第22話 諦め無くても試合終了ですよ
クウネルが子飛竜と対峙してから体感で数十分。 クウネルは緊張で骨を持つ手が汗ばんで気持ち悪いが必死に耐える。
(年頃の乙女には、汚ない骨を掴んでいるのも苦痛だよ。 でも、下手に動けないのとも事実)
子飛竜はゆっくりとクウネルの周囲を円を描くように移動している。
恐らくクウネルの隙を探っているのだろう。 クウネルが放った戦技の叩き割りが直撃した事で、警戒しているのだろう。
(どうする? こちらからまた仕掛けるべき? でも、私にはまだ圧倒的に実戦経験が足りてない。 前世の狩りの経験も今は役に立たないし……何か無いか、何か……そうだ! じーじに戦闘の事で教えられた心得が有った! なんだっけ、えっと、えーっと)
『ほーれ、見てみい喰! 祖父ちゃんのぞうさんが、ぱおーんぱおー(違う、これじゃない。これは泥酔した時の前世のお祖父ちゃんだ。 ごめんね前世のお祖父ちゃん。 まさかの初セリフが、ぱおーんで。 でも、あれは無いよ)
クウネルは要らぬ事を思い出し、少しリラックス出来た。 ある意味前世の祖父のおかげなのだが素直に感謝は出来ない。
(孫に対する宴会芸には、ちょっとセクハラ過ぎたよ。 っていうか、前世のお祖父ちゃんって呼ぶの面倒だね。 よし、今後は前爺って呼ぼう。 って、そんな事はどうでもいいんだよ! 何だっけ、じーじの心得何だっけ。 あー、思い出せない! 前爺がぱおーんぱおーんしてて、他の事が思い出せない! あー、焦れったい!)
クウネルが焦れているのが伝わったのか、子飛竜の口の中が突如として赤く光り始めた。
クウネルの耳にチリチリと嫌な音が聞こえ始め、直ぐにクウネルは子飛竜が何をしようとしているのか察知し駆け出す。
(ん?! あ、これ火炎だ! 不味い!!)
クウネルは咄嗟に近くに有った巨大な魔物の頭蓋骨の中に避難した。
「クルル…ガァアアアアアッ!」
子飛竜の口から火炎放射のような火柱が放たれ、クウネルが隠れた頭蓋骨は真っ赤な炎に包まれ猛烈な熱波がクウネルを襲う。
「ぎゃあああっ!骨越しでもあっっっちぃ!」
(確か、まだ火炎Lv1だったよねこの子?! それで、この威力なの!? あちち、あちち!! ……あれ? 追撃が来ないぞ?)
炎が消え、クウネルが頭蓋骨から顔を覗かせて見ると子飛竜は地面に向けて口の炎を咳の様に吐き出していた。
(なるへそ! 火炎を放った後は硬直が有るのか! このタイミングしか無い、踏ん張れ私!!)
クウネルは再度手に持つ骨を振り上げ、思いっきり子飛竜の頭に向けて振り下ろす。
「りゃああぁっ! お返しだー! 叩き割りぃぃっ!」
二度目の直撃で、流石の子飛竜も堪えたのか悲鳴を上げて体を怯ませた。
「クルル!? ギアァァァァッ!」
「よっしゃ! って、いったぁぁぁいっ!」
手応えを感じたクウネルに衝撃が走り、大きく吹き飛ばされる。 クウネルは何が起きたか分からずに子飛竜を見るとちょうど身体を回転し終える所だった。
(あ~、くそっ! 尻尾かっ! 痛い痛い痛い! ……でも、追撃は来ない。 向こうもダメージは負ってるんだ。 今のうちに、自分の体力を確認しとかなきゃ)
「ステータスオープン」
ステータス画面
名前 クウネル
年齢 1
職業 戦士見習い
種族 ベビージャイアント
レベル 1
HP 190/350
FP 0/20
攻撃力 160+1000
防御力 20
知力 15
速力 50
スキル 鑑定Lv2. ???? ????
魔法 無し
戦技 叩き割りLv1. 槍突きLv1
状態異常 飢餓 火傷小 負傷中
加護 ??? 巨神の愛し子
(かぁー、中々にダメージが入ってるな。 でも、私の低い防御力でも耐えれてる! まだいける!! こんな所で死んでたまるか! よし、アイツの状態も確認しとこう)
クウネルは自身のステータスを確認し、戦意を昂らせる。
(鑑定!)
