第19話 誘拐
クウネルはベットから起き上がり、背伸びをする。
外を見ると、既に日が高い事に気付き寝間着から普段着に着替えた。
(おはようございまーす。 しかし、良く寝たぁ……あれ? いつもなら、じーじの大きな笑い声でもっと早くに目が覚めるのに。 どうしたんだろ? 昨日の事で、じーじも疲れたのかな?)
「あ、ママ。 おはよー」
クウネルが寝室から居間に移動すると、エルザが朝食を作っている所だった。
「あら、おはようクウネル。 ぐっすり寝てたわね~、昨日はよっぽど疲れてたのね」
朝からのエルザの笑顔に癒されたクウネルは、父ロスの姿が無い事に気づいた。 天井を見上げると、祖父の姿も無く屋根も閉まったままだ。
「ママ、パパとじーじは?」
「じーじとパパは、村の近くの魔の森に大猪の群れが出たって近所の方から報告が来てね。 朝から、武器と鎧装備して確認しに行ったわよ~」
テーブルに付き朝食を心待ちにしながら、記憶に有る大猪を思い出す。
(へ~、大猪かぁ。 前に鬼人さんが狩ってきてくれた魔物と同じなのかな? でも、あのじーじとパパなら大丈夫か。 しかし、ママも行きたかったんだろうね~。 いつも普段着に布の服だけしか着て無いのに今日は鎧着てる。 きっと、心配性のパパにでも止められたのだろう)
「ん、わかった。すぐに帰ってくるかな?」
「んー、そうね。そろそろ帰って来てもおかしくはないけど……」
エルザとそんな他愛も無い話しをしていると、天井の開く音が居間に響く。
そして、居間に太陽の光が差した。
「あ、じーじが帰って来た」
クウネルとエルザは、同じタイミングで天井を見上げる。
「あら、じーじちょうど……クウネルッ!! 逃げなさいっ!!」
「クルルルルルルル……ガァァアアアアッ!!!」
天井を開けたのは、何時だったかトールの肩から見たデカイ飛竜だった。
「え……え?」
突然の事にクウネルがフリーズしていると。 飛竜が家の中に顔を突っ込んできた。
家の屋根や天井が軋み、窓ガラスが割れる。
「あっママ! きゃぁぁっ!?」
どうやら、狙いはクウネルのようだ。
狙われたクウネルは悲鳴を上げながらも、頭の中は冷静なのが更にクウネルを混乱させる。
飛竜の見た目は前世でいう所の、ラプトルという恐竜に酷似していた。 違う所は首と手足が長く大きな翼が背中から生えており、家を包むようにして顔を無理矢理突っ込んで来る。
大きな口を開くとナイフの様なギザギザの歯がズラリと並んでいるのが見えた。
(虫歯の無い綺麗な歯ですね~。 まぁ、そんな事考えてる場合じゃ無いんですけどね! HELPー!)
「クウネルッ!!!」
エルザが、クウネルを助ける為に素手で飛竜に殴り掛かった。
筋肉が唸りを上げ、飛竜の顔をぶん殴る。
(筋肉ムキムキのママの右スマッシュだ!)
「ガギッ?! ガァァァァァアアア!」
しかし飛竜は怯むも無傷だ。 更に家の中に手を突っ込みエルザを大きくはね飛ばした。 勢いよく吹き飛んだエルザは、そのまま家の壁と共に外へと消えて行ってしまう。
「ママっ?!」
エルザが吹き飛んだ方角を見て、クウネルは動けなくなっていた。
(どうする? 戦う? どうやって!? 訓練用の木の武器しか私まだ持ってないじゃん! それも部屋にあるし、吹き飛んだママは無事なの? 確認に行く? いや、じーじやパパが直ぐに来てくれる筈だから……あぁぁぁ、考えが纏まらない!)
突然襲われたクウネルは、パニックになり身体を動かす事が出来ない。 そして、頭の中は怖くなるぐらい思考が回転していた。
(逃げるか? 戦うか? どうする、どうする私?! ママを見捨てる!? やだ、そんなの絶対にやだやだやだ!)
ようやくクウネルは椅子から転げ落ち、エルザが吹き飛んだ方へと這って逃げようとしたが全ての判断が遅かった。
「クルルル! ガァァアッ!」
「あっ! きゃあぁっ!」
クウネルがモタモタしている間に、飛竜が足を家に突っ込みクウネルの身体を鷲掴みにして持ち上げ始めた。
(やばい、やばい、やばい!)
「じーじ! パパぁっ!! ママぁっ!」
クウネルは情けない事に、家族の名前を呼ぶ事しか出来無い。
飛竜がクウネルを掴んだまま、空へと飛び立とうとしたその直後。 エルザの槍が飛竜の太ももを貫いた。
「私の、娘を、かえ、しなさぁぁぁぁぁい!!」
身体中から血を吹き出しながら、鬼の形相のエルザが槍を投げたのだ。
しかし、飛竜は足を槍で負傷してもクウネルを掴む力は緩まなかった。
「「クウネルッ!!」」
飛竜が今度こそ大空に飛び立ち、遠くなる地面の方から声が聞こえた。
ロスとトールが凄い剣幕で走って来ていたが、飛竜のスピードには追い付けない。 どんどん引き離され、2人の姿が遠くなる。
更に高く飛び上がり、村が小さくなる頃。 クウネルは微かに聞こえた。 祖父トールの大きな声が。
「クウネルゥゥゥゥッ!! 必ず助ける!! 最後まで諦めるなぁああああ!!」
クウネルは恐怖から涙をしていたのを手で拭う。
(分かった、分かったよじーじ。 私、諦めない。 最後まで戦う。 あんな醜態は、もう晒さない! 私は誇り高き戦士、巨人だから!!)
決意を新たにクウネルは諦めないと誓うが、頭上からの翼が放つ音が煩すぎてクウネルは顔を歪めた。
「飛ぶ音うるさ!」




