ち手が長い両手斧で、先端は槍になっており実戦向きの武器である。
(ふわ~! 確か、前世でやってたゲームでめちゃくちゃ強かった記憶が有るね。 やったー! 初武器だー! 練習用じゃなくて、本物の武器だー!)
「ありがとう、お父さんお母さん。すっごく嬉しい!」
クウネルが嬉しそうに笑うと、両親も微笑む。
「そうか、それなら良かった。お母さんと一緒に何が良いかずっと悩んで決めたんだ。 ハルバートなら父さんやお祖父ちゃんが教えた戦斧の技術も、母さんの槍術も使えると思ってね」
クウネルは手に持つハルバードを見て納得する。
「でも、クウネル忘れないで。 武器は誰かを傷つける為じゃなく、自分や誰かを守る為に振るいなさい」
母の言葉にクウネルは真剣な顔で頷き応えた。
「ん、約束する」
クウネルの返答に両親は微笑む。
「良い子ね、お母さんとの約束よ? じゃあ、そろそろお祖父ちゃんの所に行きましょうか。 使者さん達が来られる前に、準備を終わらせとかなきゃ」
「ふふ、あぁそうだな。 村の皆も集まって来てるだろうしな」
「ん! 私の初めての装備のお披露目だしね!」
鎧をガチャガチャ鳴らしながら、村の広場に三人で向かった。
今日はクウネルの初鎧のお披露目だからか、両親は私服での参加だ。 主役のクウネルが、目立つようにしてくれているのだろう。
広場が近付くと直ぐに巨大なトールが座ってるのが見え、村の巨人達も集まって皆で話をしていた様だ。
「おっ? おぉ! クウネルや、良く似合ってるぞ。 これで、一人前の戦士じゃな」
祝福するトールを皮切りに、村の巨人達もクウネルに気付いて沢山褒め始める。
「おー! クウネルちゃん、立派な鎧じゃないか! 良く似合ってるよ」
「あらまー、可愛いクウネルちゃんが鎧を着ると凛々しくなっていいわね~」
「ぐははは、族長も鼻が高いだろ。 孫が初めての狩りで飛竜を仕留め、それを鎧にするなんざ聞いた事がねぇ」
(おじちゃん、おばちゃん達が自分の子供か孫の様に私を可愛がってくれる。 大分馴れたけど……まだ照れるわー。 って……あれ?)
クウネルは喜びながら周囲を見渡し、巨人以外の亜人が誰も居ない事に気付いた。
「お祖父ちゃん、まだ使者さんは誰も来てないの?」
トールは自慢の三つ編み髭を撫でながら、腰を上げて遠くを確認する。
「ふむ? 確かに今年は皆、遅いのぉ。 む? ほれ、噂をすればじゃな。 ふっ、1人目がアヤツとは珍しいのぉ」
トールの視線の先に、魔方陣が突如として現れ宙に浮く魔法陣から1人の男が出てくる。 去年も来ていた、魔族の偉そうな使者だ。
「トール殿遅れて申し訳ない。 皆さんも遅くなりもうし……おや? 私が一番乗りですかな?」
出て来た魔族の使者は、きょとんとした顔で辺りを見回している。
「ぐぁっはぁっはっ! そうじゃ、お主が一番乗りじゃぞ。 鼻垂れベータ」
「ちょっ?! トール殿っ!! 昔の話しはお止め下さい!」
魔族の使者はトールにからかわれ、顔を赤くしながら抗議する。
(ぷぷっ。あの偉そうな使者さん大昔は鼻垂れ小僧だったのかな? あ、こっちに気づいた。 またあの目だ……憎しみを込めるような目。 私もまけじと睨み返してやる! ぐぬぬぬぬぬぬ!)
身長は既にクウネルの方が高い為、見下げるように魔族の使者を睨み返す。
「ぐぁっはぁっはっ! ほれベータ、お主の笑顔が下手くそなせいでクウネルがヘソを曲げとるぞ?」
クウネルはトールの言葉に驚愕し、目を見開く。
(え? あれ笑顔だったの?! 下手くそ過ぎじゃない?)
「くっ! クウネル嬢、失礼した。 どうも魔族は、笑顔が苦手でして……」
「魔王様はそんな事無かったがのぅ」
魔族のベータが弁明するも、直ぐにトールが意地悪な顔で口を挟む。 トールのニヤニヤしている表情を見る限り、恐らく笑顔が苦手なのはこのベータだけなのだろう。
「ちょっ、トール殿! 魔王様の話しを出すのはズルいですよ!」
「ほれ、偉そうな態度のメッキが剥がれてきとるぞ」
「……ゴホンッ! 今年も私が祝いに来てやったぞ、クウネル嬢。 2歳の誕生日を迎える事ができた事、お祝い申し上げる。 あ、その鎧と武器も良く似合ってるぞ、です」
赤面したまま口上を述べるベータを見て、クウネルは思わず笑顔になる。
(あははっ、無理にいつも通りにしようとしてむちゃくちゃな言い回しになってるじゃん。 去年は挨拶だけで嫌な印象だったけと、話したら良い人みたい。 人は見かけによらないんだねー)
その後もクウネルは、トールとベータの会話を笑顔で聞くのであった。