ステータス画面
種族 フォレスト ベビー ワイバーン
年齢 3
レベル 5
HP 200/400
FP 20/150
攻撃力 500
防御力 90
知力 50
速力 100
スキル 竜鱗Lv1. 飛行Lv1. 火耐性Lv1. 魔物食らい
魔法 火炎Lv1
戦技 爪引っ掻きLv1. 噛み付きLv1. 尻尾回転撃Lv1
状態異常 幼体 飢餓 負傷中
(ぬぬぬぬ、やっと体力半分か。 でも、FPが残り20になってる。さっきの火炎と尻尾回転撃を使ったからだろうね。 よしよし、もうあの火炎はこないぞ。 それを知れただけで、かなり優位だ)
クウネルは呼吸を整えて、直ぐに動ける体勢を維持する。 子飛竜もダメージを負い、クウネルから一定の距離を保っていた。
(でも、まだ戦技を一回は使えるかも……油断はできない。 あ~、さっきので頭がぐらぐらして思考が纏まらない、不味い、戦闘中に集中出来ないのはとても不味い)
息がまた荒くなる、それでも距離を保っている内に落ち着かせないと待つのは死だ。
クウネルは必死に呼吸を整え、深呼吸をする。
(よし、大分落ち着いたぞ。 私にとって幸運だったのは向こうも実戦経験が少ないって事かな? 亜人殺し持って無かったし、魔物は殺ってても私みたいな亜人は何してくるかわからないから怖いのだろう。 ふふふ、怖がれ怖がれ。 時間を稼げば、それだけ助けが来る時間を稼げるからね)
子飛竜はクウネルと距離を取ったまま、飢餓による空腹から涎をだらだらと大きな口から垂らす。
(きったなーい! えーんがちょ!)
そして、クウネルと子飛竜の戦闘が始まってから数時間が経とうとする頃。 クウネルにとっての最悪な事態が起こった。
遠くの空から、はばたく翼の大きな音と聞き覚えのある鳴き声が聞こえたのだ。
(そりゃ、数時間も経てば帰って来ますよね~……子飛竜の親が。 ちくせう! 鳴き声を聞く限りまだ距離が有る筈だ。 戻ってくる前に殺って森の中にでも避難しなきゃ!)
この時のクウネルは最悪の事態に焦ってしまう。 そして、無策のまま子飛竜へと駆け寄り手に持つ骨を振り下ろした。
クウネルの攻撃が当たる瞬間、子飛竜がこれまでの動きが嘘だったかの様に素早くクウネルの攻撃を躱す。
(あ、そうだ速力が倍違うんだ! って事は今までの動きはブラフか! くそっ! 不味いっ! 焦った! どうする、爪か、尻尾か)
素早く動く子飛竜を正面に対峙出来るように必死に動き、骨を構える。
「クルル……ガアァァァァッ!」
そして、子飛竜は大きな口を開けてクウネルの左肩からお腹まで思いっきり噛み付いた。
「いっっっったぁぁぁぁぁいぃぃぃ!!!」
(この糞トカゲがぁーー! よくも乙女の柔肌に歯を立てたなぁぁぁ!)
クウネルの身体からは血が止め処無く流れ地面を赤く染める。 痛みから持っていた棍棒代わりの骨も落としてしまい、体から力が抜けていく。
遠い、何処か遠い所から父と母の悲鳴が聞こえる気がするがクウネルにはそれが幻聴なのかどうかもう分からない。
先程まで感じていた痛みは麻痺したのか、鈍く感じ酷く時間の流れがゆっくりに感じた。
(あれ? 親の飛竜の鳴き声が2つ聞こえる。 これも、幻聴かな? しかし、私の巨人生短かったなあー。 でもさ、前世ではビビりまくってた熊より怖い飛竜に立ち向かったんだよ私。 凄いよね。 あー、もう……意識が飛びそう。 ありがとう、じーじ、ママ、パパ。 私、幸せだったよ)
そして、クウネルの体からは完全に力が抜けるのであった。




